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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
神崎マリア編ー出雲霊戦記ー
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20/22

第七話 午前三時の工房

夜は静かだった。


出雲王朝。


山々に囲まれた古い屋敷。


虫の声だけが響く深夜。



だが。


その静寂を拒絶するように。


一室だけが明るかった。



カチャ。


カチャ。


カチャ。



工具の音。


半田ごての熱。


青白い光。



机の上には部品が散乱している。


金属。


霊符。


配線。


設計図。


そして――


八尺瓊勾玉。



普通の人間が見れば。


まるで子供の工作机だった。



だが。


神崎マリアにとっては違う。



ここは戦場だった。



「んー……」



小さく唸る。



白と赤のサイバー巫女服。


長く伸ばした髪を後ろで束ね。


工具を片手に基板を睨んでいる。



十七歳。



神崎マリア。



出雲王朝最高の霊能者。


そして――


誰も知らない天才工学者。



『構造欠陥を検出』



少女の横で。


勾玉が淡く輝く。



『左側フレーム強度不足』



「わかってるわよ」



即答。



「今やってるんだから」



『三時間前も同じ回答でした』



「ノエシス」



『はい』



「黙って」



『了解しました』



数秒後。



『しかし黙ることは推奨できません』



「黙って!!」



夜の工房に叫び声が響いた。



ガラッ。



障子が開く。



「お前また起きてんのか」



聞き慣れた声。



緋沙良命だった。



寝癖だらけ。


欠伸をしている。



午前三時。



普通なら寝ている時間。



だが。


この屋敷には例外が二人いた。



マリア。


そして。


ノエシス。



「あと少し」



「昨日も聞いたぞ」



「今日は本当にあと少し」



「一昨日も聞いた」



「今日は本当に本当」



緋沙良はため息を吐いた。



「で」



机を見る。



「今度は何作ってんだ」



マリアの顔が輝いた。



その瞬間。


緋沙良は理解した。



また始まる。



説明が。



「聞いて驚きなさい」



聞かなくても始まる。



マリアは布を取った。



そこにあったのは。


一丁の銃だった。



白。


赤。


銀。



神社の装飾を思わせる美しい意匠。



しかし形状は完全に未来兵器だった。



「霊光ガン」



誇らしげに言う。



「最新版よ」



『性能向上率三十七パーセント』



ノエシスが補足する。



「へぇ」



緋沙良は興味なさそうに言った。



マリアは無視した。



「これはね」



銃身を撫でる。



「私の霊力を弾倉に蓄積して撃つの」



「弾は?」



「ない」



「銃なのに?」



「ない」



「じゃあ何撃つんだ」



マリアは微笑んだ。



「魂」



静かな言葉だった。



「正確には霊体と気力」



「五キロ先まで届く」



「相手は死なない」



「でも戦えなくなる」



緋沙良は少しだけ眉を上げた。



それは。


殺すための武器ではない。



止めるための武器だった。



いかにもマリアらしい。



次。



「それとこれ」



今度は腕輪を持ち上げる。



勾玉を中心に組まれた銀色の装置。



起動。



空中に光が浮かんだ。



地図。


映像。


数値。


通信ログ。



まるで未来都市の司令室。



「うおっ」



さすがに緋沙良も驚く。



『勾玉デバイス』



ノエシスが説明する。



『映像共有』


『通信』


『索敵』


『戦術支援』



「私とノエシスの会話も共有できるわ」



「未来かよ」



「未来よ」



即答だった。



さらに窓が開く。



白い光。



小型ドローンが夜空へ飛び立つ。



羽音はない。



静かに。


鳥のように。



山の向こうへ消えていく。



『周辺半径三キロ』



『異常なし』



「見張り役」



マリアが言う。



「八咫烏が近付いたら教えてくれる」



「便利だな」



「便利でしょ?」



少し得意げだった。



緋沙良は笑う。



本当に。


この少女は何でも作る。



思いついたものを。


本当に作ってしまう。



人類の限界など。


最初から存在しないみたいに。



ふと。


足元を見る。



ブーツ。



見慣れた黒いブーツ。



マリアが補強材を打ち込んでいる。



「また壊れたの?」



「誰のせいだと思ってるの」



「知らん」



「知りなさい」



即答だった。



「何メートルから飛び降りたの」



「覚えてない」



「覚えなさい!!」



屋敷中に声が響いた。



「普通の人は飛ばないの!」



「着地できたぞ」



「そういう問題じゃない!!」



ノエシス。



『マリアの意見を支持します』



「お前はどっちの味方だ」



『マリアです』



即答。



緋沙良は肩をすくめた。



そして。



工房の奥。



大きな布が掛かっている。



「で」



緋沙良は指差した。



「あれは何だ」



マリアが黙る。



そして。



ゆっくり笑った。



その笑みを見た瞬間。



嫌な予感しかしなかった。



布が落ちる。



現れたのは――



白。


赤。


青。



勾玉を核にした巨大な機体。



神社の意匠を持ちながら。


未来そのものの姿。



ホバーバイク。



『試作零号機』



ノエシスが告げる。



緋沙良は頭を抱えた。



「お前またとんでもねぇもん作ったな」



マリアは機体を見上げた。



静かに。



少しだけ寂しそうに。



そして。


微笑んだ。



「だって私」



その声は小さかった。



「飛べないもの」



緋沙良は言葉を失う。



彼は飛べる。



小次郎も飛べる。



人間離れした身体能力で。



だが。



神崎マリアは違う。



戦場を駆ける才能はない。



怪物にもなれない。



だから。



考える。



作る。



積み上げる。



知恵で届く場所まで。



誰よりも遠くへ。



窓の外。



夜明けが近付いていた。



東の空が。


少しだけ白む。



ノエシスが静かに告げる。



『現在時刻』



『午前三時五十八分』



マリアは固まった。



「え?」



『三時間前にも同じ反応を確認しています』



「うそ」



『事実です』



「うそぉぉぉぉぉっ!?」



出雲の夜に。


少女の悲鳴が響いた。



その日もまた。


神崎マリアは徹夜だった。

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