雪のエスケープ
「小遣い稼ぎ?」
「そう、小遣い稼ぎ」
提案に首を傾げる俺。なにを言っているんだ、優稀菜は。
「ふふ。よくわからない感じの顔しているね。じゃあ、説明するね」
大して朗らかに笑う優稀菜。な、なにがおかしいんだ。
「優稀と一緒にさ、賭け麻雀をしに行こう」
「…………」
……は?
「なんで俺がそんなとこに行かないといけないんだ? そもそも賭け麻雀をする理由もないだろう?」
SICの給料もあるし、そんな危険なことする必要はない。……のだが。
「いやね……『なんでも屋』のお仕事なんだ」
「!『なんでも屋』だって? 引退したんじゃなかったのか?」
「賭け事以外はね。たまーに、優稀が家にいない時があるでしょ? この夏休みの間で四回ぐらい」
「あ、ああ」
確かにいないときはあったな。本当に時々だけど。
「優稀はね、賭け事の依頼は受けることにしたんだ」
「そりゃまたなんで?」
「……おばあちゃんのためなの。最近おじいちゃんが入院していてね。おばあちゃんにはもう、優稀と同じ立場だったときのお金がとっくに尽きちゃってて、お金が払えないの。SICの給料は自分の今と将来のことでいっぱいいっぱいだから『なんでも屋』の方で賄わないといけないの」
優稀菜は俺にそう事情を教えてくれる。
優稀菜のおばあちゃん……か。優稀菜から聞いたな。昔活躍していた、有名なエージェントだっけ。優稀菜に裏社会を教えた張本人。そして……優稀菜の師匠。
なるほど、それなら優稀菜が「なんでも屋」を続けているのも頷ける。
「……そっか。でもなんで俺なんだ?」
「俊ちゃんには『目』があるの」
「……ああー」
そういうことか。優稀菜は俺の「目」を買ってくれたんだな。響も言っていたけど、俺の目は他人の動きを見抜くことが得意らしい。自分でも無意識なんだけど……。
「その『目』はギャンブルにはとっても重要なの。優稀は慣れているから大体わかるけど、鏡ちゃんやジュンちゃんたちよりも俊ちゃんのほうが頼りになるの」
「わかったよ。俺なんかでいいんだったら着いていくよ」
優稀菜のおばあさんのためだもんな。
「それと優稀、俊ちゃんと一緒が――」
「あれ? 優稀菜? 俊輝? どうしたの?」
「おお、鏡花か」
優稀菜がなにかを言おうとしているときに鏡花が通りかかった。優稀菜はなぜか、ほっぺをぷくーっと機嫌悪そうに膨らませていた。可愛い。
「どうしたの。こんな廊下で」
「いや、あのな――」
「――さっ、俊ちゃん、いこいこっ」
鏡花に事情を話そうとしていたのだが、優稀菜は俺の手を引いて走り出した!
「えっ!? ちょっ!? ゆ、優稀菜! どこに行くの!?」
鏡花は叫んで、こちらに向かって走ってきた! くそっ! あいつあんなに速かったか!? 会ったときとは見違えるほど速いぞ! なんだか優稀菜は鏡花を連れて行かしたくなさそうだし……こうなったら。
「優稀菜! すまん!」
「え?」
俺の手を引いて走っている優稀菜の手を引いて足払い。バランスを崩した優稀菜をひょいっと持ち上げ、俺は自分の足を使って走り出した。ようするに優稀菜をお姫様だっこして走っているのだ。
「ええ!? 俊輝なにしてるの!? 優稀菜をお姫様だっこなんてしちゃって! 羨ましい!」
鏡花がぎゃあぎゃあ騒いでいるがお構い無しだ!
なんだかんだで、俺は玄関のところまで来た。……やっぱり鏡花は俺よりは遅いらしく、追い付いて来ていない。今だ。
「優稀菜! 外に出ればいいのか!?」
「う、うん! 外に迎えの車が止まっているし、玄関のトランクケースと一緒にそれに乗るの!」
「よし! 降ろすから、靴履いて外に出ろ! 俺がトランクケースを持つ!」
「ありがとっ!」
俺は優稀菜を降ろして靴を履き、優稀菜が言っていたトランクケースを手に取った!
「俊輝ぃぃぃい! 優稀菜ぁぁぁぁぁあ!」
「わわっ! 鏡花ちゃん、どうしたのん?」
鏡花が近付いてる! 綺羅先輩まで気付いたようだ!
「さっ、早く行こう!」
「うん!」
俺と優稀菜は家の前に止まっていたタクシーに乗り、自宅から逃走した。
To be continued




