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第七魔王戦記 ~少女魔王は戦場にて微笑む~  作者: 猫じゃらし
第5章 第七魔王、戦場にて微笑む
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第50話:戦後処理と再建

 戦闘から2日が経った。


 朝、訓練の声が聞こえた。昨日はなかった。一昨日もなかった。今日、戻ってきた。グリムが班員に何か言っている声がした。怒鳴ってはいなかった。


 食堂を通った時、話し声があった。2日前より人が増えていた。ダリオが班員と何か食べていて、リーゼが1人で座っていた。リーゼがナナを見て、頷いた。ナナも頷いた。リーゼはそのまま食事に戻った。


(戻ってきている)


 執務室に入ると、机の上に文書が積まれていた。補給の報告、負傷者の記録、各部隊からの連絡。戦闘が終わると書類が来る。前世でも同じだった。


 オズが来た。


「負傷者の報告です。重傷7人は全員回復傾向にあります。エリスの治癒魔法が効いています。軽傷者は全員動いていて、グラ=ベイル軍の負傷者が3人残っていますが、明日には出発できる状態です」


「グラ=ベイルに伝えてください。急がなくていいと」


「伝えます。団長は——」


「私は大丈夫です。魔力もエリスに確認してもらいました。あと1日で戻ると言っていました」


「分かりました」


 オズが出ていった。ナナは文書に戻った。補給の再編、防衛ラインの見直し、南の平野への斥候増員。書きながら次の文書を開いて、また書いた。


 ヴァルを呼んだ。


(ヴァル)


 間があった。長かった。


(ヴァル)


『……ナナ』


 聞こえた。遠かった。2日前より、また遠くなっていた。


(聞こえる)


『……何か用か』


(用はない。聞こえるか確認した)


『……我は消えていない。なら仕事をしろ』


(している)


『……そうか』


 ヴァルは黙った。声は届いた。前より薄かった。輪郭が曖昧だった。ナナは文書に戻った。



 昼過ぎ、グラ=ベイルが来た。


 執務室に入ってきた。大きな体格が部屋を狭くした。椅子を引いて座った。


「話がある」


「どうぞ」


「今回の件、礼を言う」


「こちらこそ。グラ=ベイルが直接来てくれなければ、第一波は崩せませんでした」


「俺が来たのは協定の義務だけではない」


 ナナは少し間を置いた。


「……聞かせてください」


「前第七魔王とは古い付き合いだった。100年前の話だ。あの女が滅んだ時、俺はまだ若かった。あれ以来、第七魔王の名前を信用していなかった」


 ナナは黙った。


「お前を見て考えが変わった」


「どこで変わりましたか?」


「布告の場面だ。『生き残ってください』と言った。あの言葉は俺が100年間、誰にも言ってもらったことがない言葉だ」


 ナナは少し間を置いた。


「グラ=ベイルが100年生きているとは知りませんでした」


「獣人族の寿命は人間より長い。150年は生きる。前第七魔王を直接知っていた。あの女は強かった。ただ戦い方が違った。力で押すだけだった。お前は違う」


「前第七魔王について、いつか、聞かせてもらえますか」


「いつかな」


 グラ=ベイルが少し間を置いた。部屋の中が静かになった。


「1つ聞いていいか?」


「どうぞ」


「お前は、この戦いを続けるつもりか。カオスを倒しても、ルゼがいる。ルゼを抑えても、次が来る。魔王の争いは終わらない」


「終わらないと思います」


「それでも続けるか?」


「続けます。終わらないから続けない、という理由にはなりません」


 グラ=ベイルが少し間を置いた。大きな手が膝の上に置かれていた。


「……前第七魔王も同じことを言っていた。あの女も終わらないと知っていて戦っていた。その時、俺はあれを馬鹿だと思った」


「今は?」


「……そういう馬鹿が必要だと思っている」


 グラ=ベイルが立ち上がった。


「明日、帰る。フェンリルを残していく。連絡役だ。次にカオスが来た時、また呼べ」


「呼びます」


 グラ=ベイルが扉に向かった。止まった。振り返らなかった。


「……お前が笑ったのを見た。戦場で。カオスを撃破した後だ」


「笑っていましたか?」


「ああ。小さかったが、確かに笑っていた」


「気づいていませんでした」


 グラ=ベイルが出ていった。


(前第七魔王を直接知っていた。150年生きている。笑っていた?気づいていなかった。聞けることが、まだありそうだ)


