第59話 編成
人が50名を超えた。
戦える者は30名だった。カルの部下、ターニの農民の中の若者、降伏した元兵士、志願してきた者。全員が何らかの理由で武器を持てた。
グリムが訓練場に人を集めた。30名が並んだ。顔ぶれが違った。体格も違った。武器の扱いも違った。
グリムが腕を組んで見ていた。しばらく黙っていた。
ナナが横にいた。リーゼが反対側に立っていた。
「このままでは動けん」
グリムが言った。
「何がですか?」
「30名をスリーマンセルで動かすのは無理だ。あれは3名で完結する戦術だ。俺とリーゼとお前で全員を見ていた。30名は見きれない」
グリムが訓練場を見渡した。
「組織を作る。班を作って班長を置く」
「どういう形ですか?」
「それを決める」
グリムが振り返った。ヴォルクが立っていた。
「ヴォルク、お前の案を出せ」
ヴォルクが前に出た。落ち着いた声だった。
「3名1組の班を10作ります。各班に班長を置きます。班長同士が連携して動きます」
「理由は?」
「30名を1人で見るのは不可能です。班長が3名ずつ見れば目が届きます」
「班長は何名いる?」
「10名です」
「多すぎる」
グリムが即答した。ヴォルクが少し間を置いた。
「……では」
「10班を5組に分ける。各組に組長を置く。組長が2班ずつ見る。その上に隊長を置く」
リーゼが口を開いた。
「隊長は私がやる」
グリムが頷いた。
「ああ。リーゼが全体を見る」
ヴォルクが頷いた。
「異論はありません」
グリムが黙った。腕を組んだまま、ヴォルクを見ていた。
長い間だった。
ナナはそれを見ていた。グリムが何かを考えている。ヴォルクの案を査定している。
グリムが口を開いた。
「……悪くない」
それだけ言った。ヴォルクが少し驚いた顔をした。
(グリムがヴォルクの案を認めた)
ナナはそれを見ていた。
グリムが続けた。
「班長を決める。お前らの中から選ぶ」
訓練場にいた30名が動いた。誰かが前を見た。誰かが隣を見た。誰かが息を止めた。
「ダリオ、カイル、サル、ハルク、ベイン、クロ、ガッツ、ヴォルク、カル、エル——前に出ろ」
10名が前に出た。
「お前らが班長だ。各班3名を受け持つ。分かったか」
「分かりました」
カルが答えた。他の者も頷いた。
グリムが続けた。
「次に組長を決める。2班ずつまとめて指揮する」
10名の班長を見た。
「ダリオ、カイル、ヴォルク、カル、ハルク——前に出ろ」
5名が前に出た。
「お前らが組長だ。それぞれ2班ずつ受け持つ。班長と連携して動け」
「了解」
ダリオが答えた。他の4名も頷いた。
リーゼが腕を組んだ。
「組長5名が私に報告する。私が全体を見る。それでいいか?」
「ああ」
グリムがナナを見た。
「訓練はどうしますか?」
「俺がやる」
即答だった。
「明日から始める。容赦はしない」
ナナは何も言わなかった。
(組織ができる。班という単位ができる。班長という役割ができる。組長という階層ができる。それが——)
30名を見た。全員がグリムとリーゼを見ていた。
翌日、訓練が始まった。
グリムが城門の外に人を集めた。30名全員だった。朝日が昇っていた。
リーゼが横に立っていた。腕を組んでいた。
「走れ。城壁を1周して戻って来い」
グリムが言った。
30名が走り出した。バラバラだった。速い者と遅い者の差が開いた。
グリムが腕を組んで見ていた。リーゼも黙って見ていた。
最初に戻ってきたのはカイルだった。次にダリオが戻ってきた。サルが戻ってきた。ハルクが戻ってきた。カルが戻ってきた。ヴォルクが戻ってきた。
最後に戻ってきたのはターニの農民だった。膝に手をついていた。息が荒かった。
グリムが全員を見渡した。
「遅い」
それだけ言った。
