プロゲーマーの主人公は可愛い男の娘。スランプになりふと立ち寄った商店街のゲームコーナーに昔やり込んでいたアーケードゲームを見つけたが、先客が居て。その子も可愛い男の娘だった。
夕方の光が、商店街のアーケードにゆるく差し込んでいた。
プロゲーマーとして名を知られる彼は、最近ずっと勝てていなかった。
指は動く。反応も悪くない。なのに、決定的な一手だけが噛み合わない。
「……なんでだよ」
スポンサーのこと、配信の数字、期待される“らしさ”。
全部が重なって、気づけばゲームを起動する手が止まっていた。
逃げるように歩いていた足が、ふと止まる。
商店街の片隅。
古びたゲームコーナー。
ガラス越しに見えたのは、かつて彼が擦り切れるほど遊び込んだアーケード筐体だった。
「……まだ、あるんだ」
思わず漏れた声に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
吸い寄せられるように中へ入ると、その筐体にはすでに先客がいた。
小柄な背中。
柔らかそうな髪が揺れている。
そして振り向いた瞬間——
「あ」
同じタイミングで声が重なった。
そこにいたのは、彼と同じように“可愛い男の娘”だった。
中性的な顔立ちに、集中したまなざし。指先はコントローラーを軽やかに叩き続けている。
画面の中では、懐かしい弾幕と高速入力の応酬が続いていた。
「これ、知ってるんだ」
先客の男の娘が、目を離さずに言う。
「……ああ。昔、結構やってた」
気づけば彼も筐体の横に立っていた。
「でも今は、全然勝てなくてさ」
ぽつりと漏れた言葉に、相手はようやく視線を上げる。
少しだけ驚いたあと、ふっと笑った。
「じゃあ、リハビリしよっか」
軽い口調。なのに妙にまっすぐだった。
「ここ、まだまだ現役だし。……昔の感覚、残ってるか試せるよ」
そう言って、ひとつ席をずれる。
まるで当然のように、対戦台の片側が空く。
彼は一瞬だけ迷い、それからコインを取り出した。
「一クレ、入れる」
「うん。受けて立つ」
画面が点灯する。
懐かしいBGM。
昔は何度も聞いたはずの音が、やけに新しく感じた。
「……名前、聞いてなかった」
「言ってなかっただけだよ」
男の娘は少しだけ目を細める。
「またここに来ればいいじゃん。どうせ、君も戻ってくるでしょ」
その言い方が、なぜか妙に確信めいていて。
彼は小さく笑った。
「負けたら、考える」
「じゃあ、負けない」
コイン投入音が、やけに大きく響いた。
そして——ゲームが始まった。