 ナナは文書に戻った。



 夕方、リシュアが来た。扉の前に立った。


「クレモアの使者が来た。今日が3回目だ。私に会いに来ている」


「アルヴィスですか?」


「違う。若い使者だ。クレモアの名前で来ている」


「会いますか?」


「……お前が決めろ」


「リシュアはクレモアの元に戻りたいですか?」


 リシュアが少し間を置いた。


「戻らない。言った」


「では、今日は会わないでください。私が先に話を聞きます」


「私のことを聞かれたら?」


「適切に対処します」


 リシュアが出ていきかけた。止まった。


「——お前は私を使う気か」


「使います。使える人間を使わない理由がありません」


「クレモアとの交渉の駒として」


「駒ではありません。リシュアはリシュアです。クレモアがリシュアをどう見るかは、クレモアの問題です」


 リシュアが少し間を置いた。扉に手をかけたまま前を向いていた。


「……腕輪はまだ外れない」


「クレモアが話したがっている。話ができるなら、交渉ができます。いずれ外れます」


「根拠はそれだけか?」


「今はそれだけです。ただクレモアは急がないと言っています。こちらも急がない」


 リシュアが少し間を置いた。扉から手を離した。それから出ていった。


 ナナはオズを呼んだ。「クレモアの使者を通してください」


 5分後、若い男が入ってきた。20代で、丁寧な服を着ていて、緊張していた。


「第七魔王ナナミア様。第四魔王クレモア=クロック様より伝言を預かっています。——『お話がしたい。場所と日時はそちらに合わせる。急がない』とのことです」


「クレモア様に伝えてください。『受け取りました。こちらから日時を連絡します』と」


「承知しました」


 使者が出ていった。


(急がない、と言った。クレモアらしい。リシュアを焦らせない。私を急かさない。待てる相手だと示している)


 ナナは窓の外を見た。空が暗くなりかけていた。



 夜、ナナは城壁の上に出た。


 星が出ていた。風があった。石が冷たかった。


 ヴァルを呼んだ。


(ヴァル)


 長い間があった。今まで一番長かった。


(ヴァル)


『……なんだ』


 遠かった。


(前第七魔王について、グラ=ベイルが話してくれた。あなたを直接知っていると言っていた)


『……あいつか。しぶとい男だ』


(150年生きると言っていた)


『……我が滅んだ時、まだ若かった。今はもう若くないな』


 ヴァルが少し間を置いた。


(お前が少女の姿で滅んだのは、どういう理由だ)


 今まで一番長い間があった。城壁の旗が1度鳴った。それだけが動いた。


『……いつか話す。まだその時ではない』


(分かった)


 少し間を置いた。


(ヴァル。声が薄くなっている。2日前より遠い)


『……気にするな。我は消えていない。まだやることがある』


(いつか「役目は終わった」と言うつもりか)


『……お前は鋭すぎる』


(準備はしている)


『……まだ早い。もう少しだけ、我の声を聞いていろ』


 ナナは少し間を置いた。


(分かった)


 ヴァルは黙った。ナナも黙った。


 星が出ていた。南の平野が暗かった。静かだった。守れた戦場だった。


 次にやることがあった。クレモアとの話、補給の再編、防衛ラインの整備、カオスの監視。前世では、生き延びることだけを考えていた。今は違った。守り続けるために、動き続けることを考えていた。


 ナナは城壁の上でしばらく立っていた。ヴァルの声が聞こえなくなっても、すぐには降りなかった。

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