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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
NOESIS覚醒編
13/18

第十三話  母の声


夜が明けようとしていた。


東の空が僅かに白み始めている。


だが。


神崎蓮の胸には奇妙な違和感が残っていた。



平将門。



天城煌から聞かされた話。


怨霊王。


落武者の軍勢。


そして。


世界の裏側で動き始めた何か。



蓮は空を見上げた。


右目が微かに青く光る。


NOESISは観測を続けていた。


だが。


何かが足りない。



情報がない。



まるで重要なページだけが破り取られているようだった。



「母さん……」



その名を呟く。


神崎マリア。


NOESIS開発者。


そして。


既にこの世にいない人。



「神崎くん」



声がした。


月乃瀬澄華だった。



「準備はできた?」



白いワンピース。


朝の光を受けて静かに微笑んでいる。



「本当に会えるのかな」



蓮が言う。



「分からない」



澄華は首を振った。



「でも、伝説の巫女様なら何か知っていると思う」



東北地方。


山奥だった。



舗装された道路は途中で消える。


獣道のような細い山道。


木々の隙間から射し込む朝日。



「こんな所に人が住んでるのかよ」



因幡剛が呆れたように言う。



「おれなら三日で遭難するぞ」



「二日だろ」



天城煌が笑う。



「やかましい!」



少しだけ空気が和らぐ。



だが。


澄華だけは真剣だった。



「もうすぐよ」



その言葉と同時に。


森が開けた。



古い家が一軒。



鳥居もない。


神社でもない。


寺でもない。



ただ。


そこに在る。



そんな家だった。





縁側に一人の老婆が座っていた。


90歳は越えているであろう。


小柄な身体。


深い皺。


だが。


とても穏やかな顔をした老婆だった。



「来たかい」



老婆は言った。



「神崎マリアの息子」



蓮の身体が強張る。



初対面だった。



名前も言っていない。



だが。


老婆は知っていた。



「お前さんを待っていたよ」





伝説の巫女さま。



それが人々の呼び名だった。



死者の声を聞く者。


魂を繋ぐ者。



現代では忘れ去られた存在。



だが。


確かに存在する。



「聞きたいことがあるんだろう?」



蓮は頷く。



「NOESISについて」



「母さんについて」



「全部だ」



老婆は目を閉じた。



静寂。



風が吹く。



木々が揺れる。



鳥の声が消える。



世界が息を止める。





そして。



空気が変わった。



柔らかく。


優しく。


どこか懐かしい。



蓮の心臓が跳ねた。



知っている。



会ったことはない。



だが。


知っている。



忘れるはずがない。



「……蓮」



声がした。



涙が出そうになる。



その声を。


蓮は知っていた。



「母さん……?」



おがみさまの口が動く。


だが。


聞こえてくる声は別だった。



優しく。


暖かく。


懐かしい。



神崎マリア。



その人の声だった。



「蓮」



「突然のことで驚いたでしょう」



微笑むような声。



「でもね」



「母さんには」



「どうしても伝えなければならないことがあるの」



蓮は言葉を失う。



澄華も。


煌も。


剛も。


黙っていた。



ただ一人。


神崎マリアだけが語り始める。



「NOESISについて」



「あなたのお父さんについて」



「八尺瓊勾玉について」



「そして――」



少しだけ間が空く。



「25年前の話を」



風が吹いた。



木々が揺れる。



遠い記憶の扉が開く。



神崎マリアの瞳が。


ゆっくりと過去を見つめた。



「――あれは」



「母さんが十三歳だった頃の話」





熊野大宮。



八尺瓊勾玉を祀る神社。



まだ。


世界が壊れる前の物語。



まだ。


徐福という男が現れる前の物語。



そして。



全ての始まり。



NOESISの神話。



神崎マリアの物語。



第一章


NOESIS覚醒編


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