5人に増えた男の娘冒険者リュカ。ダンジョンで今度は違う罠に掛かり10人に増えてしまう小説を書いて下さい!
ダンジョンの奥は、静かすぎた。
湿った石壁。滴る水音。遠くで鳴る、何かの羽ばたき。
そして――同じ顔が五つ並んで歩く、異様な光景。
「……慣れたとはいえ、自分が五人いるのはやっぱ変だな」
リュカは自分の声を聞きながら、少しだけ肩をすくめた。
銀がかった柔らかな髪。中性的な顔立ち。細身の身体。
“男の娘”と呼ばれることに本人は特にこだわりはないが、旅先ではよく話題になる容姿だった。
そして今は、その自分が五人。
前回の分裂罠の後遺症だ。ダンジョン内に残留した魔力の影響で、同一存在が複製される現象。
厄介だが、五人になったことで探索効率は飛躍的に上がっていた。
「索敵は俺がやる」
「罠チェックは任せて」
「魔力の流れ、こっちで見る」
自然に役割分担が決まり、五人は一つのチームとして機能していた。
普通なら混乱するはずの状況が、妙に安定している。
それが逆に不気味でもあった。
「この先、空気が変だ」
誰かのリュカが足を止める。
通路の先は広い円形の空間になっていた。壁一面に刻まれた幾何学模様。床には薄く光る魔法陣。
「……新しい罠か」
「いや、これ前のとは違う」
「増殖系じゃない。もっと……構造が違う」
五人のリュカが慎重に足を踏み入れる。
その瞬間だった。
――ピシリ。
床の魔法陣が、音を立てて起動した。
「下がれ!」
叫ぶのと同時に、空間が歪む。
光が走り、空気が引き裂かれるような感覚。
五人の身体が、一瞬だけ軽くなる。
そして――世界が“重なった”。
「……っ」
視界が揺れ、足元が増える。
呼吸が増える。
心臓の鼓動が増える。
「おい……待て……これ……」
誰かが呟く。
数えた。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
――そして。
六人。
七人。
八人。
九人。
十人。
「……増えてる」
同じ声が、同時に十方向から響いた。
五人だったはずのリュカは、倍の十人になっていた。
「今度は……分割じゃなくて複製か」
「しかも完全同期してる。意識がズレてない」
「やばいな、これ……制御できてるのが逆にやばい」
十人のリュカが、同時に自分の手を見つめる。
違和感はある。
だが崩壊はしていない。
前回のような混乱ではなく、むしろ“完成された複製”に近い。
「このダンジョン、学習してるな」
「前の分裂を見て、最適化してきたってことか」
「つまり……これは強化版か」
誰かが苦笑する。
十人分の苦笑が、ほぼ同時に重なる。
冗談のようで、冗談ではない。
このまま進めば、さらに増える可能性がある。
二十、四十、八十――制御不能な増殖。
「出口を探そう」
リュカたちは即座に結論を出した。
十人いるという事実が、意思決定を異常な速度で進める。
探索、解析、警戒、罠解除。
すべてが同時に進む。
「左通路、魔力反応なし」
「右、微弱だが構造安定」
「中央は……コアだ」
十の視点が一つの結論に収束する。
そして、中央。
そこには黒い結晶が浮かんでいた。
脈動するように光を放つそれは、ダンジョンそのものの心臓のようだった。
「これを壊せば……止まるはずだ」
「逆に壊さなければ、増え続ける」
「選択肢は一つだな」
十人のリュカが、同時に一歩踏み出す。
その瞬間――結晶が強く光った。
「来るぞ!」
空間が再び揺れる。
しかし今度の揺れは、単なる分裂ではなかった。
“再構築”。
ダンジョンが、十人の存在を基準に構造を書き換え始めたのだ。
「やっぱり、ただの罠じゃないな……」
「意思があるレベルだ」
光が収束する。
結晶の脈動が速くなる。
そして――十人のリュカたちは、同時に理解した。
これは“試験”だ。
このダンジョンは、同一存在をどこまで拡張できるかを試している。
「なら……答えは一つだ」
誰かが静かに言った。
十人の声が重なる。
「突破する」
光が爆ぜた。
次の瞬間、ダンジョンの奥で――新たな選別が始まった。




