表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/58

第25話 使者

 グレンフォードに戻ったのは夕方だった。


 ベラに報告した。ヴァルグ討伐の完了を告げ、依頼書に署名をもらった。金貨2枚を受け取った。


「お疲れ様。それと——」


 ベラが少し間を置いた。


「昨日から、お前たちを待っている者がいる」


「誰ですか?」


「自分で確認しろ。ギルドの外で待っていると言っていた」


 ナナはグリムを見た。グリムが肩をすくめた。


 ギルドの外に出た。


 街道の端に、人がいた。


 小柄だった。ナナより少し背が高い程度だった。耳が長かった。髪が淡い緑色だった。目が明るい緑色だった。服は薄い布でできていて、森の中に溶け込む色だった。腰に短剣を1本下げていた。


 精霊族だった。


 ナナを見た瞬間、その目が変わった。肩の力が抜けて、次の瞬間また背筋が伸びた。


「あなたが黒い翼の団長?」


「そうです」


「よかった。待っていた」


 精霊族が一歩前に出た。


「私はリーファ。精霊の大森林からきた」


「ナナです。用件を聞かせてください」


 リーファが少し間を置いた。


「助けてほしい」


 迷いのない言葉だった。



 ギルドの一室を借りた。グリム・リーゼ・ダリオが同席した。


 リーファが話し始めた。


「3週間前から、大森林の南縁に怪物が集まり始めた。最初は小さい群れだった。今は数百頭規模になっている。種類も混在している。ヴァルグ・オーガ・それより大きいものも混じっている」


「なぜ集まっているか分かりますか?」


「分からない。何かが森の奥から引き寄せている。そういう気配がある」


「精霊族だけでは対処できないんですか?」


「できない」


 リーファが正直に言った。


「私たちは森を守ることはできる。ただ外に出て戦うことは得意じゃない。数百頭を相手にする力は——今の私たちにはない」


「精霊族の魔王は?」


 リーファが少し顔を伏せた。


「……動けない。ずっと臥せっている。もう長くないかもしれない」


「そうですか」


「それで森のバランスが崩れた。怪物が増えたのもそれが原因だと思っている。族長のエルドランは今、魔王のそばを離れられない」


(魔王が瀕死。それが根本にある)


