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第七魔王戦記 ~少女魔王は戦場にて微笑む~  作者: 猫じゃらし
第2部  調停者の戦場 第6章 廃墟から城砦へ
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第59話 編成

 人が50名を超えた。


 戦える者は30名だった。カルの部下、ターニの農民の中の若者、降伏した元兵士、志願してきた者。全員が何らかの理由で武器を持てた。


 グリムが訓練場に人を集めた。30名が並んだ。顔ぶれが違った。体格も違った。武器の扱いも違った。


 グリムが腕を組んで見ていた。しばらく黙っていた。


 ナナが横にいた。リーゼが反対側に立っていた。


「このままでは動けん」


 グリムが言った。


「何がですか?」


「30名をスリーマンセルで動かすのは無理だ。あれは3名で完結する戦術だ。俺とリーゼとお前で全員を見ていた。30名は見きれない」


 グリムが訓練場を見渡した。


「組織を作る。班を作って班長を置く」


「どういう形ですか?」


「それを決める」


 グリムが振り返った。ヴォルクが立っていた。


「ヴォルク、お前の案を出せ」



 ヴォルクが前に出た。落ち着いた声だった。


「3名1組の班を10作ります。各班に班長を置きます。班長同士が連携して動きます」


「理由は?」


「30名を1人で見るのは不可能です。班長が3名ずつ見れば目が届きます」


「班長は何名いる?」


「10名です」


「多すぎる」


 グリムが即答した。ヴォルクが少し間を置いた。


「……では」


「10班を5組に分ける。各組に組長を置く。組長が2班ずつ見る。その上に隊長を置く」


 リーゼが口を開いた。


「隊長は私がやる」


 グリムが頷いた。


「ああ。リーゼが全体を見る」


 ヴォルクが頷いた。


「異論はありません」


 グリムが黙った。腕を組んだまま、ヴォルクを見ていた。


 長い間だった。


 ナナはそれを見ていた。グリムが何かを考えている。ヴォルクの案を査定している。


 グリムが口を開いた。


「……悪くない」


 それだけ言った。ヴォルクが少し驚いた顔をした。


(グリムがヴォルクの案を認めた)


 ナナはそれを見ていた。


 グリムが続けた。


「班長を決める。お前らの中から選ぶ」


 訓練場にいた30名が動いた。誰かが前を見た。誰かが隣を見た。誰かが息を止めた。


「ダリオ、カイル、サル、ハルク、ベイン、クロ、ガッツ、ヴォルク、カル、エル——前に出ろ」


 10名が前に出た。


「お前らが班長だ。各班3名を受け持つ。分かったか」


「分かりました」


 カルが答えた。他の者も頷いた。


 グリムが続けた。


「次に組長を決める。2班ずつまとめて指揮する」


 10名の班長を見た。


「ダリオ、カイル、ヴォルク、カル、ハルク——前に出ろ」


 5名が前に出た。


「お前らが組長だ。それぞれ2班ずつ受け持つ。班長と連携して動け」


「了解」


 ダリオが答えた。他の4名も頷いた。


 リーゼが腕を組んだ。


「組長5名が私に報告する。私が全体を見る。それでいいか?」


「ああ」


 グリムがナナを見た。


「訓練はどうしますか?」


「俺がやる」


 即答だった。


「明日から始める。容赦はしない」


 ナナは何も言わなかった。


(組織ができる。班という単位ができる。班長という役割ができる。組長という階層ができる。それが——)


