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35・ドワーフって非常識と異常の塊みたい

 脳筋さんはドワーフに負け惜しみを言うと、スタスタと外へ向かっていく。


「どうした、早く来い」


 というが、3人組が居ないんだけど?


「今回はこのメンツでいく。なにせ、陰険な国へ足を踏み入れるからな。人に会いたくない」


 という。陰険な国とは一体・・・・・・


 どうやらその国とは、タンペイレンの事であるらしい。王制を敷くスオメニやウ―シマッドとは違い、共和制国家であるらしいが、教会との仲も芳しくなく、冒険者にも冷たい国であるという。


「連中はカネの事しか頭にない。カネになる魔物はこぞって狩ろうとするが、そうでないものは害があろうとも見向きもしない。そのくせ、教会や冒険者への文句は立派な事を言う。いう通りにすれば、妨害、横取り、無理難題・・・・・・、あんな陰険な奴らの顔など見たくない」


 まあ、そう言う連中なら仕方がないのかもしれない。


「ねえ、3人だけ?」


 という楠を見た脳筋さんが一言


「嫌ならついて来なくて良い」


 という物だから、楠は是が非でもついて来る気なのが見て取れる。


「行くに決まってるでしょ」


 と・・・・・・


 3人なので荷物も最小限。ただし、結構な距離を山歩きするらしく、脳筋さんが言うほど簡単だとは思えないのだけど。


 そんな不安を抱きながら境界を後にし、どんどん進んで行く。初日から山の中での野営となり、翌日はさらに山奥へと進み、低木や草木しかないような森林限界を超えた高山地帯を進んで行く。


「何でこんな険しい所を通る訳?」


 と、不満たらたらの楠。


 その気持ちは僕も同じだ。敢えてこんな縦走ルートみたいな高山歩きなんかしなくても、いくらでもルートはあるはずだし、たぶん遠回りルートじゃないかとさえ思う。


「言っただろう。人に会いたくない。このルートならばエルフ以外選択しようと思う者は居ない」


 いや、ドヤる場面じゃないんだけど、脳筋さんはドヤ顔である。楠はしかめっ面。


 このトレイルルートは普通の登山装備では踏破できなさそう。なにせフリークライミングで断崖を登り、黒部の峡谷みたいな谷を飛び越えるんだ。常識では考えられない。精霊の加護と竜族の鎧という装備のおかげで僕らは脳筋さんになんとか着いて行けている。


「このルートをこのペースで進むのはあの3人でも難しいぞ。流石加護持ちだな」


 などと余裕そうに笑う脳筋さん。正直、僕らは必死で脳筋さんとはぐれない様について行ってるだけで、全く余裕はない。


 2日目の夕飯は途中で脳筋さんが拾ったキノコをスープにして食べた。毒キノコだったりしないのかと不安になったが、脳筋さん曰く、「キノコの毒も見分けられないエルフは居ない」との事だ。率先して食べる脳筋さんを見て、僕らも口を付けた。


 翌日の朝、昨日の疲労がウソだったかのように体が軽かった。


「え?なにこれ。凄い!」


 楠も喜んでいる。僕の気のせいじゃなかったらしい。


「当たり前だ。ポーションに使う希少な素材をスープにした。ポーション効果があって当然だ」


 という脳筋さん。どうやらものすごく高価な回復ポーションの素材になるキノコだったらしい。ただし、モドキの猛毒キノコもあるので、気軽に採取できるような素材ではなく、大抵の場合が猛毒キノコを採取してしまうらしい。


「エルフの秘薬と呼ぶ奴もいるポーションだ。スープにしても十分な効果があっただろう?」


 ただ、エルフにとっては小遣い稼ぎの出来るポーションという位置づけらしい。なにせ、間違わずにキノコを採れるんだから。そのポーションを1本作って人間の国で売ればひと月は街で暮らせるほどの値段になるらしい。


 元気になった僕らは意気揚々と脳筋さんについて行く。


「昨日より険しくない?コレ・・・・・・」


 楠に言われるまでもなく気付いていた。すでに夏なのに雪が解けないような高度を歩いている。人はおろか魔物すら寄り付きそうにない高山地帯。そこを意気揚々と進んで行く。風精霊の加護を持つ僕や脳筋さんは事前に風が吹く事も、その強さすら把握できるので、僕は楠を手助けしながら脳筋さんを追いかける。

 そして、広い谷は楠に氷の橋を架けてもらいながら進んで行く。楠が居なければ風を利用して飛び越えることになっただろう。怖いなんて次元の話じゃない。正気を疑うレベルのルート設定に言葉も出ない。


「これ、ちゃんと目的地に着くんでしょうね」


 と、両方断崖絶壁の峰を歩いてるときに楠がつぶやいた。僕も不安だ。


「どこへ向かっているかは把握している。あと1日歩けば山を下りる」


 と、何でもないかのようにいう脳筋さん。そして、その日の夕飯は苔をスープに振りかけていた。


「これか?『奇跡のポーション』という奴がいる毒草だ。少量なら疲労回復効果がある、取り過ぎると死ぬ危険な代物だ。ポーションというが、本来数滴を水や酒に混ぜて飲む。材料そのものを使うならこの程度でも問題ない」


 と言って普通にスープを飲んでいた。


 翌日、前日同様に疲れは取れていたが、脳筋さん曰く、あの毒草は連続使用は常習化を招くのでひと月に一度くらいしか使わない方が良いらしい。それってもしかして麻薬なんじゃ?

 採取して残りはポーション用に持ち帰るらしい。どうやら元々はドワーフが徹夜で採掘や鍛冶仕事やるために見つけて来た「薬」であるらしく、ドワーフならば常用しても問題ないという。


「ドワーフって非常識と異常の塊みたい」


 という楠の感想に僕も賛同した。

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