昔、貞子が可愛い感じで表現されたイラストがあったよね?可愛い貞子は実は男の娘で主人公と会って好きになる小説を書いて下さい!
その噂は、ネットの片隅でずっと語られていた。
「貞子が“可愛い感じ”で描かれたイラストがあるらしい」
「実は怖くないどころか、普通に好かれてるバージョンがある」
真偽は曖昧なまま、都市伝説みたいに広がっていった。
――そして、青年はその“元ネタ”に出会ってしまった。
きっかけは、ただの中古ビデオだった。
安売りワゴンの中で、妙に浮いていた一本。
ラベルは擦れて読みにくいが、なぜか目が離せなかった。
「……まぁ、ネタになるか」
軽い気持ちで持ち帰った夜。
再生ボタンを押した瞬間、画面は砂嵐になり――
次の瞬間、部屋の明かりがふっと落ちた。
「え?」
テレビだけが、ぼんやりと光っている。
そして。
画面の“中から”、それは出てきた。
黒い長髪。白いワンピース。
あの“貞子”そのもの――のはずだった。
だが。
「……え、あの」
出てきた存在は、明らかに違っていた。
髪は同じように長いが、どこか柔らかい印象。
顔立ちは恐怖よりも中性的な可愛さが勝っている。
そして何より――声が低すぎない。
「……やっと、出られた」
「え、喋るの?」
青年は思わず後ずさる。
だがその“貞子”は、きょとんとした顔で首を傾げた。
「喋るよ。……え、普通喋らないの?」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
そこでようやく気づく。
この存在、なんか違う。
「貞子って……もっとこう……怖い感じじゃ」
「怖いって何?」
即答だった。
そして、少しだけ不満そうに頬を膨らませる。
「昔の表現が大げさなだけだよ。あと、あれ髪で顔隠してるだけで、別に怖がらせたいわけじゃないし」
「え、じゃあ何しに出てきたんだ」
その問いに、彼は一瞬黙る。
そして、ぽつりと言った。
「……会いたかったから」
部屋の空気が止まる。
青年は固まった。
「え?」
「ずっと、見てたんだよ。あのビデオの向こう側で」
「ホラーじゃなくて監視じゃんそれ」
「違うよ!」
珍しく声を上げる。
そして少しだけ頬を赤くして続けた。
「出たら、誰かと話せると思ってたのに。ずっと“怖い存在”としてしか扱われなくて……」
その言葉には、妙な重さがあった。
青年は少し黙り、それから言った。
「で、俺は怖くないのか」
「全然」
即答。
「むしろ、変な人」
「それは褒めてるのか?」
「たぶん」
そこから、奇妙な同居が始まった。
ビデオテープから出てきた“貞子(男の娘)”は、
なぜか普通に部屋に居座るようになった。
・テレビから顔を出して寝る
・冷蔵庫の中に髪を入れる(冷やすため)
・風呂の排水口から出てきて怒られる
最初は混乱しかなかった青年も、
数日もするとだんだん慣れてくるのが怖い。
ある夜。
二人でコンビニ弁当を食べながら、彼がぽつりと言った。
「ねえ」
「ん?」
「僕さ、ここにいていいのかな」
またその話か、と青年は思う。
だが今度は、少しだけ違う声だった。
「怖がらせるために存在してたんじゃないのに、怖がられるのってさ……ちょっと疲れる」
青年は弁当を置いた。
「じゃあやめればいいだろ」
「やめるって?」
「怖がらせるの」
「そんな簡単に言うけど」
「簡単だろ。今もう怖くないし」
その言葉に、彼は少し固まる。
そして小さく笑った。
「……そっか」
静かな間。
テレビがついてもいないのに、部屋は妙に落ち着いている。
青年は続けた。
「で、お前はどうしたいんだよ」
その問いに、彼は少し考えて――
「……ここにいたい」
はっきりと言った。
「怖がられる場所じゃなくて、普通にいられる場所」
その言葉に、青年は少しだけ息を吐く。
「ならもう答え出てるじゃん」
「え?」
「ここにいればいい」
あまりに雑な結論だった。
だが、その雑さが妙に優しかった。
貞子(男の娘)は少しだけ目を丸くして、それから笑った。
「君、ほんと変」
「よく言われる」
「でも……悪くないね」
その夜。
テレビはもう光っていなかった。
ただ、部屋の中には二人分の気配があった。
怖いはずの存在が、怖くない場所にいる。
それはたぶん――
新しい“都市伝説”の始まりだった。




