第3話 守ると決めた、その瞬間に
「まずは貴様から始末してくれる!」
隊長と思われる騎士が剣を抜いた。
鞘走りの音を合図に、周りの騎士たちもそれに続く。
隊長の号令で従者たちが突撃してくる。
手にする武器は槍や剣、こん棒など様々だ。
だがその眼にははっきりと脅えが見て取れる。
先程のジーク様の闘気にあてられたのだろう。
「ジーク様……」
私はそっとその肩に手をかけると、彼は少し口の端を上げてうなずいた。
右手を真っ直ぐ従者たちへ向けたかと思うと、腕を下げ、その少し前方へと向ける。
「小爆発!」
ジーク様がそう叫ぶと、彼らの目の前の大地がはじけ飛び、土煙が晴れると人一人が埋まれそうな穴が開いていた。
それを見た先頭の従者たちは数人が尻もちをつき、後続は足を止める。
「こうなりたくなければ去れ! 我とていたずらに命を取ろうとは思わんっ!」
その言葉に従者たちは顔を見合わせるが、騎士からの圧力もあるのでそうそう逃げるわけにはいかない。
おろおろと立ちすくむ従者たちを見てジーク様は、
「このような従者ではなく貴様たちがかかってこい。王国騎士団は三百年の間にそこまで腑抜けたかっ!」
騎士たちへそう叫んで手のひらを上に向け、人差し指でクイッ、クイッと挑発する。
これには騎士たちも黙ってはいられなかったようで、
「三百年だと、何を訳の分からないことを!? こうなれば我々が相手だ。従者ども、どけいっ!」
騎士たちは馬を走らせ、あっという間にジーク様へと距離を詰める。
先頭の騎士が大きく剣を振りかぶろうとした時、ドンッ! という鈍い音と共に、ジーク様が私の隣から消えた。
次の瞬間、騎士の目の前に現れたかと思うと、その大きな手のひらを鎧の腹部へそっと添えた。
いや、私には添えたようにしか見えなかった。
ベゴッ! という嫌な音。
剣を振りかぶった騎士は剣と共にゆっくりと後ろへ倒れていき、ドスン! という音を立てて馬から落ちていた。
その状況を見た隊長はすぐさま他の騎士たちへ指示を飛ばす。
「散開っ! 囲んで叩く!」
号令に騎士たちの馬は広がってジーク様を取り囲む。
それを見たジーク様は慌てた風でもなく、側にいた馬を叩き、
「そら、逃げろ!」
と、馬を逃がしていた。
「ハハッ、死ぬ前に馬の心配とは余裕だな」
その言葉に軽く視線を送り、ジーク様はため息を吐きながら背中の大剣を抜いた……かと思った瞬間、構えもせず無造作に手前に突き出す。
その剣が目の前にいた騎士の馬の前足を切り裂き、馬は痛みから暴れだす。
制御しきれず騎士は振り落とされ、馬はどこかへと駆けて行ってしまった……。
皆がその馬に視線をとられている隙に、ジーク様の大剣が円状に閃くと、騎士たちが構えていた剣が次々と跳ね飛ばされる。
ほんの数秒――その時間で騎士たちは落馬し、剣を失い、あっという間にジーク様が優勢となった。
ジーク様は右手で剣を天へ掲げ、
「我が名はジークフリード。『破滅の龍』を退けた者なり! これ以上やるのならば、もはや容赦はしない」
そう言うと、空いた左手に魔力の光を生み出した。
「さあ、俺がこれを投げないうちにさっさと立ち去れ!」
魔力……というより、その前のジーク様の名前を聞いて騎士達には動揺が走っていた。
それはそうだろう、この国の騎士ならば知らぬ者はいない英雄伝説。
その紛れもない主役が目の前に立っているのだから。
けど……
「貴様が本当にあのジークフリードかどうか、判断する術を我らは持たん。だが確かなことがひとつある」
隊長はそう言うと、手近に落ちていた剣を拾い上げ……ずに、勢いよく投げつけた。
そう、私に向かって!
「その女だけは殺さねば戻れんのだ!」
急なことに私の頭はついていかず、動こうにも動けない。まるで剣先に込められた隊長の気迫が私の身体を縛るかのように。
ダメッ!
避けきれないと悟った私が目を瞑ったその時、
ヒュンッ!という風切り音の後、固いものがぶつかる音が聞こえた、
目の前で起きた音に、思わず目を開けると、私の顔の前にジーク様の大剣が突きつけられている。
どうやら剣を叩き落としてくれたようだ。
しかしジーク様の獲物を捉える鋭い目付き、そして剣先から伝わるすさまじい闘気に私は耐えきれず、よろめいて後ずさると、すかさずジーク様が駆け寄り身体を支えてくれた。
「すまん、エリアナ」
言葉短くそれだけを言って、再び騎士達に向き直る。
「どうあっても引く気はないか」
「無論だ! 命は絶対。貴様も騎士の端くれならば分からんとは言わせんぞ」
「そうか……残念だ」
ジーク様は一瞬だけ悲しそうに視線を落とすが、すぐに剣を構え直し駆け出した。
そこからはとても戦いと呼べるようなものではなかった。ただ、ジーク様が剣を一振りするごとに、騎士の命が一つずつ消えてゆく。
彼らとて国のためにと努力を重ね、今の地位を築き上げたはずだ。
ジーク様の剣はその努力を、人生を、一瞬で無に帰していく。
「ば、化物め……」
散り際の隊長のその一言を最後に、先程までの喧騒が、静寂へと取って代わった。
「許せ……」
ジーク様のその小さなつぶやきだけが、とても強く私の耳に残っていた。




