主人公は異世界に転生し、結婚するが相手は悪魔で男の娘の小説を書いて下さい!
目を開けたとき、彼はすでに“死んだ後の世界”に立っていた。
白でも黒でもない、曖昧な霧に包まれた空間。そこに響く声は、人間のものではなかった。
「あなたの人生は、そこで終わりました。ですが——選びなさい。新たな生を」
理由も分からぬまま、彼は“異世界転生”を選んだ。
そして次に目を覚ましたとき、そこは石造りの古い教会だった。
――異世界。
剣と魔法がある世界。空には見たことのない月が二つ浮かび、窓の外では赤い鳥が群れを成して飛んでいる。
「目が覚めたのね」
声の主は、彼の隣にいた。
黒いローブに身を包み、長い銀髪を揺らす美しい少女。透き通るような白い肌に、どこか人間離れした気配。
だが彼が息を呑んだのは、その“美しさ”だけではなかった。
少女の頭には、小さな角が生えていた。
「私はリリウム。……悪魔よ」
あまりにあっさりした自己紹介だった。
そして、彼女は少しだけ照れたように視線を逸らしながら続けた。
「そして、あなたの“婚約者”でもあるわ」
「……は?」
理解が追いつかない。
転生したと思ったら悪魔。しかも婚約者。状況があまりにも飛躍しすぎている。
だがリリウムは冗談を言っている様子ではなかった。
「この世界ではね、人間と悪魔が契約を結ぶことがあるの。魂の安定のために」
「魂の安定?」
「あなたは転生の際に、魂の形が不安定だったの。だから私が“固定”する必要があった」
淡々とした説明。しかしその内容はとんでもないものだった。
そして彼はようやく気づく。
リリウムは悪魔でありながら、恐ろしい存在というより——妙に、優しい目をしていた。
数日後。
彼はこの世界での生活を学びながら、リリウムと同居することになった。
悪魔といっても、人を喰らうわけではない。むしろ家事は完璧で、料理も驚くほど上手い。
ただひとつ問題があった。
「……なぜそんなに見てくるの?」
「いや、その……悪魔なのに普通すぎて」
「普通じゃないわ。角、あるでしょう」
そう言って、リリウムは少しだけ誇らしげに角を指さした。
その仕草が、やけに可愛かった。
――彼は気づいてしまった。
この悪魔は、“怖い存在”ではない。
むしろ、人間よりも不器用で、優しくて、少し寂しがり屋だ。
夜。
二人は同じ屋根の下で静かに過ごしていた。
「ねえ」
リリウムがぽつりと呟く。
「あなた、人間だった頃の記憶、どこまで残ってるの?」
「ほとんど曖昧だ。でも……不思議と怖くはない」
「そう」
少し間を置いて、彼女は小さく笑った。
「なら良かった。……契約はね、ただの魔法じゃないの。少しだけ、心も繋がるの」
その言葉に、彼の胸が妙にざわつく。
「それって……どういう意味だ?」
リリウムは答えない。
代わりに、彼の手をそっと取った。
冷たいはずの悪魔の手が、なぜかほんのり温かい。
「結婚、っていうのはね」
彼女は小さく言った。
「契約の、最も強い形なの」
そして静かに、彼の指を握りしめた。
その瞬間、彼は理解した。
この異世界転生は、ただの“やり直し”ではない。
誰かと繋がるための、物語なのだと。
悪魔の男の娘と、人間だった男。
歪で、奇妙で、けれどどこか優しい契約結婚は——こうして始まった。




