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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第一章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ」(2015年1月11日に完結済みです)
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最終話「想い、遙か」 19

「何っ!?」


 不意を突かれたヴォリアンの両目が、大きく見開かれる。ワタシもまたひどく驚いていた。


――一体、誰が?


 だが、攻撃を受けた側である彼の方は、そんな疑問を考える余裕もないようだった。ワタシがこうして悠長に脳内で呟いている間にも、凄まじい勢いの水の奔流はヴォリアンめがけて急速に接近していく。


 流石の元宮廷魔術師長も、この奇襲を放置したまま攻撃を続行する選択は出来なかったようだ。


「……くっ!」


 ヴォリアンはミナーシェに翳していた両手を水流の方へ向けると、早口で二言三言呟く。すると、何となくだが彼の足元に展開されていた魔法陣の雰囲気が変化したような気がした。そして、今まさに魔力の水流が彼とその周囲を飲み込もうとした、その瞬間。電撃で作られた網のようなものが術者の身体を覆い、魔法の直撃を防ぐ。推測するに、ヴォリアンは今まで詠唱を続けていた攻撃魔術を中断した後、その要素を利用した防御術式をとっさに構成したようだった。奇襲を受けても瞬時に対策を取れる点からすると、認めたくはないが、彼はそれだけ卓越した腕の持ち主なのだろう。あのムカつくほどの自信は、確かな実力に裏付けされたものだということだ。


 ヴォリアンの生成した魔術の網に、水飛沫が織りなす奔流が勢いよく激突していく。だが、数は多くともやはり『水滴』では威力不足なのか、それらは電撃の結界を貫通することなく、宙に四散して文字通り水飛沫となり、冷たい床を濡らした。ヴォリアン自身には全くダメージがない様子だが、彼の攻撃の妨げとなった事には間違いない。


――けど、いったい誰が……。


 そこまで頭を巡らせて、はたと気がつく。そうだ。このような『水属性』の魔法を操る事の出来る隊員を、ワタシは一人知っている。


――じゃあ、まさか……!


 やがて、通路の奥に隠れていた魔術の発動者が、暗がりから姿を現す。


 そこにいたのは。


「……ルトレー!」


 そう。息を荒げながら近づいてきたのは、目の前の男に見下され続けてきた、青髪の少年だったのだ。彼は足下に自身の髪のように蒼い魔法陣を展開し続けながら、真剣な表情でゆっくりと室内に歩いてくる。


「このっ……!」


 自分に攻撃を仕掛けてきた相手の姿を目に留めたヴォリアンの額に、青筋が浮かび上がる。


「才能の欠片もないクズの分際でっ! よくもこの私に刃向かいましたね! 許しません……許しませんよっ!」


 そう激高し、彼は再び魔術を唱えようと魔法陣を展開する。しかし、


「ウォーター・スプラッシュ!」


 間髪入れず繰り出された二度目の攻撃が、彼の詠唱を許さなかった。流石に追撃までは防ぐ余裕がなかったのか、それともこれほどまで素早く術を連続して放たれると予想していなかったのか。弾丸のような水飛沫は、無防備だった敵に直撃した。


「ぐうっ!」


 苦しそうな叫び声を上げながら、ヴォリアンは身を襲う衝撃によろめく。


――す、凄い……!


 思わず、心中で感嘆の叫びを上げていた。魔法を発動し、なおかつ思い通りに制御するのがどれだけ大変な事か、かなりの日数を特訓に費やしてきた今のワタシは熟知している。だからこそ、少年の行った行動が高度な技術であると分かったのだ。しかし、一体どうやったのだろう。室内での争いを察知し、遠くでバレないよう魔法陣を展開し、奇襲を仕掛けたというのは何となく理解出来るのだが、短時間に同じ術を連続発動したカラクリが分からない。魔法に精通した、それこそヴォリアンのような凄腕の人物なら一回の詠唱に費やす時間も短くて済むのかもしれないが、彼に未熟者扱いを受けていたルトレーが何故そのような芸当を出来たのか、不思議だった。


 そんな疑問を抱いていると、体勢を立て直したヴォリアンが、かつての部下に向かって恨めしそうに呟く。


「まさか……貴方のような出来損ないが『詠唱設置』を習得しているとは思いませんでしたよ。ですが、残念でしたね。如何せん、貴方の術では私を倒すのに威力不足です。所詮、才能の無い者は才能の無い者という事ですか」


 彼の辛辣な発言に対し、


「俺の狙いは、アンタを倒すことじゃねえ」


 相対している相手を鋭い眼光で見据えながら、ルトレーは意味深な言葉を口にした。


「……それはどういう意味です」


 眉を顰めながら、ヴォリアンが訊ねる。しかし、ルトレーは答えない。青髪の少年は自身の因縁の敵を睨みつけたまま、微動だにせず術を唱え始める。程なく、彼の足下に青い光に彩られた魔法陣が再び形成される。その様子を眺めていたヴォリアンは小さく首を振って、


「やれやれ、性懲りもなく同じ手ですか。仕方ありませんね。ならば、圧倒的な力の差というものを見せつけてあげま……」




「ミナーシェさん! 今っす!」 




――えっ!?


