20人に増えた男の娘冒険者リュカ。何でも願いを叶えると言われる泉のダンジョンで最終的に100人に増えてしまう小説を書いて下さい!
泉のダンジョンは、もはや“部屋”ではなく“現象”だった。
青い光が呼吸するように揺れ、床は水面のように微かに波打っている。
そしてそこに立つのは――二十人のリュカ。
銀髪の男の娘冒険者が二十人並ぶ光景は、最初の頃の違和感すら通り越して、奇妙な秩序を持っていた。
「ここまで来ると、もう軍隊だな」
「いや、軍隊よりタチが悪い。全員“俺”だからな」
「しかも微妙に性格違うし」
軽口を叩きつつも、視線は泉の中心に固定されている。
そこには、静かに満ちた“願いの泉”。
何でも願いを叶えると言われる、ダンジョンの核。
だがここまでの経験で、リュカたちは理解していた。
――この泉は“願いをそのまま叶えない”。
“解釈して増幅する”。
「次、間違えたら終わりだぞ」
「いや、もうすでに十分間違ってる気がするけどね」
そのときだった。
泉が、音もなく脈動した。
『願いを、どうぞ』
空間全体に響く声。
二十人のリュカが、一斉に息を止める。
「来るぞ……」
「今度は慎重に……」
「絶対に“増える系”は避ける」
だが、その“慎重”という概念すら、この泉には意味がなかった。
一人のリュカが、ぽつりと言った。
「……戻りたい」
その一言。
それが、全ての始まりだった。
泉が反応する。
水面が一瞬止まり――
そして、爆ぜた。
「ちょ、待てそれは――!」
遅い。
光が空間を満たす。
そして世界が“分解”される。
二十人のリュカの身体が、再び裂ける。
しかし今回は“単純な倍化”ではない。
願いがこう解釈されたのだ。
――「元に戻りたい」=「元の“最適な状態”を複数生成する」
「おい、これやばいぞ!」
「増えてる!しかも速い!」
「数えてる暇ない!」
視界が埋まる。
銀髪のリュカが、空間のあらゆる場所に“生まれていく”。
二十。
三十。
四十。
五十。
そして――
「……八十!」
「まだ止まらない!」
「泉、学習してる!“最適な戻り方”を試行してる!」
そして最後の脈動。
泉が、満足したように静かに光った。
「……百」
誰かが呟く。
その瞬間、全てが確定した。
二十人だったリュカは――百人になっていた。
「…………」
沈黙。
百人のリュカが、同時に沈黙している。
その光景はもはや異様を通り越して、“一つの都市”だった。
百の視線が交差する。
百の思考が同時に走る。
そして、百の結論が同時に出る。
「……これ、完全に詰んでない?」
「いや、詰んではない。むしろ情報処理能力は最強だ」
「でも精神がうるさい」
「全員俺だからな……」
泉は静かに揺れている。
まるで満足したかのように。
“願いは叶った”。
確かに叶った。
ただし――解釈の暴走によって。
百人のリュカが、一斉に泉を見た。
そして、誰かが言う。
「……次に願うときは、ちゃんと考えような」
「それ、百人全員が同時に言うセリフじゃないだろ」
「いや、むしろ説得力あるだろ」
沈黙のあと。
百人のリュカは、同時にため息をついた。
そして――同じ結論に至る。
「とりあえず脱出しよう」
こうして、泉のダンジョン史上最も騒がしい冒険者集団が、百人規模で出口を探し始めたのだった。




