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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第二章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第三話「意識改革、不満と不安と」 3

(大体、実戦と訓練は別物よ。新参者のワタシが言うのもなんだけど、卓上の空論の戦闘ばかり積み重ねている人達が、肝心な時に頼りになるなんてとても思えないし……でも、隊長のゼルリックはああ言っているし)


 自分の見る目が正しければ、ゼルリックは騎士団もエリュシールも贔屓しない、公平な価値観を有する男だ。


 そんな彼の発言は、決して安易に否定出来るほど軽くは無かった。


 だが、ワタシが内心で思案を巡らしている間にも、エリュシール隊長と副隊長の静かな気迫を秘めた討論は続く。


「それは隊長の独断……いえ、判断という事で宜しいですか?」


「どちらに受け取ってもらっても構わない」


 ニーベルスの心なしか冷ややかな問いかけに、ゼルリックは堂々とした面持ちを崩さない。


 まるで互いの心中を読み合うかのように、二人は視線をぶつけ合った。


 表面上ではどちらも冷静に伺えるが、横で眺めているだけのワタシでは、彼らの本当の思考は読み取れない。


 水面下の衝突か、或いは――


「……分かりました」


 暫しの逡巡の後、ニーベルスは口を開いた。


「隊長の判断でしたら、私は部下として、その意向に従うまでです」


(あれ? 案外、あっさりと退いたわね。もう少し食い下がるかと思ったのに)


 周りの隊員達の間からも、心なしかホッとしたような空気が流れ始めていた。朝っぱらから叩き起こされ、延々と終わりの見えない議論を聞かされていたのだ。無理も無かった。


 しかし。次の瞬間、短い均衡は呆気なく覆される。


「……ですが、私個人としての主張は変わりません。この隊の風紀は一度、厳しく取り締まれるべきです」


 再び、重苦しい雰囲気が広場に立ちこみ始める。そのような不穏に満ちた状況にも物怖じせず、エリュシール副隊長は自らの上司に進言した。


「昨日から隊の様子を観察していましたが、たとえ隊長の考えを酌量に加えたとしても、彼らの行動は騎士を名乗る事の出来る水準に達しているとは思えません。幾ら宮廷魔術士達の張った結界で施設内の対魔法防護が完璧とはいえ、あまりにも隊士全員の警戒心が希薄過ぎます。あのような有様では、大規模な敵襲に遭えば忽ち対応出来ず大損害を被るでしょう……更に付け加えれば」


 フーレンスは眉間に皺を寄せ、コホンと大きな咳払いを一つした。


「昨晩の事です。任務開始時刻が目前に迫っているにも関わらず、談話室で惰眠を貪り隊士が一名おりました。私が直々に声を掛けたお陰で事なきを得ましたが、下手すれば任務に支障を来していたかもしれません」


 彼の言葉を聞いた瞬間、すかさず脳裏に確定に近い推測が思い浮かんだ。


(それって……もしかしなくても、アイツよね)


 嫌な予感に促されるまま、周囲を見回す。目的の彼はすぐに見つかった。整列している鎧姿の隊士達の中、一人だけ魔術士用のローブを羽織っている青髪の少年。彼はギクリとした表情で固まっていた。端から見ても、誰が話に上がっている人物なのか丸分かりだ。


(ルトレーったら、お堅そうな上司が来たっていうのに、何しょっぱなから面倒事を起こしてるのよ。初日くらいピシッとしてなさいよ)


 まず、少年が全く以て危機感に欠けていた事実に呆れ返ってしまう。だが、程なくして彼を擁護したいという念が、徐々に湧いてきた。


(……でも、仕方ないと言えば仕方ないわよね。影の後継者アジトの調査から帰ってきたばかりなんだもの。なのに、すぐさま任務に駆り出されて、そりゃ、時間ギリギリまで身体を休めたくもなるわよ)


 周りの隊士達もルトレーに呆れたような視線を送っているが、咎めるような眼差しは皆無だった。むしろ、同情の念が勝っているように思えた。元々、あの少年は肉体労働に向いている類の人間ではない。度重なる激務のせいで、彼が普段からどれだけ疲弊しているか、それは隊の中では周知の事実だった。だからこそ、誰も敢えて責めないのだろう。大体、ギリギリになれば近くにいる誰かが起こしているので、彼が実際に遅刻した試しは殆どないのだ。


「王家直属の部隊としては、余りにお粗末過ぎるレベルの勤務態度です。お言葉ですが、朝の召集の集まりの悪さ等を考慮しても、とても騎士を名乗る事の出来る域に達しているとは思いません」


 ニーベルスは決して自身に好意的ではない眼差しの列を平然と片手で示しながら、


「日頃から免除されているとはいえ、あまりにも行動が遅すぎます。命令に対し機敏に動けなくては、有事に非常召集が掛けられた際、ちゃんと対応が出来るかどうかも疑わしいのですから。アーゼンロイス王家に真の忠誠を誓っているというならば、隊士達には常日頃から相応の心構えを持ってもらわなくてはなりません。もう一度、隊内部を厳しく気を引き締めるべきです。そこで」


 少し間を置いて、ニーベルスは力強い口調で言った。


「隊長に申し出ます。私に隊内部の意識改革をお任せ下さい。私にお任せ頂ければ、風紀を一新し、エリュシールを王家にもたらされし平穏の鞘として真にふさわしい部隊とする事をお約束致しましょう」


(かなり挑戦的な物言いね……周りの目が気になったりしないのかしら)


 彼を一目見た瞬間から漠然と感じていた不安が、ワタシ中で徐々に強まっていくのを感じた。予感に任せて、周りの隊士達を見渡してみる。不快感を明朗な形で露わにする者は殆どいない。だが、よくよく注視してみると、一部の隊員達が僅かながら眉間に皺を寄せているし、そうでない者達も、冷ややかな感情を暗に醸し出している。


 一度こうなってしまった以上、両者の間に友好な関係を望むのは難しくなるに違いなかった。まぁ、あの青年はそれを不安がる性分でも無さそうだが。


「ふむ……」


 ゼルリックは腕組みをして、何やら考えている様子だった。やがて、


「確かに、お前の考えも一理あるな」


 と、顔を上げて重みのある頷きを返した。


「分かった、ニーベルス。当面、隊士達の指導をお前に一任する」


(えええええ!? そこ了解しちゃうの!?)


「有り難うございます。御理解、助かります」


 隊長の了解を得た金髪の青年は、端正な顔立ちに満足げな微笑を浮かべた。


「ただし、お前の方針に対して、私の方から意見する事もある。その時は従ってくれ」


「はい、それは勿論です」




 これが。エリュシール新副隊長ニーベルスによる、怒濤の意識改革が始まりを告げた瞬間であった。

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