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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
神崎マリア編ー出雲霊戦記ー
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第八話 飛べない少女の翼

翌朝。



神崎マリアは落ち着きがなかった。



そわそわ。



うろうろ。



そわそわ。



うろうろ。



緋沙良命は縁側でお茶を飲みながら眺めていた。



「お前」



「なによ」



「落ち着け」



「落ち着いてるわよ」



全く落ち着いていなかった。



工房の奥。



そこに鎮座している。



白と赤。



勾玉を核にした最新兵器。



ホバーバイク。



昨夜。


午前三時五十八分。



完成したばかりの試作零号機。



当然。



乗りたくて仕方がなかった。



「ちょっと試運転してくる」



「ちょっとじゃ済まねぇだろ」



「一時間」



「絶対嘘だな」



マリアは聞いていなかった。



ノエシス。



『起動確認』



『全システム正常』



『神城・霊駆』



『起動します』



青白い光。



機体が浮き上がる。



音は小さい。



まるで風そのものだった。



「すごい……」



思わず呟く。



設計したのは自分。



それでも。



実際に浮く姿を見ると。



胸が高鳴った。



「ノエシス」



『はい』



「運転方法教えて」



『説明を開始します』



ノエシスの声が少し楽しそうに聞こえた。



気のせいかもしれない。



だが。



マリアにはそう思えた。



『操縦者の霊力を認証』



『推進補助開始』



『右へ傾ければ旋回』



『空中制御は私が補助します』



「便利すぎるでしょ」



『開発者は貴方です』



「そうだった」



ホバーバイクが加速する。



一気に空へ。



出雲の街並みが小さくなった。



「わぁ……!」



思わず笑顔になる。



空を飛ぶ。



それは。



神崎マリアがずっと憧れていた景色だった。



緋沙良も。



小次郎も。



人間離れした身体能力で空を駆ける。



だが。



自分にはできない。



だから作った。



飛ぶための翼を。



その時だった。



『警告』



『索敵ドローン反応』



マリアの表情が変わる。



勾玉デバイス起動。



空中に映像が投影される。



黒づくめ。



ライダースジャケット。



大型バイク。



『距離』



『一・〇二キロ』



マリアの目が輝いた。



「近いわね」



『近いですね』



ノエシスもどこか嬉しそうだった。



「装備確認」



『完了』



「よし」



その瞬間。



ホバーバイクが急加速した。



縁側。



緋沙良。



「お、おい」



「待て」



「まさか」



風だけが通り過ぎる。



ホバーバイクはもういなかった。



緋沙良は空を見上げた。



「あーっ!」



「行きやがった!!」



数十秒後。



時速三百キロ。



背後百メートル。



黒のライダーは気配を感じた。



振り返る。



そこにいた。



白と赤。



空を飛ぶ少女。



「神崎マリア……!?」



ライダーが舌打ちする。



懐から拳銃を抜いた。



発砲。



バン!



バン!



バン!



「きゃっ!?」



『迎撃開始』



青い光。



ホバーバイク周囲に結界が展開される。



弾丸が弾かれる。



パァン!!



「なっ……!?」



ライダーの目が見開かれた。



「ちゃんと動くんだ」



『開発者は貴方です』



「そうだった」



二度目だった。



ライダーは更に加速した。



路地へ飛び込む。



小道。



商店街。



逆走。



信じられない速度。



「逃がさない!」



マリアも追う。



ホバーバイクを縦に傾ける。



普通のバイクでは通れない隙間。



強引に突破。



建物と建物の間。



数センチ。



ギリギリを駆け抜ける。



「うひゃぁぁぁぁぁ!!」



『操縦精度三十七点』



「今それ言う!?」



『事実です』



ライダーが再び発砲。



連射。



連射。



連射。



火花。



結界。



弾丸。



夜の街を光が走る。



マリアは深呼吸した。



「ノエシス」



『はい』



「自動運転任せていい?」



『もちろんです』



その声は。



少し誇らしげだった。



ホバーバイクが自律制御へ移行する。



両手が空く。



勾玉デバイス展開。



敵位置。



速度。



風向。



予測軌道。



無数の情報。



『命中率』



『九九・八パーセント』



霊光ガンを構える。



完全に背後を取った。



ロックオン。



マリアは微笑んだ。



「おやすみなさい」



発射。



青白い光。



霊光弾。



命中。



ライダーの身体から力が抜けた。



バイクが横転する。



ガードレール。



火花。



回転。



そして。



爆発。



轟音が夜に響いた。



数分後。



現場へ到着した緋沙良。



息を切らしている。



目の前には。



炎上するバイク。



ドヤ顔のマリア。



嫌な予感しかしない。



「大丈夫よ♪」



ウインク。



「死なないように作ってるから」



緋沙良は炎上する現場を見る。



マリアを見る。



また現場を見る。



「いや」



「爆発してるが!?」



「死んでないわ」



「いや爆発してるが!?」



「細かいわね」



「細かくねぇよ!!」



夜明け。



東の空が白む。



ホバーバイクの上。



マリアは空を見上げていた。



風が髪を揺らす。



静かな時間。



追跡も。



戦闘も。



今は終わっている。



「ねぇ」



『はい』



「ノエシス」



『何でしょう』



マリアは微笑んだ。



少しだけ。



本当に少しだけ。



子供みたいに。



「空って」



「こんなに近かったんだ」



ノエシスは答えなかった。



だが。



その沈黙は。



どんな言葉よりも優しかった。



飛べない少女は。



ついに翼を手に入れたのだから。

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