8話
アクセスいただき、ありがとうございます。
説明回です。
ギリギリに書き上がったので、推敲が甘いところがあるかもしれません。
完結後に直しますので、ご指摘お願いいたします。
「では、あの時、リリーが祈ったら水晶が光ったのはなぜかしら。そして、なぜ……なぜ、わたくしは光らなかったのかしら」
エウフェミアは動揺して説明を求めた。
侍女姿の精霊は、静かに口を開いた。
「リリー様は、火に好かれているのです。彼女の瞳の色を思い出してください」
エウフェミアは脳裏に、リリーの燃えるような瞳を思い浮かべた。
「確かに……リリーの瞳は赤かったわね。母方の血だと思っていたのだけれど」
「そういえば、あの子のお母様は、鍛冶を得意とする放浪の一族の出身だったわ。有力者の娘だと聞いたことがあるわね」
エウフェミアは思案しながら言った。
「実際にお会いしたことはないけれど……」
精霊は、頷きながら言った。
「あの一族からは、火に愛される者が、時々生まれてくるのです」
エウフェミアは怪訝そうに尋ねた。
「火に愛される者?それは何かしら?」
「火の精霊に好かれる者のことです」
精霊は静かに続けた。
「リリー様の近くで、温かさを感じたことはありませんか?」
確かに、とエウフェミアは考えた。
リリーの近くは、冬でもぽかぽかとした熱気を感じる、そんな気がした。
「火は人に活力を与えます。温もりは傷ついた身体を癒やし、人々の心を和らげることもあるのです」
「だから皆、無意識にリリー様へ惹かれていったのでしょう」
精霊は考察する。
「ですが、あの時は、長く聖女がいなかった。そうですね?」
エウフェミアは頷いた。
「ええ、確かに。私たちのお祖母様の時代以降、ルミナリエ家に女性が産まれなかったから、しばらく聖女の座は空位だったわ」
「そうでしょう」
精霊は首肯した。
「その影響で、水の力は少し衰えていたのです。弱った私たちは、火に愛されたリリー様の力に耐えきれませんでした。そして、水晶へ逃げ込んでしまったのです」
「……逃げ込んだ?」
エウフェミアは眉をひそめた。
精霊は小さく頷く。
「はい。水の力が弱まっていたあの場では、火に愛されていたリリー様の存在は、私たち水の精霊にとって強すぎたのです」
精霊は淡々と続けた。
「本来であれば、祈りに応じて私たちは王都中から水晶の中へ集まります。そこで光を屈折させ、人間の言う聖女の証として輝きを放ちます」
エウフェミアは小さく息を呑んだ。
「ですが、あの時は違いました」
精霊の声がわずかに沈む。
「弱っていた私たちは、熱を発したリリー様と同じ空間にいることが出来なかったのです」
「そして、水晶の中に?」
エウフェミアの問いに、精霊は首肯した。
「ええ、水晶は周りの熱に左右されませんので、逃げ込む先として最適だったのです」
静かな間が落ちる。
エウフェミアは視線を落とした。
「……では、わたくしの時は……?」
精霊は少しだけ言いづらそうに続けた。
「エウフェミア様の場合は、その逆です」
「逆……?」
エウフェミアは疑問を口にした。
「あなたは、私たち、水の精霊にとって居心地が良すぎたのです」
その言葉に、エウフェミアは目を見開いた。
「居心地が……良すぎた?」
「はい。あまりに強く水に愛されていたため、私たちは水晶へ向かうより先に、あなたの周囲へ集まってしまいました」
精霊は静かに核心を告げる。
「結果として、水晶は空のままになったのです」
エウフェミアは喉を小さく鳴らした。
「つまり、水晶が光らなかったのは失敗では無く」
「ええ」
精霊ははっきりと頷いた。
「水が、あなたを選びすぎたのです」
しばらくの沈黙の後、エウフェミアは口を開いた。
「皮肉なものね」
エウフェミアは小さく息を吐いた。
「干ばつを鎮める聖女になるはずの存在が、実際にはその真逆だったなんて」
精霊はわずかに視線を伏せた。
「しかし、あなたが王都にいた間は、まだ良かったのです」
エウフェミアは眉をひそめる。
「どういう意味かしら?」
精霊は静かに言葉を選んだ。
「聖女の祈りは、本来であれば水晶を介して増幅され、水の精霊へ届きます」
「ですが、エウフェミア様、あなたは違った」
エウフェミアの記憶がよみがえる。
――毎晩、夜寝る前の寝室で静かに心の中で祈っていた自分。
その側には、いつも小さな水の気配があった。
精霊は続ける。
「あなたの祈りは、増幅を必要としませんでした」
「直接、私たち、水の精霊へ届いていたのです」
エウフェミアは息を呑む。
「では……水晶は?」
精霊は静かに結論を落とした。
「光る必要すら無かったのです」
一拍の、沈黙が落ちる。
その後で、精霊は言葉を続けた。
「そして、エウフェミア様が王都から去った今、水は支えを失いました。リリー様の力により、水は王都に留まることが出来なくなったのです」
「結果として、水は外へ流れ出し、戻らなくなりました」
エウフェミアは小さく息を吐く。
精霊は静かに言葉を紡いだ。
「干ばつは『水が消えた現象』ではありません。『水が王都に居られなくなった結果』です」
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