10人に増えた男の娘冒険者リュカ。何でも願いを叶えると言われる泉のダンジョンで今度もまたまた違う罠に掛かり20人に増えてしまう小説を書いて下さい!
泉のダンジョンは、不気味なほど静かだった。
地下深くにあるというのに、空気は妙に澄んでいて、壁面には淡い青光が揺らめいている。
その中心にあると噂されるのが――「願いを叶える泉」。
だがそれは、願いを“そのまま”叶えるとは限らない。
そして今、その空間に立っているのは――十人のリュカだった。
「……ここが泉のダンジョンか」
「空気は綺麗なのに、嫌な魔力の流れだな」
「前の倍増罠よりはマシ……だといいんだけど」
十人のリュカが、ほぼ同時に周囲を見渡す。
銀髪の男の娘冒険者が十人並ぶ光景は、もはや異様というより“戦術集団”に近い。
だが本人たちは慣れているのがまた問題だった。
「願いを叶える泉ってのは、この奥だよな」
「でもダンジョンの性質上、素直に辿り着けるとは思えない」
「つまり……また罠か」
その予想は、あまりにも正しかった。
足元に、淡く光る水紋のような魔法陣が現れる。
それは泉のように広がり、まるで呼吸するかのように脈動していた。
「下がれ!」
誰かの声と同時に、魔法陣が弾けた。
しかし――遅い。
光が一気に広がり、空間全体を飲み込む。
「また分裂系か……!」
「いや、これは前と違う……!」
十人のリュカがそれぞれ違う判断を下そうとした、その瞬間。
世界が“水の中”のように歪んだ。
視界が揺れる。
音が遠ざかる。
そして――存在が裂ける感覚。
「……っ!」
呼吸が重なる。
心臓の鼓動が重なる。
そして数えるまでもなく理解する。
増えている。
増えている。
増えている。
「……十二、十四、十六……」
「いや、止まらない!」
「一気に来てるぞこれ!」
そして最後に、空間が“確定”した。
「……二十」
同じ声が、四方八方から響いた。
十人だったリュカは、二十人に増えていた。
しかも今度は違う。
前回のような安定した複製ではない。
“泉の水面に映った影をそのまま現実化したような増殖”。
微妙に動きがズレている。
感情が一瞬遅れる個体がいる。
視線が合わない個体がいる。
「……これ、厄介だな」
「同期が完全じゃない。個体差が出てる」
「むしろ“願いの解釈違い”みたいな増え方してる」
リュカたちは一斉に理解する。
この罠は「増やす」のではない。
――“願いの解釈を分岐させて現実化する”。
つまり。
「さっきの俺たちの“こうなれば便利”って考えが分裂した結果か」
「雑に言うと、理想のリュカが20種類生まれたってことだね」
「やめろ、気持ち悪いくらい納得できる」
同じ顔のはずなのに、少しずつ違う。
慎重なリュカ。
大胆なリュカ。
楽観的すぎるリュカ。
妙に戦闘的なリュカ。
そして――やたら泉に興味を持っているリュカ。
「おい、誰か一人、すごい勢いで泉に近づいてないか?」
「止めろ、それ危ないやつだ」
「いや、あれ俺だ」
「どの俺だよ!」
混乱が広がる。
しかし、二十人いるということは同時に二十の行動が可能ということでもあった。
すぐに役割が分裂的に整理される。
・封印解析班 ・罠特定班 ・泉調査班 ・非常時制圧班 ・全力で止める班
「統率は取れてる……のが怖いな」
「前より強いのに、前より危険だ」
そのときだった。
泉が静かに揺れた。
水面に波紋が走り、中心から“声”が響く。
『願いを、どうぞ』
二十人のリュカが、一斉に沈黙する。
そして――同じ顔で、少しだけ苦笑した。
「なるほどね」
「これ、“願いを聞くフリをして、解釈を増やす”タイプか」
「じゃあどうする?」
視線が交差する。
二十の思考が、一つの結論に収束する。
「願いは一つでいい」
「これ以上増やすな」
「そして――元に戻れ」
静かに、しかし明確に言葉が泉へ投げられた。
泉が沈黙する。
数秒。
十秒。
そして――
水面が逆流した。
「……来るぞ!」
光が爆発する。
次の瞬間、ダンジョン全体が“再定義”され始めた。
二十人のリュカたちは、同時に構えた。
これは罠ではなく――願いそのものとの戦いだった。




