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第七魔王戦記 ~少女魔王は戦場にて微笑む~  作者: 猫じゃらし
第2部  調停者の戦場 第6章 廃墟から城砦へ
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第53話 帰順する者たち

 レンが戻ったのは3日後の夕方だった。


 南の様子を報告してから、グレンフォードで受け取ってきた文書を差し出した。


「ベラから。依頼と、手紙が一緒に入っていた」


 封を開けた。2枚の紙が入っていた。


 1枚目は依頼書だった。「街道安全確保・定期巡回依頼。Dランク相当。月契約。報酬:銀貨30枚」ナナが照会した内容よりも条件が良かった。備考欄に小さく書いてあった。


 「今の黒い翼にはこのくらいが妥当と判断した。それと、気をつけろ。ベラ」


 ナナは少し間を置いた。


(備考欄に書いてきた)


 依頼書の端に個人的な一言を添える。仕事の枠から出ない。それでも書いた。ベラらしかった。


(心配していたということだ)


 ナナは文書をオズに渡した。


「月契約で受けます。レンが見てきた南の街道の情報と合わせて、巡回ルートを組んでください」


「承知しました」


「それとベラに返事を出します。後で下書きをお願いします」


 オズが少し顔を上げた。


「返事ですか。依頼の受諾通知ではなく?」


「両方です。依頼の受諾と、短い返事を同封します」


 オズが何か言いかけて、やめた。「承知しました」とだけ言った。



 翌朝、巡回の1班目を南街道に出した。グリム・レン・ジャックの3人だった。


 出発前にグリムが言った。


「旧第六魔王軍の残党が南に散っているとレンが言っていた。遭遇した場合はどうする」


「状況を見てください。武装した集団なら距離を置いてください。武器を捨てていれば話を聞いてください」


「……話を聞く?」


「まず話を聞きます。それから判断します。捕まえるでも追い払うでもなく」


 グリムが少し間を置いた。不満ではなかった。確認している顔だった。


「分かった」


 3人が出ていった。



 昼過ぎ、門のところで声がした。番をしていたダリオが「止まれ」と言い、「武器を置け」と言った。


 ナナが外に出た。


 3人の男が門の前に立っていた。武器はすでに地面に置いてあった。全員が人族で、痩せていた。服が汚れていて、旅が長かった様子だった。


 先頭の男が前に出た。30代だった。体格が良く、目が真っ直ぐだった。


「第七魔王の城砦と聞いてきました。帰順を求めます」


 ダリオがナナを見た。ナナは3人を見た。武器を捨てて来た。それだけでは分からなかった。


「中に入ってください。話を聞きます」



 食堂に通した。水を出した。3人が飲んだ。


 先頭の男がヴォルクと名乗った。旧第六魔王軍の元小隊長だった。


「カオス様が死んで、魔王契約の力が消えました。部隊が崩れました。3人で動いていました」


「他の者はどこへ?」


「散りました。ルゼ様の方へ行った者、クレモア様の方へ行った者、旧領に残って略奪を始めた者。様々です」


「あなたたちは?」


「行く場所がありませんでした」


 ヴォルクが少し間を置いた。


「あなたが人族の仲間も守ると聞きました。本当ですか?」


「はい」


「魔族の魔王が、人族を?」


「はい」


 ヴォルクが2人を見た。2人が頷いた。ヴォルクがナナを見た。


「ここに置いてもらえますか」


 その時、扉が開いた。グリムだった。巡回から戻っていた。ヴォルクたちを見て、一瞬止まった。旧第六魔王軍の者だと分かった顔だった。


「……ナナ」


「グリム、話を聞いていましたか?」


「聞いていなかった。見れば分かる」


 グリムがヴォルクを見た。ヴォルクがグリムを見た。視線を外さなかった。


「旧第六魔王軍か」


「はい」


 グリムが少し間を置いた。長かった。グリムが鼻から息を出した。


「……何のために来た」


「行く場所がなかった。それだけです」


「嘘をついているか?」


「嘘をついても得がありません」


 グリムがもう一度ヴォルクを見た。腕を組んで、少し目を細めた。それ以上はヴォルクに向けて何も言わなかった。


 リーゼが後ろから来た。グリムの隣に立った。3人を見た。武器が地面にあった。痩せた体があった。真っ直ぐな目があった。リーゼの目が少し止まった。ヴォルクの目の向き方を確かめるように、もう一度見た。


