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異世界勇者の大親友  作者: 屋根裏部屋
第一章 
13/15

 「アル!どうしてもっと早く言わなかった!?」

 いきなり大声を出したのはロックさんだ。


 俺の母さんが血濡れのアリスだと知り、お前らにはちゃんとした師匠が必要だと何度も言っていただろう。最高の師匠が身近にいるじゃないか!と言うロックさんに俺は答える。

「だって、母さんにはまだ早いって断られたし…」


「早いも糞もあるか!あの人は物心ついたころには剣を振り回していたというぞ!いいから本気で頼んでみろ。戦いの鬼とまで呼ばれた武人だ。本当は教えたくてうずうずしているはずだ!」


「お前の母ちゃんそんなすげえ人だったのかよ!何回か会ったことあるけど優しそうな美人だったのになぁー。おっかねえなー。」

 ノックは意外そうに言う。


「まあとにかく、お前らには強くなってもらわなくてはならん。俺を助けてくれるんだろ?アリスさんの指導は必須だ。それに、俺にもやることがいっぱいある。お前らを教えている時間はない。なんとしてでもアリスさんを説得してくれ。」



 これは… 嘘だ。 ノックは気付いてないが、ロックさんは俺達に助けてもらおうなんて全く思ってない。


 --------------------------------------------

 死の予言を受けた次の日、帰るフィレットさんを見送る前に、俺はこっそりロックさんに質問をした。


「ロックさん、もしかして、諦めてませんか。死ぬつもりじゃありませんか…?」


 ロックさんは少し眉をあげ、驚いた表情をした後、小さくため息をついた。

「あぁ、アルにはバレてしまったか。まあ、アルなら驚きはしない。お前は…本当に子どもかと疑いたくなることがある。」

 そりゃあ通算30年以上生きてますから。それにしても、やっぱりそうか。ロックさんは、とっくに死を覚悟している。

 となると、あの日に浮かべた決意の表情は…


「ロックさんは…ロックさんはノックを守りたいんですね。」


「そこまで気付いたか。あぁ、そうだ。アイツは俺のたった一人の息子だ。それに、アルだって可愛い弟子の一人だ。俺個人の事情に巻き込むわけにはいかないだろう。」

 当たり前のことだ、とでも言う表情だ。


「そもそもな、俺はとっくに死ぬ覚悟くれえ出来てんだ。これでも元冒険者だからな。

 正直、どうして俺が狙われてるのかは分からねえ。あまりに心当たりが多すぎる。

 俺はな、今までに何人も人を殺してるんだ。理由のない殺しをしたことは無いが、俺が人殺しなのは確かだ。生きるために、人を殺した。

 正当防衛なんて甘っちょろい事を言う奴がいるが、そんなのは人を殺したことのない奴が言うことだ。人を殺した感触を知る奴は、そんなことは言わない。頭じゃなく、心が納得しない。

 一生、あの感触と向き合っていくしかないんだ。

 復讐されるのは、過去と向き合う一環だと俺は思っている。

 俺を狙うのは、そいつらの家族かも知れない。親友かもしれない。

 そうやって過去の清算をして死ぬのも、それほど悪くないと思ってる。

 だが、それにお前らを巻き込むのだけは絶対に嫌だ。


 なあアル。頭の良いお前なら、わかるよな。

 もしノックが気付いた時は、お前が止めてくれ。アイツは意地でも俺を助けようとするだろう。でも結果は目に見えてる。アイツを死なすわけにはいかないんだ。


 辛い役目を任せることになって済まないが… どうかノックを頼む」


 ふざけるなって思ったさ。ノックだけじゃない。俺だってあんたには死んでほしくない。

 簡単に諦めないでくれよ。ロックさんが死なないために、頼ってくれよ。そんな悲しい頼みは、聞きたくないって、そう思ったよ。だけど、


「わかりました。ノックのことは、任せてください。絶対に、ノックを止めます。」


 そういうしかないだろ。そうするしかないだろ。

 俺は、今までの人生で最も強く拳を握って答えた。


 小さく、本当に小さくだけど、

「すまねえな…」という呟きが、確かに聞こえた。


 ------------------------------------------------------


「お母さん。僕に戦い方を、教えてください。」


「まだ早いってこの前も言ったでしょ!7歳からそんなことやってどうするのよ」


「でも母さんだって僕くらいの頃には・・・」


「あんたと私じゃ状況が違うでしょ。私は、そういう家に生まれたの。強くならなきゃ生きていくことすらできない。でも、あんたは違うでしょ。戦い以外の道だってある。戦いの道を選ぶにしたって、何も7歳の頃からやる必要はないんじゃないかしら。」


 至極まっとうな意見に、俺は言葉に詰まった。

 だけど、ここで引くわけにはいかなかった。身近な人が、死のうとしている。そして、きっと俺に出来ることはない。それが、悔しい。悔しくて、悔しくてたまらない。

 強くならないと、きっとこの先もこの悔しさを味わうことになる。大好きな人が死にゆくのを指をくわえて見るしかない、この辛さを。

 自分に力がないことが、これほど苦しいなんて、思いもしなかった。何もできない自分の不甲斐なさを、これほど呪うことになるとは思わなかった。この気持ちは、この先、この世界で生きてたら幾度となく経験するのかもしれない。そんなのは…嫌だ。

