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16,545回処刑され続けた魔人ですが、別世界で気ままなグルメ旅を始めます  作者: 雉子鳥幸太郎


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小鬼の森

橋は頑丈そうな石造りのアーチ橋だった。

これだけ広いと、小鬼たちが一斉に雪崩れ込んだ場合も考えておく必要があるな……。


橋の向こうには街道が続いている。

たしか、地図では森の先にあるイグレシオ公国との国境に繋がっていた。


あまり国交が盛んではないのだろうか……。

その辺の事情がわからないが、ゴルダが口にしなかったということは、援軍の当ては望めないのだろう。


ここからは姿を消していく――。


『――隠密(アサシンズ・ヴェイル)


上位魔獣ならともかく、小鬼レベルでは俺を察知することはできない。


橋を渡り、向こう側へ移る。


街道を進むと、森へ続く横道がいくつかあった。

ほとんどが獣道で、人が使っているようには見えなかった。


『ギギ……』


遠くで小鬼の声がした。

声の聞こえた方に続く獣道に入る。


奥へ進んでいくと、開けた場所に出た。

崖の岩肌には洞窟があり、入り口に篝火が置かれている。


さっそくか……。

見張りが三体。出入りしているのは……五、六体といったところ。


「……妙だな」


視線を細める。

動きに無駄がない……。

巡回の間隔、立ち位置、入れ替わり。


ただの群れにしては、統率が取れすぎている。

違和感を覚えつつ、俺はその場を離れた。


さらに、森の奥へと進む。


すると、五分もしないうちに、大木を中心とした集落を見つけた。

ここはかなり多いな……。ざっと見ただけでも五十体はいる。

その中には、ゴブリンメイジの姿もあった。


……メイジまでいるのかよ。

数で来られたら、街じゃ受けきれんぞ。


思わず舌打ちが出る。


数が多いだけじゃない。

役割が分かれてやがる。


見張り、運搬、待機。

それぞれに迷いがなかった。


「……」


さらに観察を続けると、木陰に一際大きな個体が立っているのが見えた。

他の小鬼より頭一つ分は大きく、その周囲だけ、わずかに空間が空いている。


ホブゴブリンか……。


あれがいる時点で、群れとしては十分すぎる規模だが……。


「これだけじゃなさそうだ」


そっと集落を離れ、逆側に向かってみる。

逆側の森の中にも、小さな巣と同規模の集落が点在していた。


巣が七、集落が三か……。


数自体は、想定より少ない。


だが、配置が妙だ。

奥側に集落があり、小さい巣を川向こうへ流す形になっているように思える。


……本丸は別だな。


そのときだった。


一体の小鬼が食料を持って、岩陰に向かっていた。

集落とは反対方向だ……どこに向かっている?


俺はそっと後をつけた。


小鬼は何度も立ち止まっては、キョロキョロと周りを警戒していた。

そして、木の枝で巧妙に隠された扉の前で足を止めた。


「あんなところに……」


音を殺して後を追う。


中は細いトンネルだった。

奥から、ざわざわとした騒ぎ声が聞こえる。


足を進めると、空気が変わった。

この糞尿と獣の体臭が混ざったような臭い……。


「……当たりか」


足早に進み、出口の手前で止まる。

壁に背をつけ、慎重に外を覗いた。


「……っ」

思わず息を呑む。


そこは、巨大な窪地だった。

岩肌には無数の風穴が空き、そこから小鬼たちが出入りしている。


まるで蟻塚だ。


数が違う。

数十どころじゃない。軽く見積もっても――数百。

いや、千以上か……。


「……はは」

乾いた笑いが漏れる。


さらに目を凝らした。

下の広場では、小鬼たちが列を作り、何かを運んでいる。

争う様子はなく、完全に統制されていた。


「……誰かがまとめている」


視線を奥へ滑らせる。


窪地の中央。

他より一段高くなった岩の上に――座があった。


骨や布で飾られた、粗末な玉座。


その周囲だけ、空気が違う。

近づく個体が、自然と距離を取っていた。


「……マジかよ」


他よりも何倍も大きい、腹の出た歪な体躯。

鈍い光を宿した眼。


そして、その周囲に控える数体のゴブリンメイジ。


間違いない。


「よりにもよって、小鬼女王(ゴブリンクィーン)かよ……」


思わず、低く呟いた。

が――そこで終わらなかった。


王座の周囲に、違和感がある。

よく見ると、地面に刻まれた痕跡。


円状に削られた跡と、焦げたような線。

召喚の痕跡か――。


さらに視線をずらす。

岩陰には、明らかに人間のものと思われる木箱や樽が積まれている。

粗雑に扱われてはいるが、破壊はされていない。


「……笑えねぇな」


これは、ただの巣じゃない。

管理されている。育てられている。


「裏に誰かがいる」


俺はゆっくりと息を吐いた。


女王がいるとなれば、小鬼の数は爆発的なスピードで増えていく。

三日もすれば、この倍になっているだろう。


そうなれば、街は持たない。


「……面倒だな」


だが、チーズとエールが消えるのは困る……。


俺は視線をもう一度、窪地全体に走らせた。


橋、森、巣の配置。

流れ、補給、数。

全てを頭に叩き込む。


「さて……どう料理するか」


俺は音もなくその場を離れた。

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