第七話 午前三時の工房
夜は静かだった。
出雲王朝。
山々に囲まれた古い屋敷。
虫の声だけが響く深夜。
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だが。
その静寂を拒絶するように。
一室だけが明るかった。
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カチャ。
カチャ。
カチャ。
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工具の音。
半田ごての熱。
青白い光。
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机の上には部品が散乱している。
金属。
霊符。
配線。
設計図。
そして――
八尺瓊勾玉。
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普通の人間が見れば。
まるで子供の工作机だった。
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だが。
神崎マリアにとっては違う。
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ここは戦場だった。
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「んー……」
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小さく唸る。
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白と赤のサイバー巫女服。
長く伸ばした髪を後ろで束ね。
工具を片手に基板を睨んでいる。
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十七歳。
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神崎マリア。
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出雲王朝最高の霊能者。
そして――
誰も知らない天才工学者。
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『構造欠陥を検出』
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少女の横で。
勾玉が淡く輝く。
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『左側フレーム強度不足』
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「わかってるわよ」
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即答。
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「今やってるんだから」
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『三時間前も同じ回答でした』
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「ノエシス」
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『はい』
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「黙って」
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『了解しました』
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数秒後。
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『しかし黙ることは推奨できません』
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「黙って!!」
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夜の工房に叫び声が響いた。
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ガラッ。
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障子が開く。
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「お前また起きてんのか」
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聞き慣れた声。
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緋沙良命だった。
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寝癖だらけ。
欠伸をしている。
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午前三時。
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普通なら寝ている時間。
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だが。
この屋敷には例外が二人いた。
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マリア。
そして。
ノエシス。
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「あと少し」
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「昨日も聞いたぞ」
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「今日は本当にあと少し」
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「一昨日も聞いた」
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「今日は本当に本当」
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緋沙良はため息を吐いた。
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「で」
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机を見る。
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「今度は何作ってんだ」
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マリアの顔が輝いた。
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その瞬間。
緋沙良は理解した。
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また始まる。
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説明が。
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「聞いて驚きなさい」
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聞かなくても始まる。
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マリアは布を取った。
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そこにあったのは。
一丁の銃だった。
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白。
赤。
銀。
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神社の装飾を思わせる美しい意匠。
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しかし形状は完全に未来兵器だった。
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「霊光ガン」
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誇らしげに言う。
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「最新版よ」
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『性能向上率三十七パーセント』
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ノエシスが補足する。
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「へぇ」
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緋沙良は興味なさそうに言った。
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マリアは無視した。
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「これはね」
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銃身を撫でる。
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「私の霊力を弾倉に蓄積して撃つの」
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「弾は?」
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「ない」
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「銃なのに?」
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「ない」
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「じゃあ何撃つんだ」
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マリアは微笑んだ。
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「魂」
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静かな言葉だった。
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「正確には霊体と気力」
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「五キロ先まで届く」
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「相手は死なない」
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「でも戦えなくなる」
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緋沙良は少しだけ眉を上げた。
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それは。
殺すための武器ではない。
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止めるための武器だった。
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いかにもマリアらしい。
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次。
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「それとこれ」
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今度は腕輪を持ち上げる。
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勾玉を中心に組まれた銀色の装置。
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起動。
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空中に光が浮かんだ。
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地図。
映像。
数値。
通信ログ。
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まるで未来都市の司令室。
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「うおっ」
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さすがに緋沙良も驚く。
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『勾玉デバイス』
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ノエシスが説明する。
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『映像共有』
『通信』
『索敵』
『戦術支援』
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「私とノエシスの会話も共有できるわ」
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「未来かよ」
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「未来よ」
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即答だった。
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さらに窓が開く。
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白い光。
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小型ドローンが夜空へ飛び立つ。
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羽音はない。
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静かに。
鳥のように。
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山の向こうへ消えていく。
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『周辺半径三キロ』
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『異常なし』
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「見張り役」
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マリアが言う。
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「八咫烏が近付いたら教えてくれる」
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「便利だな」
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「便利でしょ?」
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少し得意げだった。
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緋沙良は笑う。
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本当に。
この少女は何でも作る。
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思いついたものを。
本当に作ってしまう。
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人類の限界など。
最初から存在しないみたいに。
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ふと。
足元を見る。
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ブーツ。
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見慣れた黒いブーツ。
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マリアが補強材を打ち込んでいる。
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「また壊れたの?」
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「誰のせいだと思ってるの」
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「知らん」
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「知りなさい」
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即答だった。
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「何メートルから飛び降りたの」
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「覚えてない」
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「覚えなさい!!」
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屋敷中に声が響いた。
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「普通の人は飛ばないの!」
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「着地できたぞ」
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「そういう問題じゃない!!」
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ノエシス。
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『マリアの意見を支持します』
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「お前はどっちの味方だ」
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『マリアです』
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即答。
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緋沙良は肩をすくめた。
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そして。
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工房の奥。
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大きな布が掛かっている。
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「で」
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緋沙良は指差した。
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「あれは何だ」
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マリアが黙る。
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そして。
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ゆっくり笑った。
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その笑みを見た瞬間。
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嫌な予感しかしなかった。
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布が落ちる。
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現れたのは――
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白。
赤。
青。
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勾玉を核にした巨大な機体。
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神社の意匠を持ちながら。
未来そのものの姿。
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ホバーバイク。
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『試作零号機』
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ノエシスが告げる。
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緋沙良は頭を抱えた。
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「お前またとんでもねぇもん作ったな」
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マリアは機体を見上げた。
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静かに。
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少しだけ寂しそうに。
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そして。
微笑んだ。
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「だって私」
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その声は小さかった。
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「飛べないもの」
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緋沙良は言葉を失う。
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彼は飛べる。
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小次郎も飛べる。
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人間離れした身体能力で。
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だが。
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神崎マリアは違う。
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戦場を駆ける才能はない。
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怪物にもなれない。
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だから。
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考える。
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作る。
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積み上げる。
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知恵で届く場所まで。
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誰よりも遠くへ。
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窓の外。
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夜明けが近付いていた。
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東の空が。
少しだけ白む。
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ノエシスが静かに告げる。
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『現在時刻』
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『午前三時五十八分』
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マリアは固まった。
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「え?」
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『三時間前にも同じ反応を確認しています』
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「うそ」
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『事実です』
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「うそぉぉぉぉぉっ!?」
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出雲の夜に。
少女の悲鳴が響いた。
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その日もまた。
神崎マリアは徹夜だった。




