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逃亡聖女と不死の騎士は、神なき世界で生きると誓う  作者: 八坂 葵


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第19話 時を超えた再会

 私たちはドワーフの衛兵たちのなすがまま、後ろ手に縛られて詰め所まで連行される。

 人間がいるとは言え、元々ドワーフたちの街だ。

 私たちのような縛られて連行される人間は、恰好の注目の的となり、道中ジロジロと見られる羽目になった。


「さすがにこんな視線を受けるなら、暴れても良かったかもしれんな」

「ダメですよ! そんなことをしたら今度は白い目で見られるか、下手をしたら敵意を向けられるじゃないですか。エルフの森でのことを思い出してください」


 まああの時は最初から敵意を向けられていた。

 だからこそ、こちらに害意がないと示さなければいけなかった。

 今回は矢が降ってくるわけでもないので、多少はマシというものだろう。


「何をべちゃくちゃと喋っている。黙ってついてこい」


 先頭を歩くリーダーらしきドワーフが振り向いて注意をしてきたので、話しかけてみることにした。


「この都市にはどのくらい人間が住んでいるのですか?」

「うん? ……まあ三十人程度だな。ほぼドワーフだ」

「やはり人間は酒造りをされる方が多いのでしょうか?」

「いや、酒造りの他に石材や鉄材加工のための弟子入りで来るものもいる。そんなことも知らないでここに来たのか?」


 リーダーらしきドワーフは呆れた顔で私を見つめた。


「すみません。エルフの方からこちらの方向にドワーフの方々が住まう場所がある、としか聞かずにやって来たものですから。不勉強でした」


 そう言って頭を下げる私を、とても珍しそうなものを見る目で見てくる。


「……まあいい。話は終わりだ。あとはゆっくり詰め所で聞かせてもらおう」


 再び見世物となる時間が始まった……。


 ◇◆◇


 詰め所に着くと、簡素な椅子に座らされ、私たちは話を聞かれることとなる。


「普通怪しいものは床に座らせて尋問するものだ。先程のエリアナの問いかけで、少しは怪しいと思わなくなってくれたのかもしれんな」

「そうでしょうか?」

「たぶんそうだと思うぞ。一族の至宝を狙いに来た悪党が、街のことを何も知らないのはおかしいだろ」


 なるほど、そういうものか。

 確かに情報を何も知らないところから盗み出す、奪い取るというのは難しそうに思えた。

 すると、私たちと机を挟んで、先程のリーダーのようなドワーフが席に着いた。


「さて、では聞かせてもらおう。何故貴様たちは我が一族の宝などというもののことを知りたがっている?」

「その前に一つ聞かせて欲しい。ドワーフの一族の宝は『魂を消滅させられる剣』。そう聞いているが相違ないか?」


 っ……!


 目の前のリーダーを含め、部屋の隅に待機していたドワーフ二人にも動揺が走る。

 リーダーは拳で机を叩き、ジークを厳しく問い詰めた。


「何故、そのことを人間が知っている! 本来一族の宝のことは、存在すらドワーフの全体に知らせてはおらん。どこから聞いた!?」

「ですから、先程のエルフの方です。ポルテイロ様というご高齢の女性のエルフなのですが」

「お前、『ご高齢』などとポルテイロ様に聞かれたら、死ぬほど怒られるからな」


 プリメラさんの指摘に額に汗が流れつつも、私は平静を装う。

 ドワーフたちはポルテイロ様の名前に顔を寄せ合って話すが、どうも心当たりはないらしい。

 ポルテイロ様も特に縁があるような言い方をしていたわけではなかったので、もしかするとこちらが一方的に知っていただけかもしれない。


「ではいったんそこは置いておこう。何故『魂を消滅させられる剣』などといった物騒なものを探している? ことと次第によってはこの場で切り捨てる。心して答えてもらおう」

「『破滅の龍』を真に倒すためだ」


 再び走る動揺。


「『破滅の龍』は三百年前に滅びた。確かに今年はその復活の年と重なるが……お前たちはいったい何者だ?」

「俺の名はジークフリード・グライセント。三百年前の『破滅の龍』を倒した者だ」

「馬鹿なっ、人間が三百年も生きてたまるか! つくならもっとマシなウソをつけ」

「本当です! 彼は昔の戦のあとに石化の呪いを受け、三百年間放置されていたのですから。私がその呪いを解いて、今こうしてここにいるのです」


 毎回毎回、ここの証明が一番面倒で手間がかかる。

 というか、簡単な証明方法などあるのだろうか?