「追い返せ」 短く言った。「旧敵を引き入れる理由がない」


「リーゼ」


「なんだ?」


「理由はあります。南の街道に略奪集団が出始めています。今は小規模ですが、まとまれば手に負えなくなります。ヴォルクさんたちは元小隊長です。旧第六魔王軍の動きを知っています。その情報と経験がいります」


「信用できるか?」


「今は分かりません」


 リーゼが少し目を細めた。


「正直だな」


「今の時点で信用できると言えば嘘になります。だから条件を出します」


 ナナがヴォルクを見た。


「武器は預かります。3日間、城壁の修復を手伝ってください。3日後に判断します」


 ヴォルクが2人に目をやった。2人が頷いた。


「分かりました」


 グリムがナナを見た。不満を飲み込んだ顔だった。



 3日間、ヴォルクたちは黙って働いた。文句を言わず、指示を待たずに動いた。石を運んで、砂を詰めて、崩れかけた箇所を補強した。日が暮れても手を止めなかった。


 リーゼは1日目、遠くから見ていた。近づかなかった。2日目、ダリオが作業を指示した。ヴォルクは素直に従い、指示が終わると周りを見回してまだやれることを探した。


 3日目の朝、グリムが南面の補修作業に入った。ヴォルクと同じ箇所を担当することになった。2人は一言も話さなかった。ただ黙って石を積んだ。昼になって作業が区切れた時、グリムが水の入った革袋をヴォルクに投げた。


「飲め」


 ヴォルクが受け取った。飲んだ。グリムは別の方向を向いた。どちらも何も言わなかった。投げた側も受け取った側も、その後すぐに石に向かった。


 ナナは離れたところからそれを見ていた。


 夕方、グリムがナナのところに来た。


「見ていた」


「どうでしたか?」


「……仕事ができる。特にヴォルクという男は、ダリオより段取りがいい」


「ダリオには言わないでください」


 グリムが短く笑った。すぐ真顔に戻った。


「信用はまだできない。追い返すよりはましかもしれないが、俺はそれ以上のことは言えない」


「そのうち分かります」


「……そうか」


 グリムが出ていった。



 翌朝、ヴォルクを呼んだ。


「黒い翼に加わってください。当面は戦闘任務には出ません。復興作業と情報提供が仕事です。武器はしばらく預かります。信頼が積み上がれば返します」


「……それで構いません」


「もう1つ。あなたが知っている旧第六魔王軍の動きを全部教えてください。隠した場合は即刻追い出します」


 ヴォルクが少し口の端を上げた。


「正直な方ですね」


「あなたに言われたくないです」


 ヴォルクが声を出して笑った。ナナは少し間を置いた。


(この人は使える)



 その夜、ナナはオズに頼んでいた返事の下書きを確認した。オズが書いたのは1行だった。


「ご心配をおかけしました。生きています」


 ナナは少し間を置いた。ベラが備考欄に書いてきた一言を思い出した。仕事の枠の中で、枠の外に出た言葉だった。オズも同じことをした。1行で十分だった。


「これで出してください」


 部屋を出ると、廊下でリーゼとすれ違った。


「ヴォルクたちの件」


「はい」


「私はまだ信用していない」


「そうですか」


「——ただし」 リーゼが少し間を置いた。「ダリオより仕事が早いのは認める」


「グリムも同じことを言っていました。ダリオには言わないでください」


「当然だ」


 リーゼが廊下を歩いていった。足音が遠くなった。


 ナナは廊下に少し立っていた。グリムとリーゼが別々に、同じ評価を同じ日に言いに来た。2人とも信用はまだしていないと言った。それでも来た。


 まだ始まりだった。ただ、始まった。

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