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逃亡聖女と不死の騎士は、神なき世界で生きると誓う  作者: 八坂 葵


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3/18

第3話 守ると決めた、その瞬間に

「まずは貴様から始末してくれる!」


 隊長と思われる騎士が剣を抜いた。

 鞘走りの音を合図に、周りの騎士たちもそれに続く。


 隊長の号令で従者たちが突撃してくる。

 手にする武器は槍や剣、こん棒など様々だ。

 だがその眼にははっきりと脅えが見て取れる。

 先程のジーク様の闘気にあてられたのだろう。


「ジーク様……」


 私はそっとその肩に手をかけると、彼は少し口の端を上げてうなずいた。

 右手を真っ直ぐ従者たちへ向けたかと思うと、腕を下げ、その少し前方へと向ける。


小爆発(デトナツィオン)!」


 ジーク様がそう叫ぶと、彼らの目の前の大地がはじけ飛び、土煙が晴れると人一人が埋まれそうな穴が開いていた。

 それを見た先頭の従者たちは数人が尻もちをつき、後続は足を止める。


「こうなりたくなければ去れ! 我とていたずらに命を取ろうとは思わんっ!」


 その言葉に従者たちは顔を見合わせるが、騎士からの圧力もあるのでそうそう逃げるわけにはいかない。

 おろおろと立ちすくむ従者たちを見てジーク様は、


「このような従者ではなく貴様たちがかかってこい。王国騎士団は三百年の間にそこまで腑抜けたかっ!」


 騎士たちへそう叫んで手のひらを上に向け、人差し指でクイッ、クイッと挑発する。

 これには騎士たちも黙ってはいられなかったようで、


「三百年だと、何を訳の分からないことを!? こうなれば我々が相手だ。従者ども、どけいっ!」


 騎士たちは馬を走らせ、あっという間にジーク様へと距離を詰める。

 先頭の騎士が大きく剣を振りかぶろうとした時、ドンッ! という鈍い音と共に、ジーク様が私の隣から消えた。

 次の瞬間、騎士の目の前に現れたかと思うと、その大きな手のひらを鎧の腹部へそっと添えた。

 いや、私には添えたようにしか見えなかった。


 ベゴッ! という嫌な音。

 剣を振りかぶった騎士は剣と共にゆっくりと後ろへ倒れていき、ドスン! という音を立てて馬から落ちていた。

 その状況を見た隊長はすぐさま他の騎士たちへ指示を飛ばす。


「散開っ! 囲んで叩く!」


 号令に騎士たちの馬は広がってジーク様を取り囲む。

 それを見たジーク様は慌てた風でもなく、側にいた馬を叩き、


「そら、逃げろ!」


 と、馬を逃がしていた。


「ハハッ、死ぬ前に馬の心配とは余裕だな」


 その言葉に軽く視線を送り、ジーク様はため息を吐きながら背中の大剣を抜いた……かと思った瞬間、構えもせず無造作に手前に突き出す。


 その剣が目の前にいた騎士の馬の前足を切り裂き、馬は痛みから暴れだす。

 制御しきれず騎士は振り落とされ、馬はどこかへと駆けて行ってしまった……。


 皆がその馬に視線をとられている隙に、ジーク様の大剣が円状に閃くと、騎士たちが構えていた剣が次々と跳ね飛ばされる。


 ほんの数秒――その時間で騎士たちは落馬し、剣を失い、あっという間にジーク様が優勢となった。


 ジーク様は右手で剣を天へ掲げ、


「我が名はジークフリード。『破滅の龍』を退けた者なり! これ以上やるのならば、もはや容赦はしない」


 そう言うと、空いた左手に魔力の光を生み出した。


「さあ、俺がこれを投げないうちにさっさと立ち去れ!」


 魔力……というより、その前のジーク様の名前を聞いて騎士達には動揺が走っていた。

 それはそうだろう、この国の騎士ならば知らぬ者はいない英雄伝説ア・レンダ・ド・ヴァレンテ

 その紛れもない主役が目の前に立っているのだから。

 けど……


「貴様が本当にあのジークフリードかどうか、判断する術を我らは持たん。だが確かなことがひとつある」


 隊長はそう言うと、手近に落ちていた剣を拾い上げ……ずに、勢いよく投げつけた。

 そう、私に向かって(・・・・・・)


「その女だけは殺さねば戻れんのだ!」


 急なことに私の頭はついていかず、動こうにも動けない。まるで剣先に込められた隊長の気迫が私の身体を縛るかのように。


 ダメッ!


 避けきれないと悟った私が目を瞑ったその時、


 ヒュンッ!という風切り音の後、固いものがぶつかる音が聞こえた、


 目の前で起きた音に、思わず目を開けると、私の顔の前にジーク様の大剣が突きつけられている。

 どうやら剣を叩き落としてくれたようだ。


 しかしジーク様の獲物を捉える鋭い目付き、そして剣先から伝わるすさまじい闘気に私は耐えきれず、よろめいて後ずさると、すかさずジーク様が駆け寄り身体を支えてくれた。


「すまん、エリアナ」


 言葉短くそれだけを言って、再び騎士達に向き直る。


「どうあっても引く気はないか」


「無論だ! 命は絶対。貴様も騎士の端くれならば分からんとは言わせんぞ」


「そうか……残念だ」


 ジーク様は一瞬だけ悲しそうに視線を落とすが、すぐに剣を構え直し駆け出した。


 そこからはとても戦いと呼べるようなものではなかった。ただ、ジーク様が剣を一振りするごとに、騎士の命が一つずつ消えてゆく。


 彼らとて国のためにと努力を重ね、今の地位を築き上げたはずだ。

 ジーク様の剣はその努力を、人生を、一瞬で無に帰していく。


「ば、化物め……」


 散り際の隊長のその一言を最後に、先程までの喧騒が、静寂へと取って代わった。


「許せ……」


 ジーク様のその小さなつぶやきだけが、とても強く私の耳に残っていた。


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― 新着の感想 ―
ジークの矜持がすごいかっこいいですね
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