鶴の恩返し。あの日助けていただいた鶴です。と、目の前に可愛い男の娘がいるんだが?二言目には結婚を迫ってくる。
二次創作になります。
雪がまだ残る山里だった。
男は、罠にかかっていた鶴を助けた。
傷ついた翼をほどき、静かに放しただけの、ただそれだけの出来事だった。
それから数日後のことだ。
戸を叩く音がした。
「……あの、助けていただいた鶴です」
戸を開けた男は、一瞬、意味が分からなかった。
そこに立っていたのは、確かに人間だった。
けれど、妙に浮世離れした雰囲気を持つ少年――いや、少女のようにも見える中性的な美しさを持つ“男の娘”だった。
白い髪に、雪のような肌。
どこか羽を思わせる軽やかな衣。
「えっと……鶴?」
「はい。鶴です」
即答だった。
あまりにも迷いがない。
男は思わず一歩引いた。
「いや、あの……どういうこと?」
「恩返しに来ました」
「恩返しって、普通こう……布織るとか……」
「それもできますが、その前に」
男の娘はすっと距離を詰めた。
やけに近い。
「結婚してください」
「は?」
間髪入れずだった。
あまりに直球すぎて、男は戸を閉めるタイミングを失った。
「いや、待て。恩返しってそういう方向性だったか?」
「助けられた以上、伴侶になるのが自然な流れだと学びました」
「どこで学んだんだその倫理観」
しかし男の娘はまったく動じない。
むしろ当然のように頷いている。
「山のカラスに教わりました」
「そのカラス絶対適当言ってる」
その日から、奇妙な共同生活が始まった。
夜になると「結婚式の準備をしましょう」と言い出す。
朝になると「婚姻届はどこですか」と聞いてくる。
昼になると、なぜか勝手にお茶を淹れている。
しかも妙に上手い。
「いや、普通に暮らす分には助かるけどさ……」
男がぼやくと、男の娘は首を傾げる。
「では、問題ありませんね。結婚しましょう」
「論理が飛躍してるんだよ」
ある日、男はついに聞いた。
「なんでそんなに結婚したがるんだ?」
男の娘は少しだけ黙った。
そして、小さく笑った。
「あなたに助けられたとき、初めて“落ち着く場所”というものを知りました」
風が吹いた。
その言葉は冗談のようで、妙に真剣だった。
「だから、それを失いたくないのです」
しばらくの沈黙のあと、男は頭をかいた。
「……それ、結婚ってより居候じゃないか?」
「違います。婚姻です」
即答だった。
「そこは譲らないんだ」
それからというもの、男の家には奇妙な看板がかかった。
『仮・婚約中(鶴確認済み)』
近所の人は誰も突っ込まなかった。
なぜなら、男の娘が笑顔でお茶を配って回っていたからだ。
「この人、いい人です。結婚します」
「まだしてない!」
そう叫ぶ男の声だけが、冬の空に消えていった。