 エルフの時はエテルノ様がいてくれたので楽だったが、ドワーフの寿命はたしか三百年ほどと聞く。

 つまり三百年前のジークを知る人がいないということだ。

 これは……証明できるのだろうか。


「また俺がここで石化をしたら信じてくれると思うか?」

「我らの時に痛い目を見たろう? あんなもの、目の前で石化させられたようにしか見えん。別の手を考えた方がいいと思うぞ」


 プリメラさんの指摘はもっともだ。

 あれで痛い思いをしたのは私だけだったけど、たしかに逆の立場に立ってみれば、私がジークを石化させたように見えなくもない。

 そう考えると射られた時は少し恨みがましい気持ちもあったが、今考えると仕方のないことだったのかもしれない。


「では、どう証明したらよい? 不死身の体でも見せれば良いか?」

「三百年前の人間に、今度は不死身だと? ドワーフだからといって、侮ると許さんぞ」


 声が漏れ聞こえたらしい。

 リーダーのドワーフが吠える。

 ジークはならばと、詰め所の奥に立てかけられている長柄の斧を指さした。


「ちなみに無抵抗でいるから、そこの斧を思い切り俺の頭に振り下ろしてくれと言ったら、してくれるか?」

「……無抵抗の者に振り下ろす武器などない。一度、神官にでも見てもらった方がいいかもしれんな」


 ついにはおかしい人間扱いをされ始めた。

 しかも神官はここにいるのに、私が鎧姿になってしまっているので、一目では分からないのだろう。

 まあ、彼らにそれが分かったとて、信用してもらえるかは、はなはだ疑問だけれど。


「なあ、話がそれてるが、私たちの目的は『破滅の龍』討伐、そのために『魂を消滅させられる剣』が必要。それだけの話ではないのか?」


 プリメラさんが話を戻してくれる。

 たしかに重要なのはそこだ。


「お前たちは理由を聞いてきた。だから理由を答えた。それを聞いてどうするかはお前たちの対応だろ? 不死身だのなんだのは話の本質じゃあない。……で、どうするんだ?」


 そのなんとも端的な攻め込みに、ドワーフたちも言葉を失う。


「対応が決められないなら、我々は去らせてもらうぞ? どうせしばらくは街の中で情報収集だろうからな。またすぐに会えるだろうさ」


 そう言うとプリメラさんは席を立ち、詰め所を出ていこうとする。


「ま、待て。では、我らの長に判断を願おうと思う。付いてこい」


 顔をしかめたリーダーは、残り二人のドワーフのうち一人に、先触れを任せ、残り一人とともに私たちを連行することとなる。


「おい、俺は縛られたままで構わん。せめて彼女たちの縄は解け。疑いを持てなくなっている今、レディに対していつまでも失礼なことをするものではない」


 出掛けにジークがそう言うが、さすがにこれは受け入れられなかった。

 疑いはまだ継続中なのだから。


「いいのですよ、ジーク。早く行きましょう。この旅は時間が惜しいです」

「私は嫌だが……仕方ないな、この状況では」



 こうして私たちはドワーフたちの『長』と呼ばれる者の屋敷へと案内された。

 屋敷とは言ったものの、そこは岩山をくり抜いて作られたような、ゴツゴツとした岩がそのまま壁となった空間。

 昔、本で見たことのある、雪国の『スノードーム』に近いかもしれない。


「ここで待つがよい」


 扉の近くに設置された、石の椅子の上に座り、私たちは待たされる。

 椅子は石でできているにも関わらず、その表面はツルツルに磨き上げられており、触っても何一つ引っかかりを感じない。

 下手な座り方をしたら、滑って床に落ちてしまいそうだ。

 ドワーフたちの石細工への造形の深さ、腕前の高さを感じさせられた気がした。


 そこからしばらく待たされ、ジークが居眠りして椅子から落ちかけ、プリメラさんがお尻が痛いとクッションを要求して、一悶着を起こしと色々あったが、ようやく呼ばれて部屋の中へ入ることとなった。


