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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
神崎マリア編ー出雲霊戦記ー
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第九話 朝飯前

朝。



出雲王朝。



山々に囲まれた神社の境内。



朝露が残る石畳。



鳥の囀り。



静かな空気。



その中心で。



一人の少年が拳を握っていた。



緋沙良命。


十七歳。



そして。



その前に立つ老人。



因幡小次郎。



出雲王朝近衛師団元団長。



剣。


槍。


弓。


柔術。


兵法。



武芸十八般。



全てを極めた男。



「今日こそは一本取らせてもらうぞ!」



緋沙良が拳を構える。



小次郎は顎髭を撫でた。



「取れるかのう」



「取る!」



「昨日も聞いたのう」



「今日は違う!」



「一昨日も聞いたぞい」



緋沙良は聞いていなかった。



「今日は刀なしか?」



「なしじゃ」



「よっしゃ!」



「じじい!」



「覚悟しろ!」



右目が青く光る。



『神有月』



発動。



空気が震える。



毘沙門天の霊力。



緋沙良が地面を蹴った。



一瞬で距離を詰める。



掌底。



肘打ち。



崩拳。



先日覚えた八極拳。



連撃。



連撃。



連撃。



「おらぁぁぁ!!」



直撃。



小次郎の身体が吹き飛ぶ。



五メートル。



いや。



そう見えた。



次の瞬間。



小次郎は元の場所に立っていた。



「は?」



緋沙良の顔から血の気が引く。



小次郎はため息を吐いた。



「まだまだ青二歳じゃの」



当たった瞬間。



全ての威力を流していた。



そして。



次の瞬間。



緋沙良の視界が消えた。



「え?」



顔を鷲掴みにされていた。



ドゴォォォン!!



石畳が砕ける。



「ぐはぁぁぁぁぁ!!」



頭から叩きつけられる。



「相変わらず見えねぇ!!」



だが。



緋沙良は止まらない。



叩きつけられた反動。



それを利用する。



身体を弓のようにしならせる。



そのまま跳ね起きた。



右足が半月を描く。



「反動半月斬!!」



神速のハイキック。



小次郎が首を傾げる。



「はて」



「誰の技じゃったかの」



「俺のオリジナルだ!!」



「そうかそうか」



小次郎の左腕が動く。



受け流す。



流す。



掴む。



投げる。



一連の動作が呼吸より自然だった。



次の瞬間。



緋沙良の足が空を向いていた。



「え?」



ドォォォォォン!!



地面に叩きつけられる。



しかも。



反動半月斬の勢い。



そのまま利用されていた。



「ぐはぁぁぁぁ!!」



威力五倍。



自爆だった。



「反動って怖いのう」



「うるせぇ!!」



だが。



まだ終わらない。



緋沙良が立ち上がる。



その瞬間。



小次郎の拳。



下段突き。



腹部へ。



ドォン!!



空気が震える。



瓦十五枚を砕く拳。



人間に入れていい威力ではない。



「ごっ……!!」



息が止まる。



それでも。



緋沙良は笑った。



「捕まえたぜ……!」



腕を取る。



腕ひしぎ。



関節を極める。



「折ったぁぁ!!」



小次郎は頷いた。



「じゃろうな」



そして。



前転。



それだけで外れていた。



「なんでだぁぁぁ!?」



「経験じゃ」



襟を取る。



足を払う。



身体が浮く。



「うおっ!?」



山嵐。



柔道最強の投げ技。



ドォォォォォン!!



境内が揺れた。



「ぐぇぇぇぇぇ……」



緋沙良が動かなくなる。



小次郎が見下ろした。



「どうじゃ」



「動けんか」



「じじいのくせに……」



緋沙良は空を見上げた。



「なんで素手でもそんな強いんだよ……」



小次郎は笑った。



「じじいから一本も取れんうちは」



「まだまだじゃ」



その時だった。



境内の向こうから声がする。



「朝ごはんできたよーー!!」



マリアだった。



両手を振っている。



「おっ」



緋沙良が即座に起き上がる。



「飯だ!!」



さっきまで死にかけていた男とは思えない。



小次郎は顎髭を撫でた。



そして。



小さく呟く。



「まだまだ朝飯前じゃのう」



緋沙良はもう聞いていなかった。



「焼き魚だーーー!!」



全力疾走。



「待てーー!!」



「それ俺の分だろーー!!」



「早い者勝ちじゃーー!!」



朝日が昇る。



笑い声が響く。



戦争の足音など。



まだ遠い。



今朝もまた。



出雲にはいつもの空気が流れていた。

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