白黒
「あんた、もうすぐ死ぬみたいよ。」
淡々と話すフィレットさんだが、その顔には暗い影がさしているように見えた。とても冗談を言っているようには見えない。
麻雀をやるような雰囲気では、もはやない。
「ははっ… ババア、さすがに冗談キツイぜ。ジジイがそんな簡単にくたばるわけねえじゃねえか。」
顔をひきつらせたノックが言う。
「まだ老衰にはちと早いってもんだ。そうだろ?」
フィレットさんは口を閉じたままだ。沈黙がその答えだった。
「リリの奴か?」
腕を組みながら、静かにロックさんが問いかける。
「あぁ。アイツの一つ目の個性にアンタの名前が出た。」
それを聞いたロックさんは軽く目を伏せる。
「そうか。」
「おい!クソジジイども!俺にも分かるように話せ!どういうことなんだ!?」
「アタシとロックの共通の知り合いに、リリっていう占い師がいる。そいつの個性は人の死が分かるんだ。理由までは分からないが当たる。そういう個性だ。ただ、その死は絶対じゃない。変えられる。それで私が来たってわけだ。」
「だがその表情だと、そうか。俺は病気の類で死ぬわけじゃなさそうだな。」
「あぁ、なにかの病なら大抵は私が治せるんだが…アンタは健康そのものにしか見えない。私がそう言ってるんだ。アンタは健康だよ。」
「お前がそういうなら絶対だ。つまり俺は、殺されるんだな。」
フィレットさんはそういうのも分かるのか。きっとそれも個性だろう。
「おい、アイツは連れてきたか?」
「あぁ、もちろん。時間も大丈夫だ。あと少しで使える。」
そういうと、もう誰も口を開かなかった。重苦しい空気が場を包む。
ノックはまだ納得いかないようだ。何かを言おうとしている様子だが、言葉にはなっていない。
しばらくすると、フィレットさんがポケットから1つの人形を取り出した。
人形は右半身が白色、左半身が黒色で手には天秤をもっている。
それを麻雀卓の上に置くと、ボフンッという音とともに煙が立ち、突如2メートルくらいの大きさに膨れ上がった。
「よおぉぉ!久しぶりじゃねえか!ロックぅ、ずいぶんと老け込みやがったなああ!?」
デカくなった白黒の人形が叫ぶような声で言う。俺とノックはあまりの事に口をあんぐり開けている。
「おっと、見ない顔がいるな?俺は白黒ってんだ。リリ・リリラレルっつー占い師の個性だ。よろしくな。」
こんな個性もあるのか…。ロックさんやフィレットさんの個性といい、個性には本当に驚かされることばかりだ。個性が『奇跡の力』と呼ばれる理由にも頷ける。
続けて、白黒は能力の説明をしてくれた。
【白黒】
・対象者はリリ・リリラレルによって死の予言をされたものに限る。
・オセロに対し、対象者は自分に関する4つの質問をすることが出来る。
・その質問は「はい」か「いいえ」で答えられるものでなくてはならない。
・生死に関する質問はできない。
・ルールに反した質問をした場合も、1回の質問としてカウントされる。
・オセロの回答は絶対だ。しかし、その答えは30日以内のことに限られる。
(例えば、俺に彼女は出来るか?という質問に対して、30日以内に出来ない場合は「いいえ」と答える)
・オセロに1度した質問と同じ内容の質問は、2度とすることが出来ない。
・リリ・リリラレルはオセロの能力を30日に1度しか使えない。
・オセロは人形の形で携帯することが出来、リリのそばを離れても能力の使用が可能。
「じゃあ、さっそく始めよう。ロック、お前は頑固だが、良い奴だ。死ぬな。まあお前は慣れてるから分かってると思うが質問は慎重にしろよ。」
白黒がそう言うと、持っていた天秤が輝いた。天秤の二つの皿の上に白い球と黒い球がそれぞれ乗る。
「んじゃ、開始だ。」