「班ごとに揃えて走れ。班長が最後尾を見ろ。もう1周」
30名がまた走り出した。今度は班ごとに固まっていた。速い者が遅い者を待っていた。班長が後ろを見ていた。
ナナは城壁の上から見ていた。
グリムが容赦なく動かしていた。走る、止まる、剣を構える、盾を持つ、伏せる、立つ。声が届いた。
リーゼが組長を呼んだ。5名が集まった。
「各組の動きを見ろ。遅い班があれば組長が声をかけろ」
「分かった」
ダリオが答えた。5名が散った。各組の動きを見始めた。
(これが組織を作るということか)
3名で動いていた時は、グリムとリーゼとナナが全てを見ていた。30名になった今、それは不可能だった。班長が見る。組長が見る。リーゼが見る。そうやって目を増やしていく。
階層ができる。指揮系統ができる。それが組織だった。
訓練が続いた。昼まで続いた。
グリムが「休め」と言った。30名が地面に座った。水を飲んだ。
昼過ぎ、ベラから手紙が届いた。
ナナが開いた。
「イグレアにギルドの出張窓口を作れないか。依頼のやりとりが増えすぎた。週に1度、私が訪問する形でも構まわない。市場も立っていると聞いた。場所があれば教えてくれ。——ベラ」
ナナは少し間を置いた。
(ギルドがイグレアに来る)
依頼を受けるためにグレンフォードまで行く必要がなくなる。依頼書の確認も報酬の受け取りもイグレアでできる。市場と同じ場所に窓口を置けば、商人と傭兵ギルドが同じ場所に集まる。
オズを呼んだ。
「ベラさんがギルドの出張窓口を作りたいと言っています」
「場所はどうしますか?」
「中庭の一角を使います。マルコさんの市場と同じ場所で構いません」
「分かりました。準備します」
オズが帳簿を抱えて出ていった。
ナナはベラへの返事を書いた。
「場所を用意します。週に1度の訪問で構いません。市場と同じ場所に窓口を設置してください。——ナナ」
送った。
(市場とギルド窓口が同じ場所にある。商人が来る。傭兵が来る。依頼が来る。人が集まる)
イグレアが拠点になっていく。
夕方、訓練が終わった。
30名が戻ってきた。全員が疲れていた。カルが膝に手をついていた。ターニの農民が座り込んでいた。ダリオが汗を拭いていた。
グリムが最後に戻ってきた。汗をかいていなかった。
「明日も同じことをやる。班ごとに揃えて動け」
それだけ言って、グリムが城壁に上がっていった。
ナナは訓練場を見ていた。
30名が水を飲んでいた。誰かが誰かに声をかけていた。カルの部下がターニの農民に手を貸していた。班長が自分の班の者に何かを言っていた。
(混じっている)
元兵士と農民と志願者。降伏した者と受け入れた者。それが同じ場所で訓練を受けていた。同じ場所で水を飲んでいた。
班という単位ができた。班長という役割ができた。組長という階層ができた。訓練という時間ができた。
それが組織だった。
夜、ナナは自分の部屋にいた。
紙を広げた。羽ペンを取った。
30名の名前を書き出した。全員分。班ごとに分けて書いた。班長の名前を最初に書いた。
班長10名:ダリオ、カイル、サル、ハルク、ベイン、クロ、ガッツ、ヴォルク、カル、エル。
組長5名:ダリオ、カイル、ヴォルク、カル、ハルク。
隊長:リーゼ。
その下に各班の3名を書いた。全員の名前があった。
書き終えてから、紙を見た。
30名の名前があった。班ごとに分かれていた。組ごとにまとまっていた。
ナナはそれを見ていた。
(これが組織だ。30名を動かすための形だ。これから人が増えれば、班も増える。組長も増える。隊長の下に副隊長も必要になる)
(守るために、組織を作る。人が増えるたびに、形を作り直す)
ナナは紙を折りたたんだ。明日グリムとリーゼに渡す。