 30名を見た。全員がグリムとリーゼを見ていた。



 翌日、訓練が始まった。


 グリムが城門の外に人を集めた。30名全員だった。朝日が昇っていた。


 リーゼが横に立っていた。腕を組んでいた。


「走れ。城壁を1周して戻って来い」


 グリムが言った。


 30名が走り出した。バラバラだった。速い者と遅い者の差が開いた。


 グリムが腕を組んで見ていた。リーゼも黙って見ていた。


 最初に戻ってきたのはカイルだった。次にダリオが戻ってきた。サルが戻ってきた。ハルクが戻ってきた。カルが戻ってきた。ヴォルクが戻ってきた。


 最後に戻ってきたのはターニの農民だった。膝に手をついていた。息が荒かった。


 グリムが全員を見渡した。


「遅い」


 それだけ言った。


「班ごとに揃えて走れ。班長が最後尾を見ろ。もう1周」


 30名がまた走り出した。今度は班ごとに固まっていた。速い者が遅い者を待っていた。班長が後ろを見ていた。


 ナナは城壁の上から見ていた。


 グリムが容赦なく動かしていた。走る、止まる、剣を構える、盾を持つ、伏せる、立つ。声が届いた。


 リーゼが組長を呼んだ。5名が集まった。


「各組の動きを見ろ。遅い班があれば組長が声をかけろ」


「分かった」


 ダリオが答えた。5名が散った。各組の動きを見始めた。


(これが組織を作るということか)


 3名で動いていた時は、グリムとリーゼとナナが全てを見ていた。30名になった今、それは不可能だった。班長が見る。組長が見る。リーゼが見る。そうやって目を増やしていく。


 階層ができる。指揮系統ができる。それが組織だった。


 訓練が続いた。昼まで続いた。


 グリムが「休め」と言った。30名が地面に座った。水を飲んだ。



 昼過ぎ、ベラから手紙が届いた。


 ナナが開いた。


「イグレアにギルドの出張窓口を作れないか。依頼のやりとりが増えすぎた。週に1度、私が訪問する形でも構まわない。市場も立っていると聞いた。場所があれば教えてくれ。——ベラ」


 ナナは少し間を置いた。


(ギルドがイグレアに来る)


 依頼を受けるためにグレンフォードまで行く必要がなくなる。依頼書の確認も報酬の受け取りもイグレアでできる。市場と同じ場所に窓口を置けば、商人と傭兵ギルドが同じ場所に集まる。


 オズを呼んだ。


「ベラさんがギルドの出張窓口を作りたいと言っています」


「場所はどうしますか?」


「中庭の一角を使います。マルコさんの市場と同じ場所で構いません」


「分かりました。準備します」


 オズが帳簿を抱えて出ていった。


 ナナはベラへの返事を書いた。


「場所を用意します。週に1度の訪問で構いません。市場と同じ場所に窓口を設置してください。——ナナ」


 送った。


(市場とギルド窓口が同じ場所にある。商人が来る。傭兵が来る。依頼が来る。人が集まる)


 イグレアが拠点になっていく。



 夕方、訓練が終わった。


 30名が戻ってきた。全員が疲れていた。カルが膝に手をついていた。ターニの農民が座り込んでいた。ダリオが汗を拭いていた。


 グリムが最後に戻ってきた。汗をかいていなかった。


「明日も同じことをやる。班ごとに揃えて動け」


 それだけ言って、グリムが城壁に上がっていった。


 ナナは訓練場を見ていた。


 30名が水を飲んでいた。誰かが誰かに声をかけていた。カルの部下がターニの農民に手を貸していた。班長が自分の班の者に何かを言っていた。


(混じっている)


 元兵士と農民と志願者。降伏した者と受け入れた者。それが同じ場所で訓練を受けていた。同じ場所で水を飲んでいた。


 班という単位ができた。班長という役割ができた。組長という階層ができた。訓練という時間ができた。


 それが組織だった。



 夜、ナナは自分の部屋にいた。


 紙を広げた。羽ペンを取った。


 30名の名前を書き出した。全員分。班ごとに分けて書いた。班長の名前を最初に書いた。


 班長10名:ダリオ、カイル、サル、ハルク、ベイン、クロ、ガッツ、ヴォルク、カル、エル。


 組長5名:ダリオ、カイル、ヴォルク、カル、ハルク。


 隊長:リーゼ。


 その下に各班の3名を書いた。全員の名前があった。


 書き終えてから、紙を見た。


 30名の名前があった。班ごとに分かれていた。組ごとにまとまっていた。


 ナナはそれを見ていた。


(これが組織だ。30名を動かすための形だ。これから人が増えれば、班も増える。組長も増える。隊長の下に副隊長も必要になる)


(守るために、組織を作る。人が増えるたびに、形を作り直す)


 ナナは紙を折りたたんだ。明日グリムとリーゼに渡す。

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