表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡聖女と不死の騎士は、神なき世界で生きると誓う  作者: 八坂 葵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

第21話 目の前にある恐怖

『古代遺跡ルイーナス』へ向かうため、北東に道を進む私たち一行。

 しかしフォーゴさんがまだまだ馬に慣れきっていないため、道中細かく休みを入れていた。

 その小休憩。

 なんでもない時間。

 そして『なんでもない時間』などないのだと思い知らされた時間。


「ぐわぁぁぁぁっっ!」


 木にもたれかかって休んでいたジークが、突如悲鳴にも似た叫びを上げて転げ回る。

 急いで近寄ると、とても痛そうに全身を押さえている。

 急いで治癒の魔法をかけるが、魔力はすべてジークに吸い込まれてしまう。

 そうだ、石化解除に使われてしまう。

 だからジークは傷を負っても自分の不死の能力で……。


 そこまで考えたところで思い至る。

 前回も突然苦しんだ時があった。

 まさか、『破滅の龍』が?


 苦しげに目を開き、手を伸ばすジークの手を取り、私は強く握り返した。


「ジーク、しっかり! 『破滅の龍』などに負けてはいけません!」

「エ、エリアナ……まずい、ヤツが」


 そこまでを話すと、ジークは意識を失う。

 私は彼の頭を膝に乗せる。

 プリメラさんを振り返ると、頷いていた。

 おそらく、間違いない。


『破滅の龍』が、蘇ったのだ。


 ◇◆◇


 ちょうど日も落ちてきたところだったので、その日は一日そこで休むことに。

 しばらくするとジークが目を覚ました。

 私と目が合うと、膝枕をされていることに気付き、急いで降りて起き上がる。


「すまんな、エリアナ。重かったろう?」

「はい、少しだけ」


 ふふっと笑う。

 さすがに三時間は長かった。

 正座が得意とは言え、さすがの私の足も痺れている。

 けど、それだけジークの体に負担がかかったのだろう。

 ならば、足の痺れくらい。


 私が足を崩して足を揉んでいると、ジークが微笑ましい表情を投げてきた。


「なんです?」

「いや、だいぶ旅慣れてきたというか、気遣いがなくなってきて良かったなと」

「本当は我慢したいですよ? けど、このタイミングで何かが起きて、その時動けないほうが後悔しますから」

「すまないな、付き合わせて」


 幸い足の痺れはすぐに取れた。

 私はジークに詰め寄り、頬をガチッと掴む。


「ジーク、私が勝手に付いてきてるんです。間違えないでください」


 目をパチパチさせると、私の手を外し、再び穏やかな笑みになる。


「おい、お前ら。起きていちゃついてるなら、少しは手伝え」

「ははっ、邪魔してやるなよ、可哀想に」

「邪魔じゃない。正当な抗議だ」

「頭が固いねぇ、アンタは」


 プリメラさんとフォーゴさんが言い合いを始めそうになってたので、私は慌てて立ち上がる。

 すると二人は不思議そうにこちらを見てきた。


「何を慌ててるんだ、エリアナ」

「えっ、いえ、ケンカをしそうになってたので」

「はははっ、別にケンカじゃない。軽口の叩きあいさ。仲が悪いわけじゃないぞ?」


 そういえばスブソーロを出る前に、プリメラさんがフォーゴさんに馬の乗り方を教えてた時は仲も悪くなさそうだった。


「ははぁ、エリアナさん。まさかエルフとドワーフは仲が悪いって話を聞いたことがあるな?」

「え、ええ。スブソーロでそういうものでもなさそうなことは知れたんですが、ついまだ残ってしまって」

「ま、仕方ない。あの話は人間が広めたからな」

「そうなのですか!」


 聞けば、長く人間に手を貸さないエルフへ悪印象を与えるべく、国がエルフとドワーフは仲が悪いという物語を作り広め、人間と仲の良いドワーフは善、仲の悪いエルフは悪ということにしたそうだ。