 ダリオが口を開いた。


「数百頭か。17人で対処できるのか?」


「地形と配置次第です」


「根拠は?」


「怪物の群れは統率がなければ烏合の衆です。誘導できれば数は問題になりません。森の外縁に誘い出して地形を使って分断する。一度に当たらなければいい」


 ダリオが少し間を置いた。


「……やってみなければ分からないが」


「そうです」


 ナナはリーファを見た。


「精霊族の協力が必要です。風か音か、怪物を特定の方向に誘導できますか?」


「風なら出せる。音も出せる」


「十分です」


 リーファがナナを見た。


「……本当に来てくれるの?」


「はい。ただ——」


 ナナは少し間を置いた。


「もう1人、連れていきたい人間がいます。出発を明後日の朝にしてもいいですか?」


「誰を?」


「魔法使いです。リーベンスにいます」


 グリムが少し眉を上げた。


「エリスか」


「はい。これだけの規模の怪物相手なら、魔法支援があった方がいい」


「リーベンスまで半日かかるぞ」


「今夜出れば明朝着きます。1人で行ってきます」


「また1人でか?」


「グリム、一緒に来ますか?」


 グリムが少し間を置いた。


「……行く」


「ではグリムと2人で行きます。残りはリーゼさんに任せます」


 リーゼが頷いた。


「準備をしておく。食料と装備の補充、依頼の確認——オズ、明日中に全部済ませられるか?」


「はい。今夜中に計画を立てます」


 リーファがナナを見た。


「その魔法使いは信用できる?」


「はい。友人です」


 リーファが少し目を細めた。


「……友人を戦場に連れていくの?」


「友人だから連れていきます。1人で行かせるより安全です」


 リーファがしばらく考えた。


「分かった。明後日の朝、ここで待つ」


「ありがとうございます」



 夜、ナナとグリムはリーベンスへ向かった。


 月明かりがあった。街道は見えた。


 グリムが歩きながら言った。


「エリスを戦場に連れていくのは初めてか」


「はい」


「嫌がるか?」


「嫌がらないと思います」


「なぜ?」


「以前、何かあれば頼むと言っていました。今がその場面です」


 グリムが少し間を置いた。


「……友人を危険な場所に連れていくことへの迷いはないのか?」


 ナナは少し考えた。


「あります」


「あるのか」


「あります。それはエリスに選ばせます。私が決めることではありません」


 グリムが黙った。しばらく歩いた。


「そうだな」


 それだけ言った。


 リーベンスに着いたのは夜半だった。


 ギルドに明かりがついていた。


 扉を叩いた。


 少し間があった。扉が開いた。エリスだった。寝ていなかった。本を読んでいたのか、目が冴えていた。


 ナナを見た。グリムを見た。2人の顔を見た。


「何かあった?」


「用があって来ました」


「真夜中に?」


「はい」


 エリスが扉を大きく開けた。


「入って。師匠も起きてる。呼んでくる」


 中に入った。


 マルセルが奥から来た。ナナを見て、少し眉を上げた。


「夜中に来るとは急ぎの用か」


「はい。精霊の大森林に怪物が大量発生しています。明後日、黒い翼で出動します」


 マルセルが少し目を細めた。


「精霊族から連絡が来ていた。深刻だと思っていたが——お前たちが動くか」


 ナナはエリスを見た。


「エリス、一緒に来てもらえますか?」


 エリスが少し目を丸くした。


「戦場に?」


「はい。魔法支援が必要です。数百頭規模の怪物相手に、遠距離から範囲魔法を撃てる人間がいると違います」


「範囲魔法——風とか炎なら出せるけど、そのくらいで役に立てる?」


「十分です。怪物を誘導する場面で使えます」


 エリスが少し間を置いた。


「危ない?」


「危ないです」


「正直だね」


「嘘をつく意味がありません」


 エリスがマルセルを見た。マルセルが何も言わなかった。判断を委ねていた。


 エリスがナナを見た。


「私が行かなかったら?」


「別の手を考えます。でも難しくなります」


「私が行ったら?」


「戦える可能性が上がります」


 エリスが少し笑った。


「正直すぎる」


「そうですか?」


「うん」


 エリスが立ち上がった。


「行く。準備する」


「ありがとうございます」


「礼はいい——って、あなたに言っても無駄か」


「無駄です」


 エリスが笑った。マルセルが短く息を吐いた。


「エリス」


「何?」


「死ぬな」


「死なない」


「……信じているぞ」


 マルセルがナナを見た。


「頼んだ」


「はい」


 マルセルが奥に戻った。


 エリスが荷物をまとめ始めた。手が速かった。慣れていた。


「前から準備してたんですか?」


「……少しだけ」


 エリスが横を向いたまま言った。


「また来るって言ってたから。何かあったら呼ぶかもって思ってた」


 ナナは少し間を置いた。


(準備していてくれたのか)


「……ありがとうございます」


「礼はいいって言ったのに」


「言わずにいられませんでした」


 エリスが振り返った。視線がナナから少し外れた。


「行こう。明後日に備えて早く寝ないと」


 グリムが壁にもたれたまま言った。


「……友人というのは便利だな」


「どういう意味ですか?」


「真夜中に叩き起こしても来てくれる」


 エリスがグリムを見た。


「副団長?」


「ああ」


「ナナのこと、よろしくお願いします」


「……お前にも言われるか」


 グリムが短く笑った。


 3人でギルドを出た。


 月が高かった。


 明後日、大森林へ向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