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異世界勇者の大親友  作者: 屋根裏部屋
第一章 
12/15

白黒

「あんた、もうすぐ死ぬみたいよ。」


 淡々と話すフィレットさんだが、その顔には暗い影がさしているように見えた。とても冗談を言っているようには見えない。


 麻雀をやるような雰囲気では、もはやない。


「ははっ… ババア、さすがに冗談キツイぜ。ジジイがそんな簡単にくたばるわけねえじゃねえか。」

 顔をひきつらせたノックが言う。

「まだ老衰にはちと早いってもんだ。そうだろ?」


 フィレットさんは口を閉じたままだ。沈黙がその答えだった。



「リリの奴か?」

 腕を組みながら、静かにロックさんが問いかける。


「あぁ。アイツの一つ目の個性にアンタの名前が出た。」


 それを聞いたロックさんは軽く目を伏せる。

「そうか。」


「おい!クソジジイども!俺にも分かるように話せ!どういうことなんだ!?」


「アタシとロックの共通の知り合いに、リリっていう占い師がいる。そいつの個性は人の死が分かるんだ。理由までは分からないが当たる。そういう個性だ。ただ、その死は絶対じゃない。変えられる。それで私が来たってわけだ。」


「だがその表情だと、そうか。俺は病気の(たぐい)で死ぬわけじゃなさそうだな。」


「あぁ、なにかの病なら大抵は私が治せるんだが…アンタは健康そのものにしか見えない。私が(・・)そう言ってるんだ。アンタは健康だよ。」


「お前がそういうなら絶対だ。つまり俺は、殺されるんだな。」


 フィレットさんはそういうのも分かるのか。きっとそれも個性だろう。



「おい、アイツは連れてきたか?」


「あぁ、もちろん。時間も大丈夫だ。あと少しで使える。」


 そういうと、もう誰も口を開かなかった。重苦しい空気が場を包む。

 ノックはまだ納得いかないようだ。何かを言おうとしている様子だが、言葉にはなっていない。


 しばらくすると、フィレットさんがポケットから1つの人形を取り出した。

 人形は右半身が白色、左半身が黒色で手には天秤をもっている。

 それを麻雀卓の上に置くと、ボフンッという音とともに煙が立ち、突如2メートルくらいの大きさに膨れ上がった。


「よおぉぉ!久しぶりじゃねえか!ロックぅ、ずいぶんと老け込みやがったなああ!?」

 デカくなった白黒の人形が叫ぶような声で言う。俺とノックはあまりの事に口をあんぐり開けている。


「おっと、見ない顔がいるな?俺は白黒(オセロ)ってんだ。リリ・リリラレルっつー占い師の個性だ。よろしくな。」


 こんな個性もあるのか…。ロックさんやフィレットさんの個性といい、個性には本当に驚かされることばかりだ。個性が『奇跡の力』と呼ばれる理由にも頷ける。


 続けて、白黒(オセロ)は能力の説明をしてくれた。




 【白黒(オセロ)

 ・対象者はリリ・リリラレルによって死の予言をされたものに限る。

 ・オセロに対し、対象者は自分に関する4つの質問をすることが出来る。

 ・その質問は「はい」か「いいえ」で答えられるものでなくてはならない。

 ・生死に関する質問はできない。

 ・ルールに反した質問をした場合も、1回の質問としてカウントされる。

 ・オセロの回答は絶対だ。しかし、その答えは30日以内のことに限られる。

 (例えば、俺に彼女は出来るか?という質問に対して、30日以内に出来ない場合は「いいえ」と答える)