 強くなりたい。

 俺は本当は、ロックさんに「共に戦ってくれ」って言われたかったんだ。頼ってほしかったんだ。

 ノックを守る、これだって、重い、重い責任だ。俺は託された。

 だけどロックさん。俺は…あなたのことも守りたかったんだ。守りたいんだ。

 それができない自分が許せない。


 俺は、強くならなきゃいけない。


「ねえアル。どうして強くなりたいの。」

 絶対に引かないという意思を表す俺に、母は尋ねた。


「後悔をしたくないから…です…。誰かを守りたいって気持ちはあるけど…それだけじゃない。俺は自分のために強くなりたい。」


 その言葉を聞くと、少し訝しげに俺を見たが、

「そ。まぁ何があったか知らないけど、理由があるなら良いわ。自分の為って言うのも私的には合格よ。ロバートはどうかわからないけど。」


 アルも大きくなったのね、アリスは小さく笑った。


 その日から、アリスは俺に剣を教えてくれるようになった。ノックも一緒だ。

 ロックさんはやることがあるといって一日中外に出ているし、アリスに教わった方が絶対に良いということで、ノックも母さんに教わることになった。


 アリスが最初に教えてくれたのは、「老虎流(ろうこりゅう)と呼ばれる剣の流派の基本だった。この世界で2大流派と呼ばれる剣の流派のうちの一つだ。

 攻めに重点を置いたこの流派は、とにかく先手必勝。速さと力強さで戦いの主導権を握り、相手に攻める隙を与えず勝つのを理想としている。

 勝気なアリスにはピッタリの流派だろうと、俺は思った。きっとノックにも合っているだろうな。


 ロックさんにもある程度は教わっていたが、あの人は我流の部分が多く、基本以外の事を教えてもらうことが多かった。どちらも大事だ。ここで一から基本を教えてもらうのは、今の俺たちに最も必要なことだと思える。


「実力の無さを小手先でカバーしようとするな!そういうのは基本がしっかりできてからよ!そうやってセンスだけでなんとかしようとするやつは最後は伸び悩むのよ!」


 母さんは、日に日に指導に熱が入っていった。最初に渋ってたのが嘘のようだ。もしかしたら、本当は剣を教えたいと思っていたのかもしれない。


 ひたすら型どおりに素振りや打ち合いを重ね、時々実践。それが母さんの指導方法のようだ。

 実践で基本通りできなかったら檄が飛んでくる。

「ノック!!!実践は練習の成果を出す場所よ!そこで今までやってきたことを無視したら、何のためにやってきたのよ!!次やったらしばらく実践はさせないわよ!!」


 母さんはノックにも遠慮がない。教えるからには徹底的にねっ!それが母さんのモットーのようだ。


 一方、父も時々僕たちに魔法を教えてくれる。


「うーん…正直アルの魔法はもうかなり凄いからあんまり教えることはないんだけど…」

 始めはそういっていた父さんだけど、

「でも、一つだけ教えられることがあるとしたら、不意打ち、かな。」


 父さんにもっとも似合わなそうな言葉が出た。


「あるは魔法を出すとき、いつも手の近くから出すよね。相手の方向に手を向けて。」


 言われてみればそうだ。


「アルの魔法は確かに凄い。一度に6発も魔法を出せる奴なんかなかなかいないよ。でもね、どこから出るか分かってたら、いくらでも対処のしようがある。正直全然怖くない。

 体の近くからならどこからでも魔法が打てるのが理想だ。難しいけど、アルならきっと出来る。挑戦してみようよ。」


 そう言うと、父さんの頭の上から氷の礫が打ち出された。次は首の横から。次は足の先。


「どこから来るかわからない、それだけで魔法はかなりの脅威だ。魔法は、剣よりも遅いのが常識だけど、予備動作なく放てるなら速さで勝負ができる。それに、武器を持ちながらでも撃てるなら、戦いの幅も広がるよ。アルは、剣と魔法、両方を頑張りたいんだよね。それならこの技術は必須だよ。」


 父さんは俺をよく見てる。アリスと比べたら一緒にいる時間は短いけど、俺の目指してるものをわかってくれていた。


 ただ、すっごく難しい。これが出来るようになるにはかなりの時間を要しそうだ。剣を使いながらなんてとてもとても出来そうにない。でも、出来たらそれだけでかなりの飛躍と言えるだろう。


「あはは。僕は10年かかったなー。これでも早い方なんだよ?一生かかっても出来ない人もいるし。」


 そうか…また俺は気が遠くなった。魔法の道はとにかく時間がかかる。


「それでも、俺はアルが出来ないとは思わない。親バカって言われるかもしれないけど、アルはすごいよ。それに、お友達のノック君も。才能は絶対にある。あとは、根気だ。これも僕は心配してないよ。」

 父さんは小さく笑ってそういった。父さんの笑顔には、不思議と安心感を貰える。


 やるしかない。俺はもう、戦いの道に足を踏み入れなきゃいけないんだ。勇者を育てるとか、魔王を倒すとか、そんなんじゃない。俺の為にも、強くならなきゃだめだ。



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