調査開始
「なら、契約成立だ」
ゴルダが大きく息を吐いた。
「……助かる」
「では、川の向こうを調査してくる。それでいいな?」
「ああ、それで構わん」
「一つ確認だが……俺は冒険者登録をしていない。問題ないか?」
「いや、登録はしてもらう」
即答だった。
「手続きは本人確認用の魔紋を取るだけだ。スキルの開示も仕事の斡旋が不要なら必要ない」
「……強制依頼などは?」
「しない、ギルド法がある。たとえ王でも無理強いはできん」
「なら登録しよう」
最高のチーズとエールのためだ。
これくらいの労働なら前菜代わりにちょうどいいだろう。
ミアがどこからか持ってきた大きな魔石玉をテーブルに置く。
「こちらに手を」
俺は魔石玉に手を乗せた。
鈍い光を放つ。
「ありがとうございます、魔紋はOKですね。カードをお作りします。お名前は?」
ミアは小さなカードを取り出した。
「ウェイトリー・ブラムス」
「はい、ウェイトリー・ブラムス様っと……ご職業は?」
ペンで書きながら訊ねてくる。
「――魔術師だ」
* * *
チスパと森へ向かう。
地図にあった橋のある場所へ向かう。
ゴブリンと交戦中の冒険者たちと鉢合わせた。
俺はチスパを離れた場所にくくり、防御結界を張った。
「ゴブリン程度じゃこの結界は壊せない。安心しろ」
チスパの首を撫で、俺は冒険者たちのもとへ近づく。
ゴブリンは約二十。対する冒険者は剣士の男、弓使いの男、魔術師の女のパーティーだった。
「押されてるな……」
金髪の剣士が叫ぶ。
「リズ! もっと離れろ!」
リズという魔術師が詠唱をしようとするが、ゴブリンに邪魔され、思うように魔術が発動できないでいる。
「で、でも……!」
『ギャッ⁉』
矢がリズの後ろから迫っていたゴブリンの頭部を貫く。
「きゃあっ⁉」
「はやく下がれ!」
叫んだのは一人木の上にいる弓使いだった。
背負った矢筒の矢は残りわずかだ。
「ハリー! お前もだ! リズを頼む!」
金髪の剣士の言葉に、ハリーは顔をゆがめる。
が、指示に従い木を降り始めた。
「……ファイア!」
リズがどうにか放った魔術は一瞬、大きな炎を見せたが、牽制程度にしかならなかった。
「そ、そんなぁ……」
杖を持つ手が震えている。
「リズ! こっちだ!」
ハリーがリズの手を引く。
「ヒューゴ! だ、だめ……ヒューゴぉっ……!」
ハリーはリズを無理やり引っ張っていく。
あの金髪、退く気がないな。
『ギャッギャッギャッ!』
『ギャギャ!』
ゴブリン達がヒューゴという剣士を囲み、嘲笑を始めた。
彼らは自分たちより弱い者をいたぶる習性がある。
このままなら、ヒューゴは長い時間をかけて嬲り殺しにされるだろう。
「クソッ! 小鬼どもが……ぶっ殺してやる!」
剣を構え、飛びかかってくる小鬼を斬り払っていく。
新人の割に、悪くない動きだ。
だが、そろそろ限界だろうな。
『グギァャッ!』
「あぐぁっ⁉」
小鬼の一体がヒューゴの足に噛みついた。
それを合図に小鬼たちが群がっていく。
「くっ……クソがぁっ!」
「ヒューゴ!」
悲痛な表情でリズを抱き留めるハリー。
「任せておけ」
俺は二人の横を通り、ヒューゴの元へ向かう。
「⁉」
「あ、あなたは……⁉」
「通りすがりの魔術師さ――」
俺は歩きながら、下げた両手の平を小鬼たちに向けた。
『――集団挑発』
小鬼たちが一斉に俺を見た。
『『ギャギャギャ!!』』
『ギャーッギャッ!』
地面に棍棒を叩きつけたり、その場で飛び跳ねたりして、俺に怒りを向けた。
最初の一体が駆け出すと、残りもそれに続いた。
俺は左手を高く上げ、小鬼たちの足元を照らすように手の平を向ける。
『――泥沼』
『ギャッ⁉』
『ギャギャッ⁉』
魔術の沼に足を取られた小鬼たちが、必死に逃げ出そうとする。
「もう遅い」
小鬼たちに右手を伸ばし、手の平を上に返すと同時に、人さし指と中指を持ち上げるように立てた。
『――黒鉄の茨!』
魔力の沼から漆黒の茨が発生し、次の瞬間、その棘が小鬼たちを貫く。
『ガギャッ⁉』
『グギィッ‼』
短い断末魔をあげ、小鬼たちが全滅した。
「な……あ、歩きながら……?」
リズが漏らすように言った。
呆然と俺を見上げるヒューゴの元へ向かう。
「生きてるか?」
「あ、あなたは……」
「怪我がひどいな。見せてみろ」
致命傷はないが、血を流しすぎている。
俺はヒューゴのマントを引き裂いて、腕と足を縛る。
「うぐっ……‼」
「痛むか? 我慢しろ」
止血はこれでいい。
「近くに……馬車が……」
「ヒューゴ!」
リズが駆け寄ってきた。
「リズ……」
ハリーが手を離した瞬間、リズが駆け出した。
「ヒューゴ! もう、バカッ!」
泣きながらヒューゴの顔を抱きしめている。
そういう関係なのだろう。
「本当に助かりました、ギルドの方でしょうか……?」
ハリーという弓使いが俺に言った。
「いや、偶然だよ。それよりも急いだ方がいいぞ」
ヒューゴの方を顎でしゃくる。
「は、はいっ! 私たちは『青い翼』というパーティーです。このお礼は必ず!」
勢いよく頭を下げると、ハリーはふたりを連れて街の方へ向かった。
俺は三人の背中を見送り、森へ向き直った。
――この場所で、あの数。
これは思ったより、時間がないかもな……。




