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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第一章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ」(2015年1月11日に完結済みです)
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最終話「想い、遙か」 13

「ただ、村を出てから一度も、実の父の元へ赴こうとしなかったわけではありません」


 思いを巡らすワタシを現実へと引き戻したのは、過去を振り返るかのような面持ちで綴られる、フーレンスの語りだった。


「行く宛もなく大陸をさまよい歩き、時には小さな国の兵士として修練を積み、時には貴族の使用人として働き、時には隠遁の大魔術士に弟子入りし……様々な経験の後、何時しか私の足は王都アズレードへと向けられていました。知らず知らずの内、自らの中に存在した情がそうさせたのでしょう。当時の私は、まだ若かった。父親に対する淡い期待を、捨てきれずにいたのです。ひょっとしたら、父は私の事を実の息子だと認めてくれるかもしれない、とね。ですが」


 言葉に詰まった様子のフーレンスは、暫しの時間をおいた後、様々な思いを吐き出すような荒々しい語調で一気にまくし立てた。


「華やかなパレードの取り行われていた都で私が見たものは、観衆の大きな声援と盛大な拍手の中、王妃に抱かれた幼い赤ん坊の額を愛おしそうに撫でる父の姿でした。ちょうど、子宝に恵まれなかった妃が第一子を出産していたのです。長く母国を離れ、なるべく知り合いに会わないよう、寄り道もせずに真っ直ぐ都を目指していた私にとっては、知る由のない事実でした。王家の姿に沸く民衆に混じって、私は遠目から実の父と、その家族を眺めました。新たな家族の誕生で、二人は実に幸せそうな様子でした。そんな彼らの姿を見ているうち、私の中で暗い感情が沸々と湧いてきたのです。周囲の非難の目に耐えながら、それでも必死に働いた母は病に倒れ、ささやかな願いすら叶う事なくこの世を去り、残された私は味方のいない村を若くして去り、明日の銭の為にどんな仕事にでもしがみつかなければならなかった。彼らが愛を育んでいた陰で、私達親子は苦渋の生活を強いられていたのです。それなのに、薄情な男は昔の恋人へ連絡の一つも寄越さず、新たな女に現を抜かし続け、今や生まれながらにして備わっていた権威や地位を存分に奮いながら、金にも不自由しない幸福な家庭を築き上げている。あれほどまで、世の中の理不尽を憎んだ日はありませんでした」


 静かな怒りを込めた口調で、フーレンスは吐き捨てるように言った。


「私は絶対に許しません。母を捨て、私を捨て、自分だけ何事も無かったかのようにのうのうと生き続けている父を。私達親子という存在を踏み台にして作り上げられた理想的な家族を目の当たりにしたあの日、私は決心したのです。あんな、あの親とも認めたくない不誠実な男に、一つの国を治める資格などない。だから、私がその権利を剥奪してやるのだと。そして、その願いは今まさに現実となります」


 さて、話が長くなりました。そう呟くように言って、フーレンスはワタシに背を向けると、反対側に設置されている装置の方へと歩いていく。彼が制御パネルと思しき部分を操作すると、鈍い振動音と共に装置が稼働を始め、室内に明かりがついた。


「そろそろ、計画の最終段階に入る時間です。貴女にも存分に協力してもらいますよ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 今まさに作業を始めようとする背中に、ワタシは慌てて叫んだ。


「自分の復讐の為に、罪もない沢山の人々を巻き添えにする気!?」


 操作パネルを叩こうとしていた白い指が、ピクリと止まる。


「復讐……?」


「だって、そうじゃない! 自分と母親の受けた苦しみを、父親に返そうとしてるんでしょ!」


 今頃、エリュシール隊の皆は自分達の副隊長こそが真の敵だとは思いも寄らず、都で騒ぎを起こしている連中を鎮圧している最中だろう。彼らがアテに出来ない以上、フーレンスの成そうとしている暴挙を食い止められるのはワタシしかいない。その事を強く自覚した瞬間、首筋から嫌な汗が流れ出した。必死の思いで、ワタシは目の前の彼を説得しようと言葉を紡ぐ。


