9話
アクセスいただき、ありがとうございます。
ライオネル回です。
明日は遅くなると思いますが、日付が変わる前に投稿をする予定です。
王都の水不足は、王城にまで広がっていた。
王城内でも水の配給制限が行われ、高位の侍女でさえ使用を控える有様だった。
かつて、庭園に涼しげな印象を与えていた噴水の水も洗濯に回され、豪奢に様々な色の薔薇が咲き誇っていた庭園は枯れ果てて茶色一色になり、どこか荒廃した雰囲気を漂わせている。
加えて、気温の上昇に伴い、貴重な水までも傷み始めた。
たらいに入れた水には、一瞬で虫が湧き、飲用としては到底適さない。
清浄な象徴であったはずの水は、今やもう病を運ぶ存在へと成り果てていた。
*****
今や金よりも貴重な存在になった水で薄めたエールを片手に、ライオネルは頭を抱えていた。
「本日の王都の死者数は、47名です。報告に上がっていないスラムの死者数も合わせるともっと上がるかと」
「……昨日は36名だったはずだ」
ぬるいエールを飲み干しても、重苦しい頭痛と吐き気は治まらない。
ライオネルは、日に日に増え続ける死者の報告書へ視線を落とした。
「……なぜこうなったのだ……」
書類の山の一番上には、干上がった農地からの嘆願書が置かれている。
それを一瞥し、側仕えが言った。
「聖女様に、再度祈りを――」
「……もう試した。結果は見ての通りだ。それにお前も期待していなかったじゃないか」
ライオネルはため息をついた。
――以前は、王城の庭園は枯れることなど無かった。
「エウフェミアは、まだ見つからないのか」
ライオネルは問いかけた。
「はい、どんな些細な情報でも良いから、と通達しているのですが、ハズレしか……」
「ただ、一件だけ妙な報告が」
「……なんだ?」
側仕えは報告書をペラリとめくった。
「えー、港町で、最近になって魚が異様に獲れる、とあります」
「港町、か……」
ライオネルは繰り返した。
「そこからは水不足の報告は上がっていないのか?」
「ええ、特には。海が近いので、他と比べて水も豊富にあるのでしょう」
「他の地域からの人口流入も目立っています」
ライオネルは眉間にしわを寄せた。
「……その港町について、もっと詳しく調べろ」
「少し気分転換に散歩してくる」
そう言い残し、ライオネルは執務室を出た。
*****
向かった先は、エウフェミアと良く茶を飲んでいたガゼボだった。
しかし、そこには以前の華やかさは無い。
庭園を彩っていた薔薇は枯れ、蔦植物は乾ききり、噴水は止まったままだ。
乾いた風だけが、人気のない東屋を吹き抜けていく。
エウフェミアは、よくここで雨音を聞きながら本を読んでいた。
「今日は雨ですね」
そう静かに微笑んでいた横顔を、ふと思い出す。
以前は、ここへ来れば必ずどこかで水音がしていた。
噴水、雨だれ、小さな川のせせらぎ。
だが今は違う。
耳に届くのは、乾いた風の音だけだった。
(――私は、1度でも彼女を大切に扱ったことはあるだろうか。)
エウフェミアはここで紅茶を飲みながら、静かに本を読んでいた。
だが、ライオネルは、いつも数口飲んだだけで席を立っていた。
彼女をひとり残したまま。
そんなライオネルを、エウフェミアはいつも穏やかに見送っていた。
――一度も、引き留めることなく。
そのことが、今になって妙に胸に引っかかった。
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