「まあ俺達は別に人間と仲がいいわけじゃなくて、酒と加工の技術で取引をしてるだけなんだがな。もちろん付き合っていけば、仲が良いやつも出てくるがね」

「我々も人間からどう思われようと、森の仲間は守る。侵入者は排除するだけだからな。むしろ近づいてくれなくてお互い良かったかもしれん」


 そう告げるプリメラさんを少し睨む。


「な、なんだ?」

「おかげで痛い目に遭わされましたけどね」

「あっ、あれはお前らが、その……済まなかった」


 前までなら「お前らが悪い」とバッサリだったプリメラさんは、旅の中でこうしてかなり柔軟な考えになってくれている。

 おかげでこんなことも言えるのだけど。


「ふふっ、冗談ですよ。さ、野営の準備を進めてしまいましょう」


 ◇◆◇


 次の日。

 馬を進める私たちの前方の空に、黒く大きな影が見えてきた。


「雨、でしょうか?」

「まずいな、雨宿りできる場を探すか」


 馬を引き返そうとするプリメラさんを、ジークが手で制する。

 心なしかその手は震えているように見えた。


「動くな、ヤツだ」


 影は次第に大きくなり、視認できる距離に。

 大きく巨大なトカゲ。

 しかしそのトカゲには、広く強靭そうな翼と、やとても太い足がついていた。

 体は黒く硬そうな鱗にびっしり覆われている。


 ドスン!


 私たちの目の前に着陸したのは、


「『破滅の龍』!」


 ジークの言葉に驚愕が走る。

 大きさはまるで小山のよう。

 見上げた遠く先にある、真紅の目が私たちを捉える。

 その瞬間、魂を握られたかのような恐怖が全身を貫いた。

 ジークはこんなものと戦って勝ったというのか。


 簡単に考えていたつもりはなかったけど、予想は甘すぎた気がする。

 目の前の存在は勝利などというものを考えさせてくれない。

 絶望が静かに心を染めてゆく。

 ゆっくりと口を開く。

 終わる……の?

