第十三話 百鬼夜行
三年。
戦いに明け暮れていた日々が、まるで嘘だったかのように平和な時間が流れていた。
神有月。
今年二十の年を迎えた緋沙良とマリアは、今日、夫婦となる。
街中が祝いの旗で彩られ、
子どもたちは花びらを撒き、
老人たちは涙を流しながら笑っていた。
「本当に良かったなぁ……」
「二人なら幸せになれる。」
「これで出雲も安泰だ。」
出雲王朝の皇子。
そして熊野の巫女。
二人ほどお似合いの夫婦はいない。
誰もがそう思っていた。
誰もが今日という日を祝福していた。
……
マリアは静かに自分のお腹へ手を添える。
まだ誰にも分からないほど小さな命。
(蓮……。)
緋沙良も優しく微笑んだ。
「必ず守る。」
「お前も。」
「この子も。」
⸻
その時だった。
ドォォォォン!!
式場の大門が爆発した。
静まり返る街。
黒い煙の中から、
一人の男が拍手をしながら歩いてくる。
「いやぁ。」
「実にめでたい。」
「実に。」
「実に。」
「実にめでたい。」
老人とも青年ともつかないその男。
白い長髪。
翡翠色の瞳。
黒衣。
その左右には、
巨大な二人の鬼が静かに立っていた。
赤鬼。
青鬼。
マリアの顔から血の気が引いた。
身体が震える。
息が止まる。
「あ……。」
「あ……。」
「徐福……。」
その名を聞いた瞬間、
周囲の空気が凍りついた。
「……あれが。」
「徐福。」
緋沙良が一歩前へ出る。
「へぇ。」
「思ったより普通のおっさんじゃねぇか。」
「その場でぶっ飛ばして終わらせてやる。」
徐福は愉快そうに笑った。
「若い。」
「実に若い。」
「安心したまえ。」
「今日は君たちを殺しに来たわけではない。」
「今日は――」
両手をゆっくり広げる。
「ゲームを始めに来た。」
その瞬間だった。
バチン。
指が鳴る。
……
……
地面が揺れ始める。
井戸。
森。
川。
墓。
社。
あらゆる場所から黒い瘴気が噴き上がった。
「な……。」
「なんだ……。」
徐福は笑う。
「この三年間。」
「私は退屈していた訳ではない。」
「日本中から集めた。」
「暴れ足りない者達を。」
瘴気の中から、
次々と異形が現れる。
牛鬼。
馬頭。
鬼。
餓鬼。
飛頭蛮。
大百足。
骸骨武者。
化け蜘蛛。
巨大な蛇。
百。
いや、
それ以上。
百鬼夜行。
魑魅魍魎が街を埋め尽くした。
「さぁ。」
「百鬼夜行の始まりだ。」
「今宵は好きなだけ暴れよ。」
一斉に妖怪たちが街へ雪崩れ込む。
悲鳴。
炎。
倒壊する家屋。
出雲王が立ち上がる。
「総員!」
「民を守れ!」
「出雲革命軍、出陣!!」
戦士達が一斉に武器を取る。
緋沙良も振り返る。
「マリア。」
「お前は絶対に動くな。」
「蓮も。」
「必ず守る。」
マリアは涙を堪えながら頷いた。
その時だった。
出雲王の前へ、
静かに一人の男が歩み出る。
赤鬼。
巨大な両刃薙刀を肩へ担ぐ。
「……。」
何も喋らない。
次の瞬間。
ドンッ!!
地面が爆発した。
一瞬で間合いを詰める。
「速っ――!」
出雲王が剣を抜く。
ガガガガガガッ!!
怒涛の連撃。
出雲王も王として鍛え上げられた剣士。
しかし、
届かない。
一本も。
一本たりとも。
「馬鹿な……。」
最後に赤鬼は静かに薙刀を振るった。
シュッ。
……
……
首が宙を舞った。
出雲王の身体が、
ゆっくりと崩れ落ちる。
出雲中が静まり返る。
平和の象徴が、
たった一撃で斬られた。
緋沙良の瞳から光が消えた。
「……。」
拳が震える。
「てめぇ……。」
「何しに来やがった……。」
徐福は満面の笑みで答えた。
「決まっている。」
「神を殺しに来たのだ。」
⸻




