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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第二章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第三話「意識改革、不満と不安と」 2

「……と、言いますと?」


 首を傾げて、ニーベルスが言葉の先を促す。隊長に対して不遜な態度にも思えたが、ゼルリックは全く意に介していない様子で言葉を続けた。


「『エリュシールはアーゼンロイス騎士団から完全に独立した組織』という事だ。当然、指揮系統も異なっているし、あちらの慣習に倣う道理もない。つまり、騎士団の鉄の掟は適用されないという事だ。従って、この部隊では早朝点呼を行っていないし、これから行うつもりも無い」


「しかし、お言葉ですが」


 ニーベルスは穏やかに、それでいて鋭く突き刺さるような反論を述べる。


「騎士団の早朝召集は、風紀を引き締める事だけを目的としているわけではありません。組織運営において、情報伝達を末端の者まで速やかに行う事は、余計な手間や致命的なミスを事前に防止する為の重要な議題です。だからこそ、騎士団では一日の始まりと共に騎士全員を召集し、定期的に情報の更新を行っているわけです」


「その点は私も承知している」


「でしたら!」


「しかしだ、ニーベルス。貴殿は一つ、重要な点を見落としているぞ」


「重要な点……?」


「組織規模の差異だ」


 ゼルリックは毅然とした面持ちで断言した。


「常に多数の人材を抱え、重要都市には支部を有し、王国正規軍の中核を担うアーゼンロイス騎士団ほどの大組織であれば、円滑な情報伝達を行う為にも、定期的に召集を掛ける事は必要不可欠だ。情報戦の遅れは致命的な敗戦に繋がるのが世の常だからな……だが、エリュシールは小規模の部隊だ。規則で雁字搦めにしてしまえば、逆に組織としての小回りが効かなくなる恐れもある」


「ですが、納得がいきません。定期的な情報伝達を疎かにして、緊急事態が起きてからでは遅いのですよ。それに、早朝点呼は王国に仕える騎士にとって、節制と研鑽に彩られた模範的生活態度を民に示す為の、いわば重要な儀式です。ごく僅かな例外を除いて、認められるわけがありません」


「平時はパターン化された仕事と訓練をこなせばいい騎士団とは違い、エリュシールが扱うのは都の治安に密接する定期的な市中の見回り等から、極めて不規則な召集かつ迅速な対応が要求される反政府組織殲滅まで、枚挙に暇がない。個々人で任務に従事する時間帯は千差万別、就寝や起床の時間も各々で異なる。このような環境で余分な時間を割けば、却って逆効果だ。小規模部隊の長所であるフットワークの軽さを殺す事になる」


「しかしです。迅速な遂行を求められる任務を、下手すれば失敗しかねないんですよ」


「そもそも、急を要する任務に望む場合、定期連絡の猶予を与えられる事が少ない。本部で待機している人員に口頭で臨時召集を掛け、対処する他は無い場合が殆どだ。現状、この部隊で定期的に召集を掛けるメリットは少ないと私個人では認識している。隊員各々が状況に合わせて柔軟な判断で動き、その場その場で臨機応変に対応する。それが、このエリュシール隊において最も重要な事だ」


(そうそう。流石、ゼルリックはちゃんと分かってるじゃない)


 隊長が自分の主張を代弁してくれたようで、刺々しくなっていた胸の内が少しだけ和らいだ。彼の言葉を、噛み砕いて説明すれば。要するに、『毎朝召集して定期連絡をする暇なんてないし、そんな事をすれば逆に仕事の邪魔になる。任務はひっきりなしにやってくるのだから、堅苦しい慣習等は廃して柔軟に対応するのが大切』というような感じだろう。


「……要するに、良く言えば隊員に全幅の信頼を置いている。悪く言えば、部下の判断に全て丸投げという事ですか」


「端的に言うなら、そうだろう。私も完璧な人間ではないと、己で重々承知している」


 ニーベルスの何処となく皮肉めいて聞こえる指摘に、ゼルリックは顔をしかめたりはせず、静かに肯定を返す。


「しかしだ、ニーベルス。極僅かな例外を除いて、騎士は民に模範的な生活態度を示さなければならない。貴殿は先ほど、このように主張したな」


「ええ。だからこそ、私はこの隊の風紀を立て直そうと……」


「その極僅かな例外に、私はエリュシール隊士全員が当てはまると考えている」


「……どういう意味です?」


 眉間に縦皺を作って訊ねるニーベルスに対し、ゼルリックは今まで通り理路を立てて語る。


「先も述べたように、我々の任務は騎士団に比べて不規則なものだ。だが、貴殿が主張する通り、急を要する有事の際には迅速に出動しなければならない。王家や国民を守るのが我々の勤めだからな」