「ねえ、フーレンス。貴方の境遇を聞いて、それでも何とも思わなかったわけじゃないわ。貴方の父親がやった事は、ワタシも酷いと思う。貴方は幼い頃から相当な苦労を重ねてきたんだろうって、それも何となく察しがつく。でも、貴方がやろうとしている事は、貴方の父親と同じくらい身勝手よ。幾ら国を変えたいからって、今を頑張って生きている都の人達を犠牲にして良いわけがないもの。そんなの、独りよがりな改革よ。復讐を大義ですり替えないで!」


「……確かに、私の中に暗い負の感情が渦巻いていないとはいえません。しかし、私はこの国の行く末を心から憂いているのです。この国は芯から腐りきっている。誰かがやらなければならないのです」


「だからって、こんな強引なやり方が許されるわけないじゃない! 時間はかかっても、内部から変えていけば」


「……歴史のある名家が権威を持つ城の中で、外からやってきた者にどれだけの事が出来たと思うのですか? 構造を変え、政治を変え、国を変える事が出来たと?」


「……それは」


 淡々とした問いかけに、ワタシは答えられなかった。フーレンスの言葉は、別の世で暮らしてきたワタシの胸にも鋭く突き刺さった。


――結局、何処の世界も、抱える問題は同じようなものなのかもしれない。


 そんな想いが、ふと脳裏を掠めた。善良で真摯に生きていた筈の人々の心が歪み、暴力的な正義に走ってしまうのは、ヴォリアンのように欲深く傲慢な人間達が世界に蔓延り、彼らの分の幸福まで貪り続けているからなのだろうと。そして、そのような者達が上の席を占めている限り、下の者がどんなに正当な手段で訴えても、途中で握り潰されてしまうのだ。ワタシの身にも、心当たりは沢山あった。


 彼の主張は、至極真っ当な正論のように思えた。


「それに、もう遅いのです」


 沈黙したままでいると、彼はこちらに背を向けたまま、おもむろに口を開いた。静かな声だった。


「幾ら空想の未来を描いたところで、今更どうにもなりません。既に賽は投げられたのです。私は長い年月をかけて、この計画の準備を進めてきました。禁術の研究に手を染め、エリュシールに素性を隠して潜り込み、協力者を増やし……そうして費やしてきた膨大な時間を無にするわけにはいきません。私はこの国を一度壊し、新たな秩序を作り上げます。真に、人々の幸福をもたらす世界の為にね」


「そんな……」


  フーレンスの語気に含まれる強固な意志と揺るぎなき信念を感じ取り、絶句する。最早、計画を中断させるのは不可能なのかもしれない。幾らワタシが説得したところで、彼の決意は微塵も揺るがなかった。フーレンスの内に、自分達親子を捨てた父を憎む気持ちはあるだろう。しかし、彼が憎悪だけでこのような悪行に手を染めたわけではない事は、本音を打ち明けた彼の様子を見れば一目瞭然だった。母国の将来を案じているという彼の言葉は、決して嘘偽りのものではないだろう。


 今までに傷つけてきた沢山の人達のことを考えれば、フーレンスの行いは決して許されるものではない。


 けれど、彼の中に確固たる正義があることもまた、事実なのだ。


――でも、どうしてワタシなんかに話したんだろう……。


 考えて、はたと気がつく。もしかすると、少なくない無駄な時間を使ってまで、彼が本心をさらけ出したのは、自らの行動の真意を誰かに理解してほしかったからなのかもしれない。


――こうして黙って見ているだけしか出来ないの?


 まだ、諦めたくない。そんな気持ちに突き動かされて、ワタシは背中を向け続ける彼に呼びかけた。




「……フーレンス、お願い。ワタシは貴方に、そんな事をしてほしくないの」




 再び、彼の手が止まった。

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