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34・負け惜しみの様に返す脳筋さん

 梶と入れ替わる様にドワーフがやって来た。


「おう、お前が持ち帰ったこの弓、なかなか面白いじゃねぇか」


 そう言ってリカーブボウを見せてくる。


「コイツなら大枚をはたかずとも良い素材で従来の弓よりも性能が上がる。大半の奴らにとってはこっちの方が良いだろうな」


 というドワーフの意見に、僕も賛成だ。コンパウンドボウは確かに威力や飛距離は格段に良くなる。しかし、シルッカのドワーフが言ったように、銀級レベルでなければ手が出ない様な高価な弓になるので、持てる冒険者が限られてくる。軍隊で標準装備しようとすると、とんでもない金額になるだろう。そもそも、鍛冶王曰く、シルッカのドワーフは元々あった鉱山時代から居たらしく、腕も確からしい。そう言った一部のドワーフでなければ作り出せない弓、しかも、作り手によって性能が大きく変化するようでは意味がない。


「何といっても、コイツなら普通の弓職人が作れる。アイツらがその気になればそこらのドワーフより良いモン作るだろうさ」


 そう、リカーブであれば滑車の様な特殊機材を用いないので既存の弓職人の領分らしく、生産者も多く性能もそこそこ安定するらしい。


「それに、コイツでなら風竜素材でエルフ弓と変わらんシロモンが作れるぜ」


 そう言ってもう片方の弓を見せてくる。それは風竜素材であるらしく、僕の弓同様に青い。


「コイツならあの外道程度のウデじゃあ、叶わんだろうな」


 そういうドワーフの後ろから脳筋さんが現れたが、ドワーフは気付いていない?


「おう、お前の弓をちょいと見てやる。その間、コイツの試し打ちでもやっておいてくれ。コイツなら外道も腰を抜かす出来だからな」


 そう言って手を出すので、僕のコンパウンドボウを渡す。


「おう、嬢ちゃんの槍もだ」


 楠にも声を掛けて槍も受け取る。


「聞いてたか?耳長。コイツの出来に腰抜かしてこい。わっはっはっは」


 ドワーフはどうやら脳筋さんに気が付いていて、ワザと煽ったらしい。


「あ”?なんだと?この穴倉。お前の弓ごときで驚く訳が無かろう」


 ほら、脳筋さんは見事なほど挑発に乗っている。


「おい、ケンタ、その出来の悪い弓を私に貸せ。出来の悪さをしっかり試してやる」


 ほら・・・・・・


 そして、意気揚々と射場へって、あれ?


「外ですか?」


 僕が疑問に思って聞いてみると、当然と言った顔で振り向く脳筋さん。


「コイツの出来を試すのにあんな狭い所では無理だ。どれだけ出来損ないか分からんではないか」


 などともっともらしく言うが、顔はとても満足そうだけど?


 そして、脳筋さんは弓を構えて矢を生成した。一体どの距離の的を狙うのだろうとみていると、いきなり300m先の的へと矢を飛ばした。的が弾けて土煙が上がり、一拍遅れてその音が響く。


「ふむ、まあまあだな。この程度の事は出来なければ、穴倉は教会から去らねばならん」


 などと、笑顔で言う。更に何か狙うのだろう、二射目を放つ。


 今度は500m先の的へと矢が当たり、貫通したらしい音が遅れて届いた。


「ふむ、最低限の事は出来ているらしいな」


 その顔は、笑顔ではなく驚きだった。


 そして、ふと僕を見る。


「ケンタ、お前はこの弓でやってみろ」


 そう言って脳筋さんの弓を渡された。ちょっとドローウェイトあり過ぎない?


 そうは思ったけど、まずは前へと押し出してしっかり姿勢を作って引き絞る。長くは持たないが、コツさえつかんでしまえばある程度の弓は引ける。


 そして、その強さから、いきなり400mでも狙えると判断して射る。


 見事に的を弾き飛ばす事が出来た。ついでに二射目は500m先を狙う。


 グワッシャンという音が響いて来た。貫通ではなく、的を破壊したらしい。


「やるではないか、それでこそ我が伴侶にふさわしい」


 といって、脳筋さんがクイッと顎に手を添えてくる。無理やり上を向いた僕の視界に脳筋さんの顔が迫る。


「はいはい、そう言うのは良いから、高鉢にもその弓を試させてあげて」


 と、楠が割って入って事なきを得た。


「そう焦ることは無かろう」


 と、何処か不満そうな脳筋さん。


 そして、渋々といった表情でドワーフの弓を僕に渡してきた。


「視ての通りだ。私の弓よりも劣る」


 と、一言付け加える。が、それは脳筋さんが貫通に特化した矢じりを好んで使うからじゃないんだろうか?僕が選択した矢じりが脳筋さんとは違うから、彼女の弓で500m先の的を半壊させただけ。


 とはいえ、僕も再度、ドワーフの弓で500m先を狙ってみる。


 弓を引き絞った感じは、こちらの方が少し軽い気がする。


 しかし、描かれる弾道はあまり違いが無く、きっと威力も似た様なモノ、いや、エネルギー効率は良いから、脳筋さんの弓と同じ強さで造れば、或いは。


 先ほどと同じ矢じりで放った矢は、的を半壊させるまでには至らなかった。


「そうだろう。奴にはもう少しがんばってもらう必要がありそうだな」


 と、どこか得意気に笑っている脳筋さん。




 翌日、僕の弓と楠の槍が帰って来たが、同時に新しい風竜素材のリカーブボウもドワーフが手にしていた。


 その視線に気が付いたのだろう。ドワーフの方から口を開いた。


「ああ、これか?腐れ外道が注文を付けて来るから作り直してやった。コイツの構造ならああいったバカの注文にも簡単に応じられるのが利点だな」


 と、にこやかに笑う。そうか、やっぱりドローウェイトを上げてもらったんだな。


「ほう、早速仕上げるとは殊勝だな、穴倉」


 どうやら脳筋さんもここで受け取る約束をしていたらしく、タイミングよく現れる。


「長耳のおどろく顔が見たくてな」


 そうドワーフが返すが、脳筋さんはとんでもないことを口にする。


「その必要はない。早速討伐に行くぞ。今度はベヒモスだ」


 いや、何言い出してんのこの人は・・・・・・


「ほう、そこまで評価が高いとは光栄じゃねぇか」


 ドワーフも驚くどころか普通に納得してるし。


「穴倉への評価ではない。そこそこの予備が出来たからだ」


 と、負け惜しみの様に返す脳筋さん。

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