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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第一章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ」(2015年1月11日に完結済みです)
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最終話「想い、遙か」 10

「アズレードが……宿ってる? ワタシに?」


「はい、そうです」


 呆然としながら発した呟きに、フーレンスは肯定の言葉を返してくる。しかし、素直に信じる事は出来なかった。突拍子もない話過ぎて、まるで現実感が湧かなかった。


――大体、ワタシは元の世界じゃごく普通の社会人だし……。


 元の世界では、税金を払い、選挙に投票し、サービス残業に溜息を洩らすような、どこにでもいる一般市民だったのだ。


 そんな自分に、都の名前として使われるほど尊敬を集める大精霊が宿っている?

 子供だってこんな冗談は言わないだろう。


 何かの間違い、そうとしか思えなかった。


――そう、ワタシは普通の人間よ。


「信じられない、というような顔つきですね。では、その事についても説明しましょうか」


 こちらの動揺の色を見て取ったのか、フーレンスは相変わらず落ち着いた調子で口を開いた。


「まず、お話しなければならないのは、ルトレーの唱えた召喚術式は、皆さんに前もって伝えられていたような代物ではなかったという事です」


「……ホント、衝撃の事実のオンパレードね」


 驚くのにも疲れてきたワタシは、げんなりして溜息を洩らした。


「どうせ、『根回し』とかで誤った情報を流していたとか、そんな感じなんでしょ」


「ええ、その通りです。城の方では書物の解読が殆ど済んでいない状態でしたからね。ヴォリアンもいましたし、騙すのは簡単でしたよ」


 なるほど。事もあろうか王国の本拠地で、彼がこれほどまでの暗躍を巡らせられたのは、城を牛耳る宮廷魔術師達のトップを協力者だったからなのだろう。


「国王を始め、皆さんはあの召喚術を、『兵士として有望な才能や資質を別の世界から選定し、こちら側へ呼び寄せる』ものだと思っていたようですが、厳密には違います」


 ここで一呼吸おいて、フーレンスは天井を見上げた。


「あれは、『ある者』の器として成り得る存在を選定し、こちらの世界へ呼び寄せ、その中に『ある者』を封じ込める術だったのです。それが一体何なのか、もうお分かりでしょう?」


「……精霊アズレードね」


 ようやく、真実の断片が一つに繋がり始めた。


 ワタシがこの世界に呼び寄せられ、フーレンスが策謀を巡らせた理由。


 それは、彼の計画に『精霊アズレード』が必要だったからだ。


「アズレードについての様々な伝承が、この地には残されています。王家に祝福を与え、国の繁栄を築き上げた後、深い眠りについた……或いは、怒りで大陸の一部を砂漠と変え、別の大陸へと旅立った……或いは、この世で暴れ回った彼の精霊は、その疲労で動けなくなり、地の底へと沈んでいった……大多数の人々は、これらをよく出来た作り話と一笑に伏すか、子供のように盲目的に信じ続けるかのどちらかです」


「実際はどうなのよ。そう言うのって普通、迷信とか教訓の類でしょ?」


「大体はそうですね。ですが、この件に限っては、当たらず遠からず、といったところでした。子供に聞かせるようなおとぎ話の中には、僅かな真実も含まれていたのです」


 長きに渡って様々な古代書を読みあさった末、私は真相の一端にたどり着きました。そう言って、フーレンスは薄暗い部屋の中をゆっくりと、小さな円を描くように歩き始めた。まるで、口にする文章を、自らの内で吟味するように。


「遙か遠い過去、精霊アズレードは実在したのです。元々からこの地の守り神だったのか、はたまた、かつての王に仕える召喚術士が呼び寄せたのか……とにかく、かの精霊は王家に力を貸し、彼らが国を築き上げる助けとなりました。暖かな炎で土地に恵みをもたらし、敵国をその強大な魔力で滅ぼし……やがて全ての脅威が消え、民が平和と幸福を享受出来るようになった頃、アズレードは役割を終えた事を悟り、長きに渡る力の行使によって疲弊した自分自身を休ませるため、安らかな眠りにつきました」