 ・オセロに1度した質問と同じ内容の質問は、2度とすることが出来ない。

 ・リリ・リリラレルはオセロの能力を30日に1度しか使えない。

 ・オセロは人形の形で携帯することが出来、リリのそばを離れても能力の使用が可能。



「じゃあ、さっそく始めよう。ロック、お前は頑固だが、良い奴だ。死ぬな。まあお前は慣れてるから分かってると思うが質問は慎重にしろよ。」


 白黒(オセロ)がそう言うと、持っていた天秤が輝いた。天秤の二つの皿の上に白い球と黒い球がそれぞれ乗る。


「んじゃ、開始だ。」


「一つ目の質問だ。30日以内に俺を殺しに来るやつがいる?」

『はい』

 という言葉とともに白い球の乗った天秤の皿が下がる。


「二つ目の質問だ。そいつは俺が、今考え得る限りの対策を行ったとしても勝ち目の薄い強者だ。」

『はい』


「三つ目の質問だ。そいつらは複数か?」

『はい』


「四つ目の質問だ。俺が今、この瞬間から戦闘を回避することを第一に行動を起こした場合、俺より強い奴との戦闘を回避できるか?」

『いいえ』


 誰も口を開くことが出来なかった。

 勝てる見込みは限りなく薄く、逃げることすら出来ない。

 リリと呼ばれる占い師の予言する死は絶対ではなく、回避することは出来るという話だった。しかし、正直に言って望みはほとんど無いと誰もが思った。


 死の予言は絶対ではなくとも、オセロにした質問の答えは絶対だ。


 なんて個性だ――――――。

 こんな能力を持った人間は辛くて仕方がないだろう。人の死が分かる。死を回避できる可能性がある。それで救えたなら良いだろう。だけど、死んだら。死んだらどんな気持ちになるんだろう。この能力は、他人の死の責任まで、必然的に背負わざるを得ない能力だ。

 自分に関する質問しかできない、ということは死んでも基本的にその人の自己責任だ。リリと呼ばれる占い師に出来ることはない。リリさんに責任はない。だけど、心はそれで納得できるだろうか。そんな簡単な感情じゃないだろう。

 今までどれほどの死を予言し、どれほどの死を見てきたのだろう。あるかもわからない希望を見せられ、何度裏切られて来たのだろう。


 俺だったら、死んでもそんな個性は欲しくない。


 だって、ロックさん一人の死の可能性を突きつけられただけで、俺の心は張り裂けそうだ。


「俺の答えは絶対だ。だけど、死は絶対じゃない。なあおい、俺の能力を無駄にするなよ。出来るだけ足掻いてくれ。俺はお前の死も、リリの悲しい顔も見たくねえ。

 リリは、もう人の死を見すぎた。死を予言するだけの個性なんか持っちまって、最悪の人生を送ってきた。あいつは救いたいってずっと願ってた。人が死ぬたびに自分を責めていた。そんな時に目覚めた個性が俺だ。俺がアイツの希望だ。それなのに、それなのにまだ人は死ぬ。俺が居ても、救えなかった命の方が多い。そんなの、辛すぎるだろ。

 お前まで死んだら、俺は何のために生まれてきたか分からねえ。足掻けよ。みっともなく生きろ。リリのために、お前のために、そこのガキンチョのために。息子じゃなくても、ずっと育ててきたんだろ」


「やれるだけのことはやるさ。」

 自分の死がかかっているというのに、ロックさんは淡々と答えた。ただ、


「それと言っておくが、そこの糞ガキは正真正銘、俺の息子だ。血が繋がってなくても俺の息子だ。」

 そう行った時のロックさんの目には、何かを決心したような力強さが宿っていた。


「そうか。頑張れよ。期待してるぜ。」

そういうと白黒はまたボフンッという音を立て消えた。人形も残らなかった。


「忙しくなるな。ほっといてもそのうちポックリ行きそうなクソジジイだが、一度も勝てないまま死なれるのは胸糞悪い。もちろん俺も協力するからな。絶対しぬんじゃねえぞ。」

 こんな時まで憎まれ口しか言えないノックだが、こいつは、ロックさんが大好きなんだ。


「あぁ、そうだな。よろしく頼む」

 ロックさんは静かに答えた。その言葉には力がこもっていないように感じた。

 ロックさん、もしかすると貴方は…


「おう任せろ!頼りにしてくれていいぜ!」

 ノックの声が静かな家に響く。



 何時の間にか握りしめていた麻雀牌(まーじゃんはい)を見た。魔物の角。つまりは魔物の死骸で出来たそのハイは、俺の汗でべっとりと濡れていた。言いようのない不安が、俺の中を渦巻いていた。


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