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第七魔王戦記 ~少女魔王は戦場にて微笑む~  作者: 猫じゃらし
第5章 第七魔王、戦場にて微笑む
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第49話 政治的勝利

 声が聞こえた。グリムだった。


「——起きたか?」


 ナナは目を開けた。天井があった。石の目地が見えた。イグレアだった。


「何時間ですか?」


「4時間だ」


 ナナは身体を起こした。今回はグリムが止めなかった。


「報告してください」


「全員生きている。重傷が7人だが、全員動いている。カオスは倒れたまま動かない。グラ=ベイルの兵が周囲を見張っているが、近づける状態じゃなかった。生死は確認できていない」


「ルゼは?」


 グリムが少し間を置いた。


「それだ。バロウから文書が来ている」


 グリムが文書を渡した。ナナは開いた。短かった。


 ルゼ=アヴァロンが北東の兵を引き上げた。昨日の昼過ぎから動き始め、今朝には国境から撤収している。理由は不明。


(昨日の昼過ぎ——カオスが倒れた時間と一致する。ルゼは見ていた。連合軍がカオスを撃破するのを見て——判断した)


「何を考えている?」


 グリムが聞いた。


「ルゼが3つのことを確認したと思います。1つ目——連合が成立した。グラ=ベイル・精霊族・ベルグランド・黒い翼が動いた。複数の勢力が1つの目標に向けて動ける体制がある。2つ目——調停者が機能している。私がカオスを撃破した。ルゼの基準では、純血主義への障害になる可能性がある相手だと再評価したと思います。3つ目——戦力損耗のリスクです。北東の兵200で連合軍500に当たれば消耗が大きい。割に合わないと計算した」


 グリムが腕を組んで黙った。文書を見た。


「……それで引いたのか」


「今は、です。ルゼは保留しただけです。いずれまた動きます。ただ今ではない——それで十分です」


「……政治的な勝利、というやつか」


「そうです。戦って勝ったわけではありません。戦わせなかった」


「……お前らしいな」


「そうですか?」


「ああ」


 グリムが立ち上がった。


「エリスが来たがっていた。呼んでいいか?」


「全員来てください」


 グリムが扉に向かった。止まった。振り返らなかった。


「……よくやった」


「ありがとうございます」


 グリムが出ていった。



 エリスが来た。グリムと入れ違いだった。ナナを見た。少し間を置いた。椅子を引いて座る前に、もう一度ナナを見た。


「……泣いていいよ」


「泣いていません」


「泣きそうな顔をしている」


「していません」


 エリスが椅子に座った。


「魔力の消耗は——回復まで3日はかかると思う。今回は前回より使った。動かないで」


「はい」


 エリスが少し間を置いた。


「……守れたね」


 ナナは少し間を置いた。


「守れました」


 エリスが頷いた。それ以上は何も言わなかった。ただ、少しの間そこにいた。窓の外の光がナナとエリスの間に落ちていた。エリスが立ち上がった。


「また明日来る」


「はい」


 エリスが出ていった。


 レンが来た。部屋の端に立った。腕を組んだ。少し間を置いた。ナナを見た。それから窓の外を見た。


「……死ぬなよ」


「死にません」


 レンが出ていった。


 リシュアが来た。扉の前に立った。


「……生きていたか」


「生きています」


「そうか」


 リシュアが出ていきかけた。止まった。


「——クレモアの使者が来ていた。お前が昏睡している間に来た。明後日もう一度来ると言って帰った」


「分かりました。その時に話を聞きます」


「私のことを聞いてくるかもしれない」


「聞いてきたら、適切に対処します」


 リシュアが少し間を置いた。扉に手をかけたまま、前を向いたまま言った。


「……任せる」


 リシュアが出ていった。



 夕方、1人になった。


 ナナはヴァルを呼んだ。


(ヴァル)


 静かだった。


(ヴァル)


 返事がなかった。昨日、「後で話す」と言っていた。


 ナナは窓の外を見た。空が暗くなりかけていて、雲がなかった。星が出始めていた。


(——後で、か)


 少し間を置いた。


(ヴァル。聞こえているなら、返事をしなくていい。今日、守れた。全員生きている。カオスは動かない。ルゼは引いた)


 風があった。窓から入ってきた。冷たかった。


(お前が教えてくれたことを使った。100年前の構図と同じだと言っていた。ルゼは様子を見ると言っていた。その通りだった。戦意崩壊の戦術も——カオスが「本能的な危機感」を持つと言ったのはお前だった。あの言葉がなければ思いつかなかった)


 返事がなかった。窓の外で風が鳴った。


(前世で、守れなかった時があった。あの時は感情が出なかった。ただ動き続けた。今日は違う。守れた実感がある。その違いが——お前と一緒にいたからかどうかは分からない。ただ今日は、守れた実感を感じながら眠れると思う)


 静かだった。


(——もう少ししたら聞こえるようになるか?)


 返事がなかった。


 ナナは窓の外を見た。星が増えていた。


(ヴァル——消えていないと思う。「後で話す」と言った。お前はそういう言葉を曖昧に使わない。だから待つ)


 ナナは少し間を置いた。


 星を見ていた。風がまた来た。


 ヴァルの声を待ちながら、ナナはそのまましばらく窓の前に立っていた。

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