第6話 覚悟の証明
エルフたちに囲まれる中、ジークが一歩前に出る。
「エテルノ殿は息災か? 我はジークフリード。元アルヴォラーダ王国の騎士にて、エテルノ殿より魔法を教わった者だ」
エルフに魔法を教わった?
常識では考えられない。
「エテルノ……族長から魔法を教わっただと? 族長はこの二百年、外界のものとは交流を持っていない。それに、族長の名を軽々しく口にするな!」
「嘘ではない。お主たちは聞いたことがないだろうか。三百年前、『破滅の龍』を討った騎士。その名が私、ジークフリードだ」
自分で言うのですね、と場違いに思う。
疲れたなどと言っている場合ではない。
やめたとは言え、ジークが『聖女』として頼ってくれてるのは、間違いなく私なのだから。
「本当です! 彼はディヴィザ岬の教会で石にされておりました。それを私が解呪し、三百年の時を越えて蘇ったのです。エテルノ様と親交があったのはそれ以上前となるはずです」
「そのような世迷い言、誰が信じるというのだ!」
「ならば今ここで、私が石となれば信じるか?」
「ジークッ!」
私が非難の叫びをあげると、彼はエルフたちを見据えたまま、私だけに聞こえる程度の声の大きさで話す。
「エリアナ、このままでは埒が明かん。一か八か試してみてもよかろう」
「再び戻る保証はないのですよ?」
「それでもだ」
会話は終わりだとばかりに、ジークは私を見て深く頷いてくる。
迷いのない目だった。
その時、森の風が一瞬止んだ。
一人のエルフが、思わず森の奥へ視線を向ける。
私は胸の前で手を組み、集中する。
祈る神はいない。
それでも、手は組まれていた。
身体から出ている魔力を少しずつ絞り込み、魔力が遮断され始めた。
「うっ!」
目を開けると、足先から石化が始まっている。
エルフたちもそれを見て驚愕の表情を浮かべた。
今すぐ魔力を解放したい、ジークを救いたい!
けど……それは彼が望むことではない。
ならば彼の苦しみを少しでも早く終わらせなければ。
私は少しずつ抑えられていた魔力を、力ずくで一気に閉じた。
その瞬間、細かな亀裂が走り、一気に石へと変わった。
固まりきる直前、彼は一言、
「頼む」
それだけを残し、微笑みながら石化した。
残ったのは、冷たい石像だけ。
「貴様、何をした!」
「言ったはずです。私が解呪したと。解いてはいません。抑えただけです。」
「これが、彼が三百年の時を超えて今、再び現れた理由です。どうか、エテルノ様へお目通りを願えませんでしょうか」
「そのような嘘が我らに通じるか。石化を操る魔女め!もはや我慢ならん、十数えるうちに去らなければ……射る!」
射られれば、彼は砕ける。
そうなれば、もう戻らない。
「三……二……」
森の奥で、枝葉がわずかに揺れた。
私はジークの前に立ち、手を広げる。
「防御壁!」
小さな、頼りない結界が張られた。
私はその結界でジークと私の頭だけを覆う。
「一……射てー!」
号令とともに八本の矢が空を裂く。
二本の矢は結界で弾かれた。
しかし。
グサッ!
「あぁーっ!」
結界で覆われない肩と脇腹に、焼けるような衝撃が走った。
思わずその場に膝から崩れ落ち、呼吸が浅くなる。
「しぶといな。だが……」
指揮を取るエルフの女性の視線が、石化したジークから、私へと揺れる。
それでも力強く叫ぶ。
「これで終わりだ!」
彼女が手を上げると、全員が再び矢をつがえた。
いけない!
ジークを守らないと!!
私は彼の石像にしがみつき、身体を預けながら、無理やり立ち上がる。
足が震えていた。
触れられれば、私のほうが先に崩れそうだった。
だけど、彼がいなければ――!
「射てー!」
私は振り返ってジークの首に手を回し、彼の身体を覆うように抱きつく。
彼だけは、守る!
その時、私の後ろを一陣の風が吹き抜けた。
カラン。
ふと後ろを見ると、矢が少し離れた地面に転がっている。
「プリメラ、ワシの客だ。弓を下ろせ。――ワシが言っている」
エルフたちは、即座に弓を下ろした。
「まずは連れてきなさい。それが人間であろうともな」
エルフたちの奥から、白髪のエルフが一人、杖をつきながらこちらへとやってきた。
「エテルノ……様。なぜ?」
「『好奇の探求者』。昔はそんな名でも呼ばれたよ。お主たちももう少し頭を柔らかくせねばな」
そんなやり取りまでを聞くと、私の意識は途切れてしまう。
地面に落ちる瞬間、柔らかな何かに包まれた気がしたが、それを確認することなく、私は闇へと落ちていった。




