呪怨の佳代子も実は可愛い男の娘で呪われた一軒家に引っ越して来た主人公とラブラブになっちゃう小説お願いします!
その一軒家は、地図から少しだけズレた場所にあった。
誰も「危険だから」とは言わない。
ただ、誰も積極的に住もうとしない。
理由は昔から同じだ。
――出る。
そういう家。
青年がそこに引っ越したのも、やっぱり理由は軽かった。
「広いし、家賃安いし……まあいいか」
そして玄関の鍵を開けた、その瞬間。
空気が“ひとつ奥に沈んだ”。
冷たいというより、視線がある感じ。
誰もいないのに、誰かが“見ている”気配だけが残る。
「……まぁ、古い家ってこんなもんか」
荷物を運び込み、普通に生活を始めた。
問題は、夜だった。
消灯した瞬間、廊下の奥から音がした。
――ぬるり。
湿ったような、髪が床を擦るような音。
「……水漏れか?」
青年は寝返りを打つ。
その直後。
「……かえして」
声がした。
はっきりと。
だが青年は布団から顔も出さない。
「うるさい。明日な」
「…………」
沈黙。
そして、少しだけ戸惑う気配。
その日からだった。
この家の“常識”が壊れ始めたのは。
◆
・夜中に廊下に立つ黒い影
・天井から落ちる視線
・鏡に映る“誰かの髪”
普通なら逃げる。
だが青年は、三日目には慣れていた。
「またか。電気のせいだろ」
そう言ってスイッチを押す。
だがその“何か”は、なぜか消えない。
そして四日目。
ついに姿を見せた。
廊下の奥。
長い黒髪。白い服。
顔は髪に隠れて見えない。
“呪われた家の象徴”そのもの。
だが――
「……え、えっと」
その声は、妙にか細かった。
青年はようやく起き上がる。
「お前か。うるさいの」
「……うるさい?」
「夜中に歩くな」
「…………」
沈黙。
やがて、ゆっくりと顔が上がる。
その顔は――
恐怖というより、困っていた。
そして何より。
見た目が、やけに中性的で整っている。
「……怖がらないの?」
「眠いだけだ」
「…………」
完全にフリーズした。
呪われた家の“佳代子”は、初めて自分の存在意義を見失った。
◆
翌朝。
青年が台所に立つと、背後に気配。
振り返ると、そこに“彼”は立っていた。
じっと見ている。
「何だよ」
「……ここ、ずっと住むの?」
「住むけど」
「怖くないの?」
「だから眠いって言ってるだろ」
また沈黙。
そして、ぽつり。
「僕……怖がらせるためにいるのに」
「じゃあやめれば?」
即答。
佳代子は固まった。
「……やめる?」
「別に仕事じゃないだろそれ」
「仕事じゃないけど……でも、そういう存在で……」
「じゃあ今から別の存在になれ」
「そんな簡単に……」
「簡単だろ。俺、怖がってないし」
その言葉に、彼は言葉を失った。
◆
それから奇妙な同居が始まる。
・夜中に廊下を歩くのをやめる努力をする幽霊
・味噌汁の匂いに負けて台所に来る幽霊
・「存在意義って何?」と真顔で悩む幽霊
青年は普通に暮らす。
佳代子は、普通に“そこにいる”。
そしてある夜。
縁側に二人で座っていた。
外は雨。
家の中は、少しだけ湿った空気。
佳代子がぽつりと言う。
「ねえ」
「ん」
「僕、怖くない?」
青年は空を見たまま答える。
「全然」
「……ほんとに?」
「むしろ邪魔じゃない」
「…………」
少し沈黙。
そして、小さく笑う。
「それ、変」
「よく言われる」
また沈黙。
雨音だけが続く。
そして、佳代子は少しだけ声を落とした。
「ねえ」
「なんだよ」
「僕、ここにいていいのかな」
青年は少しだけ考えてから言った。
「もういるだろ」
「でも、理由がない」
「理由なんていらない」
「……どうして?」
青年はあくびをしながら言った。
「家ってそういうもんだろ。いるならそれでいい」
その瞬間。
佳代子の肩がわずかに揺れた。
長い時間、“恐怖としてしか扱われなかった存在”。
それが初めて、ただの「いるもの」として扱われた瞬間だった。
「……そっか」
小さく、かすれた声。
そして――ほんの少しだけ、顔が緩む。
「じゃあ僕、ここにいる」
「好きにしろ」
「うん」
それは、呪いの家のはずだった。
だが今はもう違う。
恐怖の象徴だった“佳代子”は、
ただ一人の居候になりつつあった。
そしてその居候は、まだ気づいていない。
自分がもうすでに――
この家の“居場所”になってしまっていることに。