「一つ目の質問だ。30日以内に俺を殺しに来るやつがいる?」
『はい』
という言葉とともに白い球の乗った天秤の皿が下がる。
「二つ目の質問だ。そいつは俺が、今考え得る限りの対策を行ったとしても勝ち目の薄い強者だ。」
『はい』
「三つ目の質問だ。そいつらは複数か?」
『はい』
「四つ目の質問だ。俺が今、この瞬間から戦闘を回避することを第一に行動を起こした場合、俺より強い奴との戦闘を回避できるか?」
『いいえ』
誰も口を開くことが出来なかった。
勝てる見込みは限りなく薄く、逃げることすら出来ない。
リリと呼ばれる占い師の予言する死は絶対ではなく、回避することは出来るという話だった。しかし、正直に言って望みはほとんど無いと誰もが思った。
死の予言は絶対ではなくとも、オセロにした質問の答えは絶対だ。
なんて個性だ――――――。
こんな能力を持った人間は辛くて仕方がないだろう。人の死が分かる。死を回避できる可能性がある。それで救えたなら良いだろう。だけど、死んだら。死んだらどんな気持ちになるんだろう。この能力は、他人の死の責任まで、必然的に背負わざるを得ない能力だ。
自分に関する質問しかできない、ということは死んでも基本的にその人の自己責任だ。リリと呼ばれる占い師に出来ることはない。リリさんに責任はない。だけど、心はそれで納得できるだろうか。そんな簡単な感情じゃないだろう。
今までどれほどの死を予言し、どれほどの死を見てきたのだろう。あるかもわからない希望を見せられ、何度裏切られて来たのだろう。
俺だったら、死んでもそんな個性は欲しくない。
だって、ロックさん一人の死の可能性を突きつけられただけで、俺の心は張り裂けそうだ。
「俺の答えは絶対だ。だけど、死は絶対じゃない。なあおい、俺の能力を無駄にするなよ。出来るだけ足掻いてくれ。俺はお前の死も、リリの悲しい顔も見たくねえ。
リリは、もう人の死を見すぎた。死を予言するだけの個性なんか持っちまって、最悪の人生を送ってきた。あいつは救いたいってずっと願ってた。人が死ぬたびに自分を責めていた。そんな時に目覚めた個性が俺だ。俺がアイツの希望だ。それなのに、それなのにまだ人は死ぬ。俺が居ても、救えなかった命の方が多い。そんなの、辛すぎるだろ。
お前まで死んだら、俺は何のために生まれてきたか分からねえ。足掻けよ。みっともなく生きろ。リリのために、お前のために、そこのガキンチョのために。息子じゃなくても、ずっと育ててきたんだろ」
「やれるだけのことはやるさ。」
自分の死がかかっているというのに、ロックさんは淡々と答えた。ただ、
「それと言っておくが、そこの糞ガキは正真正銘、俺の息子だ。血が繋がってなくても俺の息子だ。」
そう行った時のロックさんの目には、何かを決心したような力強さが宿っていた。
「そうか。頑張れよ。期待してるぜ。」
そういうと白黒はまたボフンッという音を立て消えた。人形も残らなかった。
「忙しくなるな。ほっといてもそのうちポックリ行きそうなクソジジイだが、一度も勝てないまま死なれるのは胸糞悪い。もちろん俺も協力するからな。絶対しぬんじゃねえぞ。」
こんな時まで憎まれ口しか言えないノックだが、こいつは、ロックさんが大好きなんだ。
「あぁ、そうだな。よろしく頼む」
ロックさんは静かに答えた。その言葉には力がこもっていないように感じた。
ロックさん、もしかすると貴方は…
「おう任せろ!頼りにしてくれていいぜ!」
ノックの声が静かな家に響く。
何時の間にか握りしめていた麻雀牌を見た。魔物の角。つまりは魔物の死骸で出来たそのハイは、俺の汗でべっとりと濡れていた。言いようのない不安が、俺の中を渦巻いていた。




