雪のギャンブラー
「ここだよ、ここ」
タクシーの中で優稀菜がある豪邸を指差す。
タクシーの運転手も、まるで分かっていたかのようにタクシーをその豪邸の前に停車させる。
「はいよ、ここだね。じゃあがんばってきなさい。わしはここで待っているから」
「ありがとう」
初老の運転手は俺たちをタクシーから降ろし、自分もタクシーから出て煙草をやっていた。どうやら、俺たちが戻るまで待っててくれるようだ。
俺たちが降りた豪邸の表札には「馬場」の文字。……ここって……。
「優稀菜、この屋敷は馬場建設の」
「うん、そう。ここはその社長……馬場哲也さんのお屋敷なの」
最近ニュースで話題になっている、三十年の歴史を持つ有名な建設グループだが、最近赤字が続いていて、いつ倒産してもおかしくないらしい。
なんでも、ライバルの建設グループに金を騙し取られたらしいが、それは定かではない。
「今日の依頼はその馬場さんからなの。さ、行こう俊ちゃん」
「おう」
俺たちはその豪邸の庭に足を踏み入れた。
❁ ❁ ❁
「どうぞ、お待ちしておりました」
俺たちはインターホンを押し豪邸の中に入ると、中年の男性が俺たちを迎えてくれる。
「はじめまして、私は馬場哲也と申します」
「こちらこそはじめまして、ユキです。この度はお招きくださりありがとうございます。こちらは私の相方です。挨拶してね」
「どうぞ、よろしく」
いつもと違う口調の優稀菜。名前も今は「ユキ」だ。
「いえいえ、こちらこそ。それにしても、あの有名な『なんでも屋』のユキさんがまさかこんな若くて可愛らしい娘だったとは……」
依頼主の馬場さんは少し驚いたように言う。
「どうも。それで、依頼料の方は?」
手短に挨拶を済ませた優稀菜は馬場さんにそう訊く。
「当然、勝負に勝ってからですよ」
「なるほど、わかりました。それでは少々値段が高くなりますが……よろしいですか?」
「ふん。一千万程度ならだそうぞ。ただし! そちらが負けた時は三千万をいただこう」
い、一千万!? そして負けたらこっちの金を払う!? あ、頭狂ってんじゃないか!? この依頼主!
「わかりました、ではそれで」
優稀菜はあっさりとそれを認める! お、おい!
「ゆ、ゆき――」
「『ユキ』、だよ?」
優稀菜は俺にそう断りを入れる。も、もう「ユキ」になってしまっている……。
「ユキ、いいのか? そんなんで」
「心配はいらないよ。だいたいこれが私のモットー。報酬は高い代わりに、負けた時は私が払う……それくらい狂っていないと、ギャンブルはできないよ」
優稀菜は俺に説明。……まじかよ。アグレッシブすぎるぜ……。でも少し、違和感を感じた。……トランクケースの中身の三千万円の半分は俺の掛け金って言っていた気がするんだが……。
「なんでも、ユキさん。あなたは一回も負けたことがないようですがね」
「ええ、まぁ」
「はっはっは! じゃあ任せられますな!」
優稀菜の普段の笑顔の裏側の一部が見えた気がした。……優稀菜、おまえこえーよ。
「こっちにきたまえ。用意はできているし、対戦相手も控えているよ」
馬場さんに導かれ、俺たちはある一室に連れ込まれる。
そこには。
「やっときたかい」
ガラが悪い男とその相方が麻雀卓に座っていた。
「あの男が私から金を騙し取った福田建設の福田正弘だ」
小声で俺たちにそう教えてくれる馬場さん。
「ふん。ほらそこの若いの。早くこっちに来いよ。勝負しようぜ」
福田が挑発的に手招きする。
「では、始めましょうか」
優稀菜は冷静に麻雀卓に着く。俺も一緒に卓に着いた。
To be continued




