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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
第二章 神崎マリア編ー出雲霊戦記ー
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21/91

第八話 飛べない少女の翼

翌朝。


⸻


神崎マリアは落ち着きがなかった。


⸻


そわそわ。


⸻


うろうろ。


⸻


そわそわ。


⸻


うろうろ。


⸻


緋沙良命は縁側でお茶を飲みながら眺めていた。


⸻


「お前」


⸻


「なによ」


⸻


「落ち着け」


⸻


「落ち着いてるわよ」


⸻


全く落ち着いていなかった。


⸻


工房の奥。


⸻


そこに鎮座している。


⸻


白と赤。


⸻


勾玉を核にした最新兵器。


⸻


ホバーバイク。


⸻


昨夜。


午前三時五十八分。


⸻


完成したばかりの試作零号機。


⸻


当然。


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乗りたくて仕方がなかった。


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「ちょっと試運転してくる」


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「ちょっとじゃ済まねぇだろ」


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「一時間」


⸻


「絶対嘘だな」


⸻


マリアは聞いていなかった。


⸻


ノエシス。


⸻


『起動確認』


⸻


『全システム正常』


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『神城・霊駆』


⸻


『起動します』


⸻


青白い光。


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機体が浮き上がる。


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音は小さい。


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まるで風そのものだった。


⸻


「すごい……」


⸻


思わず呟く。


⸻


設計したのは自分。


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それでも。


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実際に浮く姿を見ると。


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胸が高鳴った。


⸻


「ノエシス」


⸻


『はい』


⸻


「運転方法教えて」


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『説明を開始します』


⸻


ノエシスの声が少し楽しそうに聞こえた。


⸻


気のせいかもしれない。


⸻


だが。


⸻


マリアにはそう思えた。


⸻


『操縦者の霊力を認証』


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『推進補助開始』


⸻


『右へ傾ければ旋回』


⸻


『空中制御は私が補助します』


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「便利すぎるでしょ」


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『開発者は貴方です』


⸻


「そうだった」


⸻


ホバーバイクが加速する。


⸻


一気に空へ。


⸻


出雲の街並みが小さくなった。


⸻


「わぁ……!」


⸻


思わず笑顔になる。


⸻


空を飛ぶ。


⸻


それは。


⸻


神崎マリアがずっと憧れていた景色だった。


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緋沙良も。


⸻


小次郎も。


⸻


人間離れした身体能力で空を駆ける。


⸻


だが。


⸻


自分にはできない。


⸻


だから作った。


⸻


飛ぶための翼を。


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その時だった。


⸻


『警告』


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『索敵ドローン反応』


⸻


マリアの表情が変わる。


⸻


勾玉デバイス起動。


⸻


空中に映像が投影される。


⸻


黒づくめ。


⸻


ライダースジャケット。


⸻


大型バイク。


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『距離』


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『一・〇二キロ』


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マリアの目が輝いた。


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「近いわね」


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『近いですね』


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ノエシスもどこか嬉しそうだった。


⸻


「装備確認」


⸻


『完了』


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「よし」


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その瞬間。


⸻


ホバーバイクが急加速した。


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縁側。


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緋沙良。


⸻


「お、おい」


⸻


「待て」


⸻


「まさか」


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風だけが通り過ぎる。


⸻


ホバーバイクはもういなかった。


⸻


緋沙良は空を見上げた。


⸻


「あーっ!」


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「行きやがった!!」


⸻


数十秒後。


⸻


時速三百キロ。


⸻


背後百メートル。


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黒のライダーは気配を感じた。


⸻


振り返る。


⸻


そこにいた。


⸻


白と赤。


⸻


空を飛ぶ少女。


⸻


「神崎マリア……!?」


⸻


ライダーが舌打ちする。


⸻


懐から拳銃を抜いた。


⸻


発砲。


⸻


バン!


⸻


バン!


⸻


バン!


⸻


「きゃっ!?」


⸻


『迎撃開始』


⸻


青い光。


⸻


ホバーバイク周囲に結界が展開される。


⸻


弾丸が弾かれる。


⸻


パァン!!


⸻


「なっ……!?」


⸻


ライダーの目が見開かれた。


⸻


「ちゃんと動くんだ」


⸻


『開発者は貴方です』


⸻


「そうだった」


⸻


二度目だった。


⸻


ライダーは更に加速した。


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路地へ飛び込む。


⸻


小道。


⸻


商店街。


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逆走。


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信じられない速度。


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「逃がさない!」


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マリアも追う。


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ホバーバイクを縦に傾ける。


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普通のバイクでは通れない隙間。


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強引に突破。


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建物と建物の間。


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数センチ。


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ギリギリを駆け抜ける。


⸻


「うひゃぁぁぁぁぁ!!」


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『操縦精度三十七点』


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「今それ言う!?」


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『事実です』


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ライダーが再び発砲。


⸻


連射。


⸻


連射。


⸻


連射。


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火花。


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結界。


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弾丸。


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夜の街を光が走る。


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マリアは深呼吸した。


⸻


「ノエシス」


⸻


『はい』


⸻


「自動運転任せていい?」


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『もちろんです』


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その声は。


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少し誇らしげだった。


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ホバーバイクが自律制御へ移行する。


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両手が空く。


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勾玉デバイス展開。


⸻


敵位置。


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速度。


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風向。


⸻


予測軌道。


⸻


無数の情報。


⸻


『命中率』


⸻


『九九・八パーセント』


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霊光ガンを構える。


⸻


完全に背後を取った。


⸻


ロックオン。


⸻


マリアは微笑んだ。


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「おやすみなさい」


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発射。


⸻


青白い光。


⸻


霊光弾。


⸻


命中。


⸻


ライダーの身体から力が抜けた。


⸻


バイクが横転する。


⸻


ガードレール。


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火花。


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回転。


⸻


そして。


⸻


爆発。


⸻


轟音が夜に響いた。


⸻


数分後。


⸻


現場へ到着した緋沙良。


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息を切らしている。


⸻


目の前には。


⸻


炎上するバイク。


⸻


ドヤ顔のマリア。


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嫌な予感しかしない。


⸻


「大丈夫よ♪」


⸻


ウインク。


⸻


「死なないように作ってるから」


⸻


緋沙良は炎上する現場を見る。


⸻


マリアを見る。


⸻


また現場を見る。


⸻


「いや」


⸻


「爆発してるが!?」


⸻


「死んでないわ」


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「いや爆発してるが!?」


⸻


「細かいわね」


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「細かくねぇよ!!」


⸻


夜明け。


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東の空が白む。


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ホバーバイクの上。


⸻


マリアは空を見上げていた。


⸻


風が髪を揺らす。


⸻


静かな時間。


⸻


追跡も。


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戦闘も。


⸻


今は終わっている。


⸻


「ねぇ」


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『はい』


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「ノエシス」


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『何でしょう』


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マリアは微笑んだ。


⸻


少しだけ。


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本当に少しだけ。


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子供みたいに。


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「空って」


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「こんなに近かったんだ」


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ノエシスは答えなかった。


⸻


だが。


⸻


その沈黙は。


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どんな言葉よりも優しかった。


⸻


飛べない少女は。


⸻


ついに翼を手に入れたのだから。

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