 突如放たれたルトレーの叫びに、慌てて視線を目の前の青年に移す。いつの間にか、ミナーシェは近くにいるワタシでも聞き取れないほどの声量で何かを呟いていた。会話に割り込むこともなく、微かに唇を震わせる以外、ずっと槍を構えたままの体勢を維持していたので、気がつかなかったのだ。


 ワタシと同じく彼へ目を向けたヴォリアンの顔が、しまったとでもいうようにひきつる。ほぼ同時、ミナーシェの足下に、術の発動を予期させる光の線が紡がれた。それは雪のように繊細な美しいようで、刃に似た鋭利な煌めきをも合わせ持つ、銀と白の入り交じった目映く発光する魔法陣だった。その輝きはルトレーの足下に作られているそれとも、ヴォリアンが速攻で魔術を放った際に生じたそれとも比較にならないほどに強烈なもので、ミナーシェが今現在に唱えている術が詠唱難度の高い、発動に時間を要するような上級魔法であるという事は、ワタシの目から見ても一目瞭然だった。


 ルトレーの登場に誰もが意識を奪われた隙を突き、彼は着々と反撃の準備を進めていたのだ。


 その事に気がついたヴォリアンは、慌てて攻撃対象を変更し、身体を反転させようとする。だが、


「余所見してんなよ!」


 三度、途轍もない量の水飛沫が高らかな叫びと共に放たれた。今度はミナーシェの詠唱に気を取られ、ヴォリアンの対応がまたしても遅れてしまう。彼は前と同じように電撃で作り上げた網で自らの身を護ったが、やはり短時間のうちに次々と命中する水滴によって積み重ねられた衝撃は緩和出来なかったようで、姿勢を崩した。発生した大量の雫は四方八方に飛び散り、金属で出来ている床に生じた水たまりの一部と化していく。ミナーシェが未だ術を発動していないところから考えると、先ほどのルトレーの発言は自分から注意を逸らし、相手をまたしても不意打ちする為のブラフだったようだ。


 そして、ワタシと同じようにその事実に気がついたらしいヴォリアンは顔を真っ赤にして、


「力の無い者の癖に、小癪な真似を……! いいでしょう。そこまで屈辱を味わいたければ、目障りな貴方から消して差し上げます!」


 しかし、彼が怒りと共に詠唱を再開しようとする、その直前。


「……アイシクル・アヴァランシェ!」


 ミナーシェの鋭い声が、室内に響きわたる。刹那、目の前に広がった圧倒的な光景に、ワタシは思わず目を奪われた。彼の足下に展開されていた白銀の魔法陣がその輝きをいっそう強めたかと思うと、その場所を起点として、一メートルはあろうかという巨大な氷柱が天井めがけて伸び始めたからだ。それも、一つや二つといった湿気た数ではない。数十にも及ぶ氷柱が床に生じている大きな水溜まりを糧として瞬く間に出現し続け、まるで一点めがけて猛進するように群を成していく。その様はまるで、高地から低地へと怒濤の勢いで突き進む雪崩のようだった。


 そして、その進行方向に存在しているのは、彼の敵である一人の男。


「くっ!」


 驚愕に目を見開いたヴォリアンに、多数の氷針達が浴びせられる。だが、鋭利な氷柱が彼の身体を貫くことはなかった。前もって展開されていた電流の網が直撃を防いだからだ。だが、前にルトレーの魔術を受け止めていた影響か、詠唱を簡略化された術と完全に詠唱を終えた術との威力差か、完全に相手の攻撃を防御することは出来なかったようで、バチリと電気の弾ける音がしたのと同時に、防護網の所々が破けていく。自身の進行を妨げる最大の障害を失った残り氷柱達は我先にと僅かな隙間を潜り抜けていき、標的めがけて襲いかかった。ヴォリアンは身をかわそうとするも直撃を避けるだけで精一杯だったらしく、彼は地面から伸びた数多くの氷柱に四肢を挟まれるようにして動きを封じられる。




 術によるこれほどの猛攻を退けて命を落とさなかったのは、流石は元宮廷魔術師長の肩書きを持つ男と褒めるべきかもしれない。




 しかし、ミナーシェはただ魔法を放っただけではなかった。




 勇ましい真紅の影が氷結した床を蹴り、美しき氷柱に彩られた道を颯爽と駆け抜けていく。




「ひっ……!」


「はあっ!」


 男の怯える悲鳴と、青年の凛々しい叫びが室内に反響した、次の瞬間。




 青年の左手に強く握りしめられた長槍が、男の脇腹を貫いた。

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