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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第二章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第二話「予兆の暗雲」 3

(一難去ってまた一難とはまさにこの事ね……ううん、もっと悪いかも。敵対組織はむしろ増えてるし)


「他の隊を責めても仕方ないさ。彼らも影の後継者の尻尾を血眼になって追っていたんだから、他の事に目を向ける余裕なんて無かった筈だしね。僕達はエリュシールの一員として、僕達の任を果たすまでだよ」


「それはそうっすけど……俺、ミナーシェさんみたいに要領よくないんすよ。これ以上、仕事が増えると思うと、ホント憂鬱で」


「まぁまぁ……きっと、疲れが溜まってるんだよ。これから任務も無いだろうから、今日はゆっくり休息を取って……」


 溜息を吐く後輩に、宥めの言葉を掛けるミナーシェ。そんな二人の様子を傍から眺めながら、


(本当、ミナーシェって模範的よね……職務は実直に行うし、仕事ぶりにもそつがないし)


 よくよく考えれば、ルトレーが例外なだけかもしれないけど。食後のお茶を嗜みながら、ワタシは隊の面々を頭に思い浮かべる。隊長のゼルリックに、ミナーシェ、メッツェ、そして麗しい緑髪の――


「……あのさ、ルトレー」


 職務をこなす彼の後ろ姿が脳裏をよぎった瞬間、ワタシは思わず口を開いていた。


「なんだよ」


「ええとね、その……」


 つい衝動的に発言してしまった所為か、続きの言葉が上手く出てこない。燃え盛る業火の中、身の危険も省みずワタシを解放してくれたフーレンス。彼は一体、どうなっていたのか。その問いを投げかけたい気持ちはあった。だが、同時に真実を知る事が恐ろしくもあり、その葛藤が質問を実際に発する事を妨げていた。


 せめぎ合う二つの衝動に、質問を紡ぐ事なく、押し黙る。


 そんなワタシを、ルトレーは怪訝そうな顔つきで暫く見つめていた。


 だが、躊躇し続けるワタシの態度に何かを感じ取り、そして悟ったのだろう。


「安心しろよ」


 心なしか柔らかい語調と表情で、彼は口を開いた。


「フーレンスさんは見つからなかった」


「え……?」


 ――見つからなかった?


 淡々と告げられた言の葉。一瞬、何を言われたのか分からず困惑する。だが、麻痺していた思考が徐々に事実を理解していくにつれ、心に広がる動揺がワタシの目を大きく見開かせた。


「見つからなかったって、どういう事なの?」


「文字通りの意味さ。幾ら瓦礫の下を漁っても、遺体が掘り出されなかったんだよ」


 蒼髪の少年は小さく首を振って、


「お陰で現場は大パニック……俺達が徹夜で採掘屋の真似事をさせられていたのも、それが原因さ」


 青髪の少年は溜息をつきながら肩を竦めた。


「敵対組織の本拠地を一つ壊滅させたとしても、肝心の首領が生死不明なら、組織を再建される可能性は捨てきれないからな。上層部が不安がって、俺達に徹夜労働を強いたってわけさ。結局は無駄働きに終わったわけだけど」


(なるほどね……だから、こんなに疲れていたんだ)


 改めて観察すると、当の本人だけでなく、身につけているローブまでくたびれて見えた。もう何日も洗濯していないだろうから、当然といえば当然なのだが。


「良かったじゃないですか、マナミさん」


 水色の髪をした青年が、柔らかい微笑を浮かべてワタシを見つめた。


「現場から何も発見出来ないという事は、本人は既にその場を去った後という事です。マナミさんの願いはきっと叶っていますよ」


「……うん、ありがとう」


 影の後継者に関連する一連の事件がひと段落した頃、エリュシール本部の裏手にある庭で、ワタシはミナーシェにこう告げた。


 ――ワタシは、フーレンスに生きていてほしいって思う。


 確証があったわけではない。半ば、願いに近い発言だった。


 だが、今回のルトレーの発言が、ワタシの心を優しい希望で満たしてくれた。


 彼が生きてくれてさえいれば、まだ話しをするチャンスはある。望みは確かに存在する。


(今度はきっと、分かり合える筈……)


 両目を瞑り、温かな感慨に浸っていると、


「ただ、一つ残念な知らせもあってさ。お前をこの世界に呼び出した術式に関する情報も、発見出来なかったんだ」


 再び視界を開くと、そこにはバツの悪そうに頭を掻くルトレーの姿があった。


「フーレンスさんの事だから、何処かに資料を保管している筈だと思って、他の奴にも捜索させたんだけど……何にも見つからなかった。だから、お前を元の世界に戻すのはまだまだ先の話になりそうだ。悪い」


「ううん、謝る事ない……それより、ありがと」


「へ? 別にお礼を言われるようなコトしてねーよ」


「だって……ちゃんと、覚えててくれたんでしょ?」


 目を丸くするルトレーを、真っ直ぐに見つめて微笑む。フーレンスの安否を心配していた事、元の世界に帰りたがっていた事。それらを、ちゃんとルトレーは覚えていた。覚えていて、ワタシの為にと行動してくれた。その事がただ、純粋に嬉しかった。だから、素直にお礼の言葉が伝えられた。


 しかし、お礼を伝えられた当の本人はというと。


「ご、誤解すんなっつーの!」


 と、頬を赤らめてそっぽを向く。


「俺はただ……お、お前がずっとここにいても面倒だし、隊長からの命令もあったから、仕方なく情報集めしてただけだ。べ、別にお前の為に情報を集めていたわけじゃ」


「君も素直じゃないね、ルトレー」


 いたずらっぽい微笑を口元に湛えて、ミナーシェが横から口を挟んだ。


「なっ……! ミナーシェさんまで何言ってるんすか!」


「あはは、いやあ。君が城の魔術士達に『元はと言えばヴォリアンの野郎に唆されたお前等が悪いんだから、アイツの送還方法を早く見つけろよ!』って突っかかる姿を、最近よく見かけるからさ」


「な、なんで知ってるんすか!? ていうか、どうしてミナーシェさんが城に」


「今は副隊長不在の状況だから、隊長に実務を幾つか任されているんだ。というわけで、城に行く機会も多いのさ。そうそう、君がこの前、『アイツが自分の世界から放り出されてどれだけ心細いか分かってんのか! もう少し真面目に取り組みやがれ!』って怒鳴っていた時も」


「ぎゃ、ぎゃあああああ! それ以上は言わないで下さい!」


 裏返った悲鳴を上げて、ルトレーはミナーシェの言を遮った。食堂にいた隊員達が全員、何事かと目を丸くして彼を見やる。しかし、ルトレーは周囲も全く目に入らない様子で、ミナーシェ相手に猛烈な勢いで熱弁を奮っていた。その顔は今や、茹で蛸の如く紅潮している。


(そこまで必死になって否定しなくてもいいのに……ま、女性に親切にするのがまだ恥ずかしい年頃なのかな)


 微笑ましい光景に、思わず口元が綻ぶのを抑えきれず。ワタシはクスリと声を洩らした。

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