「……本当に、子供に読み聞かせる物語みたいね」


「ですが、話はまだ終わりではありません。かつて、かの精霊の力に目をつけた人々がいました。アズレードの持つ強大な力に目をつけ、ある者はこの国を滅ぼそうと、またある者は世界を手中に収めようと、自らの私欲の為に膨大な時間を費やして研究を重ねたのです。その殆どは自らの研究の成果を試す猶予もなく、老衰や病に倒れていきました。しかし、彼らの手によって知を記された貴重な書物は、現代にまで残り続けた」


 フーレンスは部屋の端まで歩いていくと、装置の陰から古い書物を一冊手に取り、ワタシに示してみせた。


「彼らの知識を吸収していくうち、私はある書物に記載されていた禁術に到達しました。異世界から大精霊の器と成り得る人間を、現世から精霊アズレードを、お互いの世界と世界の間に存在する空間へ呼び寄せ、器に精霊の力を封じ込め、現世へと召喚する。要約すると、こういった内容です。理論だけで実践されていない、穴だらけの術式でしたが、私は持てる知識の全てを駆使してこれを完成させました。そして」


「ルトレーにワタシを呼び出させ、自分は失敗のリスクを負わないように、遠くで実験が成功するかどうか観察してたってわけね」


「実験に直接立ち会わなかったのは、余計な嫌疑が掛からないよう、なるべく目立たないように事を運びたかったというのが主な理由でした。貴女の言う魂胆が私の中に全くなかった、とまでは否定出来ませんが」


「まぁ、その話はもういいわよ」


 どうして召喚されたのか、この世界で巻き込まれた事件の裏どんな意図が隠されていたのか。大体の事は理解出来た。これ以上、過去の出来事を蒸し返していてもしょうがない。


 それよりも、だ。


 彼の計画の、最も根幹たる部分を、ワタシは知りたかった。


「……ねえ、フーレンス」


「はい、何でしょうか?」


 掲げていた本を戻し、再び部屋の中心に佇んでいた彼は、ワタシの呼びかけに柔和な態度で応じた。普段と変わらない、落ち着いて人の良さを感じさせる佇まい。そんな彼が、ずっとワタシを執拗に狙ってきていた組織の親玉。信じたい気持ちが、未だに心の奥底でくすぶっていた。その微かな感情が、一瞬だが、問いかけを戸惑わせる。しかし、ワタシは意を決して口を開いた。


「貴方は精霊アズレードの封じ込められているワタシを使って、一体何をしようとしてるの?」


「……分かりました、お教えしましょう」


 一呼吸の間を置いた後、フーレンスは小さく息を吐いて、至極穏やかな口調で告げた。




「大精霊アズレード……その膨大な炎の魔力を用い、王都に壊滅的な被害をもたらす。これが私の成そうとしている事です」




 背筋を、悪寒が走り抜けた。


「何ですって……?」


「これを見て下さい」


 と、彼は自分の後ろにあった謎の装置群を手で指し示した。


「ここは建物のちょうど動力部に当たる部分でしてね。いえ、建物という表現は些か異なりますか……正確に言うと、この場所は『魔力砲』の中枢ですから」


「魔力砲?」


「古代に起きた大戦で使われていた、兵器の一種ですよ。今では製造技術が失われ、僅かに残った遺物のみが現存するのみです。この魔力砲は、私がとある闇商人から購入した代物です」


 魔力砲とは文字通り、魔力を高濃度で圧縮して打ち出す兵器なのだと、フーレンスは説明した。


「精霊の強大な力をこれによって撃ち出せば、都を覆う外壁を貫くなど、たやすい事でしょう」


「けど、どうやってアズレードの力を使うわけ? ワタシの体に封じられてるんでしょ?」


「頭上をご覧になって下さい」


 彼の指示に従うと、ちょうどワタシの真上に別の装置が存在する事に気がつく。それはケーブルのようなものを介し、眼前の巨大な装置群と繋がっていた。




「あれを用い、貴女の身体からアズレードの魔力を吸収します。つまり、貴女にはこの砲を使う動力源になってもらう、というわけです」

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