第十話 神有月祭
十月。
神々が出雲へ集う月。
全国から神々が姿を消すため”神無月”と呼ばれるこの季節。
だが出雲だけは違う。
ここでは”神在月”。
一年で最も神聖で、最も賑やかな季節だった。
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「よっしゃあ!!今日は神在月祭りだ!!」
朝から緋沙良は浴衣姿で大はしゃぎだった。
青地に黄色の柄が入った浴衣。
腰にはいつもの木刀。
祭りだというのに戦う気満々である。
一方マリアは、白地に淡い桃色の花柄が描かれた浴衣。
四年前とは違い、少しだけ大人びた笑顔を見せていた。
そして小次郎だけは——
今日も真っ黒な服だった。
「師匠、祭りなんだから浴衣くらい着ろよ。」
「黒が一番落ち着くんじゃ。」
「年寄りくせぇ!」
「年寄りじゃ。」
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町は人で溢れていた。
焼きそば。
たこ焼き。
綿あめ。
りんご飴。
射的。
金魚すくい。
どこを見ても屋台、屋台、屋台。
まるで町全体が祭りになっていた。
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「まずは射的だ!」
緋沙良は銃を構える。
「見とけよ。
俺が一番デカい景品を百発百中で落としてやる!」
パンッ!
……
外れた。
「……。」
もう一発。
外れた。
「……。」
三発目。
また外れた。
マリアは吹き出した。
「ふふっ。」
「貸してみて。」
パンッ。
命中。
パンッ。
命中。
パンッ。
命中。
大きな景品が三つ連続で倒れた。
「えぇぇぇぇ!?」
緋沙良が叫ぶ。
「お前、霊力使っただろ!」
「使ってないわよ。」
「絶対使った!」
「そんなことしたら神様に怒られるでしょ。」
「ぐぬぬ……。」
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祭りを歩けば、
町の人々が次々と声をかけてくる。
「緋沙良!」
「元気そうだな!」
「今年も来てくれたのか!」
「マリアちゃんも大きくなったねぇ。」
二人はいつの間にか町中の人気者になっていた。
マリアは少し照れ臭そうに笑う。
「みんな、本当に優しい人ばかりね。」
「当たり前だろ。」
「ここが俺たちの故郷だからな。」
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「次は金魚すくい対決だ!」
「神有月は禁止だからね!」
「もちろん。」
「素の勝負よ。」
「俺の圧勝だ!」
よーい。
スタート。
十秒。
二十秒。
三十秒。
「よっしゃ!」
「百匹は捕ったぞ!」
自慢げに桶を掲げる。
「マリアは?」
「うーん……
紙、すぐ破れちゃった。」
「小次郎は?」
「……。」
「聞くな。」
「もう全部すくってしまった。」
桶の中は空っぽだった。
「なんで!?」
「昔はよう遊んだからの。」
「このジジイ、強すぎるだろ!!」
⸻
「盆踊りが始まるみたい。」
マリアが広場を指差した。
「あれは絶対参加だ!」
「神在月祭りの盆踊りは日本一だからな!」
「全国の神様が集まるんだぞ!」
「パワースポット全開だ!」
「俺も全開バリバリだぁーー!!」
緋沙良は輪の中へ飛び込んだ。
誰よりも大きく。
誰よりも豪快に。
踊りというより暴れている。
「ちょ、ちょっと違う気もするけど……」
マリアは必死についていく。
覚えたての振り付けを真似しながら、
楽しそうに笑っていた。
その様子を少し離れた場所から、
小次郎は焼きスルメをかじりながら眺めていた。
静かに。
本当に静かに。
笑っていた。
(……この子たちが。)
(ずっと笑って生きられる世界なら、それで十分なんじゃがの。)
夜空には満天の星。
祭囃子はいつまでも鳴り響く。
誰もまだ知らない。
この祭りが終わる頃、
八咫烏の刺客が現れることを。
そして、
この平和な時間が、
二度と戻らないものになること。。