 両開きの扉が従者の方の手により、重く響き渡る音を立てて開いてゆく。

 扉の先――三十歩ほどだろうか――には、一段高い床にまるで玉座のような豪華な椅子。

 そしてまるで筋肉の塊のようなドワーフが、その椅子に腰掛け、鋭い視線で私たちを見据えていた。


 その両隣にはこれまた屈強なドワーフの戦士が二名。

 右には身の丈よりも大きな大盾を片手で軽々と支え、左には長尺の長柄斧を構えた戦士が控えていた。

 あの長さでは、動くことなく手前に座るだろう私たちを捉えられそうだ。


 ゆっくりと長の席――いや、もう玉座と呼んで差し支えないだろう――まで、両脇を固められながら進み、その場で跪くよう指示される。

 その言葉に従い、跪いて頭を垂れていると、


(おもて)を上げよ」


 低く野太い声が響いてきた。

 顔を上げると、ますます歴戦の勇士という印象が強くなる。

 まるで初めてジークを見たときのような威圧感が、私の体を締め付けてきた。


「お主らが断界の剣(イゾラメント)を探しておった、怪しき奴らか」

「さようにございます、長。しかもこの男、三百年前に『破滅の龍』を倒しただの、不死身の体だのと世迷言を申す始末。ぜひ、ご裁断を」


 詰め所のリーダーが直立不動の姿でそう話すと、跪いて頭を垂れる。


「三百年前に『破滅の龍』とな。……ふむ、フォーゴ、あれを持て」

「はっ!」


 長柄斧を持っていた戦士が部屋の隅に長柄斧をを立てかけ、隣の部屋だろう先へと入っていった。

 そして程なくすると大きめの石で出来た立像を抱えて戻ってくる。

 その石像はどうやら人間の神官を彫ったもののようだが、とても精巧に彫られており、まるで今にも動き出しそうな生気さえ感じさせる。


 すると、隣で石像を見ていたジークの目から、涙が流れていた。


「お……おぉ、まさか、その石像は……ヨハン殿ではないか?」


 そう言うとジークはよろよろと立ち上がり、まるで立つことを覚えたばかりの赤ん坊のような足取りで、少しずつ前に進む。

 長の前に出ようとした戦士を、長は手で制し、フォーゴと呼ばれた戦士に、ジークの元へ像を持っていくよう指示する。


 ジークの前に石像が置かれると、ジークはしゃがみ込み、石像を手にとってまじまじと眺めている。

 そして、石像を抱きしめると、


「ヨハン殿、すまない。俺なんかを守ったばかりに……あなたの友にまで悲しい思いを。俺だけが、レオンも、エリーも……ううっ、うっ……うわぁぁぁぁーー!」


 石像を横に置き、両拳を床に激しく打ち付け、頭を擦り付けて、ジークは慟哭した。

 お腹の底から湧き上がる後悔と悲しみが、胸に迫る。

 思わず立ち上がって彼の隣に駆け寄り、背中を優しく撫でる。

 私には、それしか出来なかった……。



「ヨハン様を知り、あそこまで後悔の叫びを上げる。お主を『破滅の龍』を討伐したジークフリード、その者と認めよう」

「長! あまりに早計では!?」

「この像を見て、こちらが紹介する前から名前を言い当てたのだぞ? この像はドワーフ族というよりも、私の個人的なお守りのようなもの。それにも関わらずな」


 個人的なお守りという言葉に、少し違和感を覚えた。

 なぜそのような物をこの場に持ってきたのか。


「彼は、私の祖父母を救い、ドワーフ族を救った、まさに我が里の救世主なのだ」

「一族の、救世主?」


 彼の話では、祖父母の代にドワーフ族を襲った伝染病があったそうだ。

 一度かかると、軽い熱病から始まり、嘔吐、発汗と続き、これがいつまでも治らない。

 症状は次第に重くなり、二週間もすると体が耐えきれずに死に至るという恐ろしいものだったらしい。


 そこへたまたま修行の旅で通りかかったヨハン様が状況を知り、仲間を先に帰らせて、自分一人がこの状況を救うべく、孤軍奮闘したそうだ。

 彼は神殿の魔法以外に修めていた薬学の知識をも総動員し、寝る間も惜しんでドワーフ族のために動き回る。

 その結果、ようやく一族から伝染病がなくなり、彼は再度起きたときのための薬の作り方も、見返り一つ求めずに渡して帰ったという。

 以来、彼の名はドワーフ族を救った聖人として語り継がれていたのだが……。


「まあ、三百年も経つと、なかなか一族全員とはいかなくなってな。こうして族長に近いものの間だけでも伝えるようにしておるのだ」

「たしかにヨハン殿は薬学にも精通していた。『破滅の龍』戦までの道中も、体調を整えろと毎朝苦い薬湯を作られてな。我慢して飲まされたものだ」


 悲しそうに、でも懐かしそうな顔でジークがそう振り返る。


「ヨハン殿は我々若造を、その柔らかな笑みと、強い信念で支えてくれた、真に強い人だったよ。俺なんかを庇ったばっかりに……」


 私はジークの肩を両手でパンッと叩く。

 彼の肩を覆う鎧の痛みが手に伝わってきた。


「ならば今度こそは『破滅の龍』を完全に消し去って、それを弔いとすればよいのです。いつまでも泣いていては、ヨハン様や他の散っていった仲間に笑われますよ?」

「……ははっ、ホントに敵わんな、聖女様には」


 互いに笑い合っていると、長が声をかけてきた。


「それでは、これからは容疑者ではなく、客人として話をさせてもらおう。疑った詫びだ。食事を用意させるので、その場でゆっくりと話そうではないか」


 そう言って従者へ声をかけ、食事の用意を指示した。


「さて、楽しみにしてもらおうか。料理ももちろんだが、人間の職人が作ってくれている酒は、どれも一級品だからな」


 こうして私たちは長の招きを受けることとなった。

 食事の席で私たちを待ち受けていたのは、目を見張るような量の食事と、お酒。

 そして、新たなる出会いだった。


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