「だからといって、例外扱いは認められるわけがありません。それは騎士団も同じです」


「そうだな。しかし、騎士団とエリュシールでは、指揮系統が異なる以外に、一つ決定的な差異がある」


「なんです?」


(仕事量の差よ、仕事量の差! 劣悪な労働環境の改善を訴えるのよ!)


 ゼルリックに期待する言葉の羅列を、心中で連呼し続ける。だが、


「騎士団は任務に従事しつつも、常日頃から余力を残さねばならない。対して、エリュシールは身を粉にして職務に望まなければならない。有事に備えて騎士団の余裕を確保しておく事、それがエリュシールの存在意義の一つでもあるからだ」


(……へ?)


 彼の回答はワタシの予想の斜め上をいくものだった。初耳の言葉に、思わず目が点になってしまう。


(エリュシールが忙しいのは騎士団の為……? ていうか、存在意義の一つって何の事……?)


 他の団員達も意外な展開のようで、互いに顔を見合わせたりしている。


「アーゼンロイス騎士団は、アーゼンロイス王国正規軍の中でも重要な位置を占める勢力だ。当然、王都の防衛戦力を見ても、彼らの比重は殊更に大きい」


 異様な雰囲気の中、エリュシール隊長は発言を続ける。


「小規模の独立部隊に過ぎない我々や一般の警護兵では、多数の人員と資金を要する大規模勢力には対応出来ない。彼らの蜂起によって王都の治安が脅かされた時、真っ先に手を借りねばならないのはアーゼンロイス騎士団だ。しかし、平時の内から彼らに頼っていては、肝心の有事が起こった際、彼らが組織として疲弊している場合も有り得る」


「最後の抑止力として、騎士団にはいつでも万全に実力を発揮出来る環境を維持してもらわなければならない、というわけですね」


「そうだ。だからこそ、平時の騎士団は規則正しい任務と鍛錬をこなし、模範的な生活習慣を送る余裕を有している。そして、その余裕を作り出す事が、エリュシールに与えられた使命の一つだ。逆を言えば、我々は騎士としての古い慣習に囚われず、王都の治安維持に全力を注ぐ行動こそが、我々に課せられた役割ともいえる。不規則な任務に各自が柔軟に休養を取る事で対処しているのも、我々が騎士としては異端の存在……『例外』であるが故」


「……なるほど。つまり、有事に備えて休息を優先するのも、この隊の任務の内であるというわけですか」


「そうだ」


(うーん、話の筋が通ってる気はするけど。何だか、モヤモヤしてくるわね)


 ゼルリックの説明に納得はしたものの、どうしても煮え切らない感じがして、ワタシは胸の強いくすぶりを覚えた。


(騎士団は休むのも仕事で、だから騎士として模範的な行動を取る余裕を得られる。騎士団に余裕を作る事も存在意義のエリュシールは普段の業務が忙しい代わりに、騎士団の慣習に囚われず不規則な生活を送れる……話としては理解出来るけど……それじゃ、ワタシ達は結局、騎士団の踏み台として良いように使われているだけじゃない)


 『騎士団の慣習に囚われず、不規則な生活を送る事が出来る』というのは、さもメリットであるかのような言い回しだが、よくよく考えてみればエリュシール隊を都合良く働かせる為の方便にしか思えない。不規則な生活なんて、送らないに越した事はないものなのだから。


 大体、騎士は国民に模範的な生活態度を示さなければならないものだと、ニーベルスは主張しているものの。


 『真に民の模範と成りうる騎士』とは、果たしてどのようなものなのだろうか。




 方や、最後の砦という免罪符を盾に、厄介な仕事を他に押しつけ、古い慣習や組織としての体面を守る事に執着するアーゼンロイス騎士団の騎士達。




 方や、粉骨砕身して過酷な任務に従事し、王都に住まう民達の身近な守護者として、彼らの平和な日常を日夜守り続けるエリュシールの隊士達。




 客観的に考えても、主観的に考えても、尊敬されるべき人々は火を見るよりも明らかではないだろうか。

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