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NOESISーノエシスー  作者: 月乃瀬
NOESIS覚醒編
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12/19

第十二話 怨霊王

夜はまだ終わっていなかった。


繁華街。


眠らない街。


ネオンが照らす通り。


人々は笑い。


語り。


今日という日を終えようとしていた。



その片隅にある小さなジャズ喫茶。



静かなピアノの音が流れている。



鍵盤を弾いていたのは一人の少年だった。



天城煌。



銀紫の髪。


端正な横顔。


長い指先が鍵盤の上を滑る。



激しい。


だが乱暴ではない。



まるで剣を振るうように。



音が生まれる。



客たちは言葉を失っていた。



誰も話さない。


ただ聴いている。



一音。



また一音。



その旋律は。


どこか懐かしかった。



煌はふと思う。



忘れたい記憶ほど。


人は忘れられない。



幼い頃。



天城家。



父。


母。


家臣たち。



賑やかな食卓。


笑い声。



あの日までは。



――敵襲!!



悲鳴。


炎。



燃え上がる屋敷。



「煌様をお守りしろ!!」



「何があっても生き延びてください!」



血。


剣。


叫び声。



そして。



炎の向こうに立つ巨大な影。



煌は目を閉じる。



記憶を振り払うように。



最後の和音が響いた。



拍手。



煌は軽く頭を下げる。



「ありがとう」



それだけ言って店を出た。



夜風が吹く。



嫌な予感がした。





人通りの多い通り。



そこに異様な集団がいた。



鎧。


刀。


乱れた髪。



落武者。



一人。


二人。


三人。



十。


二十。


三十。



五十。



周囲の人々は笑う。



「撮影か?」



「何のイベントだよ」



誰も気付いていない。



人ではない。



怨霊だ。



煌の表情が変わる。



「……平家?」



息を呑む。



見間違えるはずがない。



あの日。



天城家を襲った軍勢と同じ気配。





一人の会社員が肩をぶつけた。



「いてぇな!」



振り返る。



次の瞬間。



刀が腹を貫いた。



悲鳴。



逃げ惑う人々。



そして。



落武者達が呟く。



「祇園精舎の鐘の声……」



「諸行無常の響きあり……」



死者の詩。



平家物語。





煌は息を吐いた。



「なるほど」



「緊急事態か」



怨霊達が襲いかかる。



五十体。



常人なら絶望。



だが。



煌は冷静だった。



「この程度なら」



肩を回す。



「四割で足りるな」





次の瞬間。



消えた。



轟音。



一体。


二体。


三体。



鎧ごと吹き飛ぶ。



拳。


蹴り。


肘。


膝。



圧倒的な身体能力。



神話。



それだけだった。



五十体。



三分もかからない。





だが。



終わらなかった。



闇の奥。



そこにいた。



巨大な武者。



他の怨霊とは格が違う。



空気が重い。



戦場そのもの。



煌の鼓動が止まる。



その姿を。



煌は知っていた。





「そんな……」



拳を握る。



「平将門……!!」



武者が笑う。



「我は平将門」



世界が震える。



「地獄より帰還せし怨霊王なり」





将門の目が煌を捉える。



そして。



僅かに笑った。



「ほう」



「天城の血がまだ残っておったか」



煌の顔色が変わる。



やはり知っている。





将門はさらに笑う。



「草薙の剣」



「まだ失われてはおらぬようだな」





炎。



悲鳴。



焼け落ちる屋敷。



幼い自分。



隠し部屋。



そして。



千の兵。



記憶が蘇る。





将門は周囲を見る。



消えた軍勢。



そして笑う。



「今宵は兵が足りぬ」



夜風が吹く。



「次は千を率いて参ろう」



煌の瞳が揺れた。



千。



その数字だけで。



あの日が蘇る。





「首を洗って待っておれ」



将門は闇へ消えた。





煌は追わなかった。



追えなかった。



生まれて初めて。



理解した。



勝てるか分からない相手がいる。



そして。



忘れたことのない相手がいる。





遠くで雷が鳴った。



それは。



怨霊戦争の始まりを告げる音だった。




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