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因習のある村に祀られている男の娘の神様が村に迷い込んだ幼子を保護する小説を書いて下さい!

山と山のあいだに、地図からも薄れていくような小さな村があった。

そこでは昔から「山の神」を祀る風習が残っている。だがその実態を、村人のほとんどは正確には知らない。

ただ一つだけ、代々言い伝えられていることがある。

——迷い子を見ても、決して山の奥を覗いてはならない。

——神に選ばれた者は、帰ってこないことがある。

それでも村は続いていた。平穏と、薄い畏れの上に。

そしてある雨の日。

村の外れ、獣道の終わりに、小さな影が立っていた。

泥だらけの子ども。年の頃は五つか六つ。

どこから来たのかも分からないまま、ただ震えていた。

「……おかあ、さん……?」

声は雨に溶けて消えた。

そのとき、山の方から風が吹いた。

木々が揺れ、霧が割れるようにして“それ”は現れた。

白い装束に身を包み、長い髪を風に揺らす存在。

男とも女ともつかない、あまりに整いすぎた姿。

村では誰もその姿を正確に語れない。

ただ「神様」とだけ呼ばれている。

その神は、静かに子どもを見下ろした。

「……また、迷い子か」

声は鈴のように澄んでいた。

子どもはびくりと肩を震わせ、後ずさる。だが足がもつれて転びそうになる。

神は一歩も動かないまま、そっと手を伸ばした。

風が一瞬だけ止む。

「怖がらなくていい」

その声には、命令でも誘惑でもない、ただの“静けさ”があった。

子どもは泣きそうな顔のまま、少しだけその手を見つめた。

そして、小さく、指先を掴んだ。

その瞬間、世界の色が変わった。

雨音が遠のき、森の匂いが柔らかくなる。

気がつけば、そこは山の奥の社だった。

苔むした石段、古びた鳥居、そして人の気配のない静かな空間。

子どもは目を丸くする。

「ここ……どこ?」

「帰れなくなった者が、一度だけ辿り着く場所」

神は淡々と答えた。

村では恐れられる存在。

だが今、その声には不思議な温度があった。

子どもは小さな声で言った。

「おうち、帰りたい……」

その言葉に、神はほんの一瞬だけ目を細めた。

「帰る道は、ある」

そう言って、神は社の奥へ歩く。

子どもは不安そうにしながらも、その後を追った。

社の中には、奇妙なものが並んでいた。

古い玩具、干からびた花、壊れた鈴。

そして——どれもが、どこかで“迷った誰か”の名残のように見えた。

子どもは息をのむ。

「みんな……ここに来たの?」

「来て、そして帰った者もいる」

神はそう言いながら、小さな鈴を一つ取り上げた。

「この村の掟は、迷い子を見捨てるためのものではない。

ただ、選ぶためのものだ」

「選ぶ?」

神は振り返り、初めてはっきりと子どもを見た。

「帰るか、ここに残るか」

子どもは固まった。

まだ小さな頭では、その意味がうまく飲み込めない。

ただ一つだけ分かるのは、この場所が怖いのに、なぜか安心するということだった。

雨の音もない。怒る声もない。

ただ静かで、そして少しだけ寂しい場所。

子どもは唇を噛んだ。

「……かえりたい」

小さく、でもはっきりと言った。

神は頷いた。

「ならば、送ろう」

その瞬間、鈴が鳴った。

チリン、と軽い音。

視界が揺れ、社の景色がほどけていく。

子どもは最後に、神の顔を見た。

「……ありがとう」

神はほんのわずかに目を伏せる。

「礼を言うのは、まだ早い」

そして世界は再び雨に戻った。

——

気づけば子どもは村の外れにいた。

心配そうに駆け寄る大人たちの声。

抱き上げられる感覚。濡れた服の重さ。

それでも、どこかで確かに覚えている。

白い装束の誰か。

静かな声。

そして、鈴の音。

村では誰も何が起きたか説明できなかった。

ただ一つ、古い言い伝えだけが残る。

——神は迷い子を連れ去るのではない。

——帰る道を、もう一度“選ばせる”。

山の奥の社では、今日も風が吹いている。

白い装束の神は、静かに次の足音を待ちながら。

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