 私たちの、ジークとの旅が。


『ほほぅ、貴様見覚えがあるぞ、騎士よ』

「それはあるだろう。三百年前、引導を渡してやったからな」

『やはりそうか。かすかな我が魔力を感じてみれば、楽しいものを見つけた』

「わざわざまた殺されにきたか」


 ジークが背中の大剣に手をかけると、『破滅の龍』が、『むっ!』と声を上げた。

 そして首を動かし、顔を私たちに近づけてきた。

 気のせいか、私を見ているような……。


『女、貴様が持っているそれは、まさか『断界の剣(イゾラメント)』か』

「そ、そうです。これで、あなたは最後です」


 震える声で精一杯の言葉を紡ぎ出す。

 汗が冷たい。

 次の瞬間には消されるかもしれない。

 冷たい刃が胸の目の前に添えられているようだ。


『そうか、なるほど。そこへ辿り着いたか』


 そう言うと、『破滅の龍』は少し頭をあげて、ジークへと語りかける。


『騎士よ、名は』

「ジークフリード・グライセント!」

『ジークフリードだな、覚えたぞ。命はしばし預けてやろう。我を楽しませるがよい』


 そう言うと『破滅の龍』は翼を大きく動かし、宙に舞い、あっという間に飛び去ってしまった。

 去ってから突然、体が激しく震える。

 今になって体が恐怖することを思い出したかのように。


「と、とんでもねえ恐ろしさだったな」

「まさかあれほどの魔力とは」


 フォーゴさんとプリメラさんが思い思いに話す。

 私のように震えてはいなそうだが、顔中びっしりと汗が浮かんでいた。

 ジークもまた大きく息をつく。


「よもや復活早々に会うとは思いもしなかった」


 ジークは少し緊張が残るくらい。

 やはり生き抜いた者は違う。

 まだまだ、強くならないといけない。

 そう誓う。


「しかし、やつは変なことを言っていたな。『そこへ辿り着いた』などと」


 みんなの視線が、私の()げる『断界の剣(イゾラメント)』へと注がれる。

 ちなみに、戦闘中迂闊にぶつかって抜けたりがないよう、基本は私がこうして持つことにしている。

 決して私が振るうためではない。


「たしかに前回の時はこの剣はなかった。『辿り着いた』という言い方を考えるとおそらくずっとなかったのではないか?」

「ヴォト王もこの剣がいつからあるかを知らないと言っていた。かなり昔からうちから動いてないはずだぞ」


 二人の話で今までの『破滅の龍』との戦いで『断界の剣(イゾラメント)』が使われたことがなさそうなのは分かる。

 けど……。


「やつはこれが何かを知っていそうだった。その上で『楽しませるがよい』と言っていたな。まるで、どこか滅びを望んでいるようではないか、それでは」


 私の疑問をプリメラさんが口にする。

 私もそれに頷いた。


「分からん。何にせよ俺達のすべきことは一つだ。やつの魂の在り処を掴み、一刻も早く消さねば。やつが蘇った以上、一刻の猶予もない」


 今日からでも、きっと国中を『破滅の龍』が襲い始めるだろう。

 正直国が滅ぶのは一向に構わない。

 私の命を狙い、ジークを陥れた王国など。

 けれど、そこに住む、何も知らない人が亡くなっても構わない。

 そう言い切れるほど、私は冷たくはなれない。


「行きましょう、『古代遺跡ルイーナス』へ。そこにきっと、手がかりが」

「なかったら困るな」


 混ぜっ返すように言ったプリメラさんを睨みつけると、笑いが起きる。

 そうだ、絶望に囚われて動けないなんて、絶対にイヤだ。

 ならば、怖くてもこうして笑っていよう。

 あの龍との戦いは、そんなわずかな望みを繋いでいかないと、勝てない。

 そんな気がした。


 ◇◆◇


『破滅の龍』との邂逅から二日。

 私たちは『古代遺跡ルイーナス』近くの街にいた。

 どれほど潜らなくてはいけないのか分からないので、近くの街で調査に必要な松明(たいまつ)や保存食などを買い込むためだ。


 その時知ったのだが、街の掲示板に私の手配書の代わりに『魔物が攻めてきた時の対処』という手引書のようなものが置かれ、無料で配布されていた。

 かなり昔にジークが伝えた『破滅が近い』の一言を汲み取って動いてくれたのだろうか?

 それにしては中途半端な対応のような気もする。


「どう思う、ジーク?」

「おそらく、それしか書けないのだろうな」

「書けない?」

「王国は話を聞かずに俺を殺そうとしたからな。情報が何もないのだろう」


 呆れてしまう。

 もちろんジークをそのようにしたのは許せないが、脅威を知り、備えるために動くのも国の仕事のはずだ。


「それにな、知ったとて同じことだ」

「え、どうして?」

「話して知能の高さは分かったろう?」

「ええ、見なければ人と話してるようだったかも」

「昔、聞いた限りの襲い方だがな……」


 ジークが言うには、街の一方から『破滅の龍』がゆっくりと飛んでくる。

 それを見て逃げようとした先に魔物の大群。

 脇にそれて逃げようとすると、『破滅の龍』の吐いた火の玉で塞がれ、ゆっくりと包囲は狭められ……。


「はぁ。地下でも掘るしかありませんね」

「実際にそうして逃げ延びたものはいたな。もちろんそれすら見つかってしまったものもいるが」



 私たちは一晩だけ街でゆっくりと体を休め、翌日朝早くに、『古代遺跡ルイーナス』へと赴いた。

 馬はこの街に預けたので、あとは遺跡に入っている間に魔物や『破滅の龍』の襲来がないことを祈るばかりだ。


「では、いくぞ」


 戦闘をジーク、続いてフォーゴさん、私、プリメラさんの順で進む。

 なお、ジークもフォーゴさんも普段の武器が大きく長いため、片手で扱える短めの剣と斧をそれぞれ構えている。


 地下三階までは、魔物もなく、静かなものだったが、四階から少しずつ魔物が出始める。

 しかし、八階まですぐにジークが片づけてしまい、フォーゴさんはつまらなそうだ。


「おいおい、この斧の代金が無駄になっちまうよ」

「ははっ、すまんな。ではこの先しばらく任せていいか?」

「おっ! ようやくか。腕が鳴るぜ!」


 そこから十五階まで、フォーゴさんはとても活き活きとしていた。

 戦闘は素人な私からも、フォーゴさんがとても腕が立つのは見て取れた。

 なるほど、ジークが同行を決めたわけだ。


 そして十六階。

 ここは今までと違って、階段を降りた途端に大きな鉄の扉があった。

 少しへこんでたり、傷があるところを見ると、おそらく魔物が入ろうとして入れなかったのだろう。


 しかし、見ればドアノブもなく、指をかける場所もなく、押すしかなさそうだけど、ジークとフォーゴさんが二人して押してもビクともしない。


「これは……どうしたら先に進めるのだ」

「明らかにこの先に守りたい何かがある雰囲気ですよね。どうにか開けたいところですけど。こうしているうちにも『破滅の龍』が……」


 その時、今までビクともしなかった扉が、真ん中から左右に割れてゆっくりと開いてゆく。


「なっ、何が?」

「なぜ開いた!」


 扉が開くと、中には白い衣に身を包んだ男が、宙を見上げている。

 こちらへ視線も向けようとはしない。

 そして一言だけつぶやく。


「メルクワズ……まだ、か。いつ消える」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