5話
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ストックが切れてしまったので、そろそろ毎日更新が危ないかもです......
手直しをしているとどんどん話が膨らんでしまって......
できる限り頑張ります。
パン屋からの帰り道、エウフェミアは足取り重く海沿いの道を歩いていた。
(ライオネル様がわたくしを探している―王国の端のこの町では、水が枯渇する様子も無かったから、リリーは上手にやっていると思っていたわ)
沈んだ顔で思案していると、聞き慣れた声を耳にした。
「ずいぶんと暗い顔をしているじゃないか」
エウフェミアは視線をあげた。
「オーシャン……」
そこには、オーシャンが優しく微笑んで立っていた。
「風の精霊に話を聞いたのか?」
「大丈夫だ。エウフェミアは私が守る。この町にいる限り、王太子なんぞはお前に指一本たりとも手出しは出来ない」
「エウフェミアは気にせず、今まで通りに過ごせば良い」
オーシャンは安心させるようにエウフェミアを優しく包み込んだ。
だが、エウフェミアの表情は沈んだままだった。
「私は大丈夫よ、オーシャン」
そう彼女はオーシャンの耳元に囁いた。
「――リリーは聖女のはずなのに、なぜ水不足が起こっているのかしら?あの子が祈れば雨は降るはずでしょう?」
オーシャンから離れ、エウフェミアは問いかけた。
オーシャンは、少し考えてエウフェミアに伝えた。
「その話はここ、人間の領域では出来ない。禁則事項だからだ。だが、ここじゃない場所なら話せるぞ」
そこまで言うと、オーシャンはエウフェミアに笑いかけながら手を差し伸べた。
「さあ、お嬢様、海のお散歩をしましょう」
エウフェミアは、風に波打って太陽の光を反射している海を見ながら頷いた。
「ええ、でもパンを置いてきてからで良いかしら?」
「では、30分後にこの場所に来い」
オーシャンはそう言うと、静かに光に溶けていった。
「待っているぞ」
*****
海中は、夢で見たときの数百倍色鮮やかだった。
澄んだ青色の世界に海面からは光の筋が舞い降りてきて、珊瑚礁の並木をより色鮮やかに見せていた。
時折、その並木から小さな魚がひょこりと顔を出し、エウフェミアたちにちょっかいをかけるように髪の先や首筋をくすぐった。
そのたびに、エウフェミアはくすぐったそうに微笑みを浮かべるのだった。
そんなエウフェミアをオーシャンは微笑ましいものを見るように眺めていた。
「綺麗ね」
ひとしきり小魚と遊ぶと、エウフェミアは周りを見渡しながら呟いた。
「夢で見たときの数百倍美しいわ」
オーシャンは笑って言った。
「あのときは私が作った小さな空間だったからな。あそこの魚も、本物ではなく、私が作った幻だ。だからこの海には、私の空間の中にはいなかった者たちもいるんだ」
「ほら、ちょうど来たようだ」
そう言った瞬間だった。
珊瑚礁の隙間から、小さな光がいくつかふわりと浮き上がってきた。
「……!」
それは、透き通るような薄青色の小魚たちだった。
しかし、よく見るとその輝きは1匹ごとに少しずつ異なっていた。
朝焼けを溶かしたような淡く赤みを帯びたもの。
夜の静寂のような紫をにじませたもの。
浅瀬の海のように青緑へ揺らめくもの。
彼らが尾を揺らすたびに淡い光の粒が海中に静かに散っていく。
1匹、また1匹と小魚は増えていき、気付けばエウフェミアたちの周囲を光の渦が柔らかく包み込んでいた。
「まぁ……」
エウフェミアは思わず吐息を漏らした。
光る魚たちは、まるで彼女を歓迎するかのようにゆったりと周囲を泳いでいる。
すると、その中の1匹が、そっとエウフェミアの手へ頬を寄せた。
『おかえり』
それを皮切りに、数匹の小魚がエウフェミアの体を撫でていく。
『あいたかった』
『はなしは、きいてた』
『はじめまして』
幼い声が響いた。
「あなたたち……水の精霊なのね?」
エウフェミアが目を瞬かせると、小魚たちは嬉しそうに尾びれを揺らした。
そうして、ぷくぷくと青白く光る泡をエウフェミアの周りに浮かばせた。
『そう』
『ちいさいみずのこ!』
『うまれたて』
『みずはなれると、くるしい』
『うえいけるの、おおきいこだけ!』
『だから、ここであえて、うれしい』
「じゃあ、私の髪を編んでくれていた子たちは……」
『おおきいこ!』
『やさしい』
『みんな、えうふぇみあ、だいすき』
小魚たちは嬉しそうに尾びれを揺らし、きらきらと青い光を零した。
「……そうだったのね。あなたたちのおかげで、王都でも過ごしていけていたわ」
精霊たちとのやりとりを、オーシャンは微笑ましく見ていた。
「ほら、そろそろ行くぞ」
オーシャンがそう告げると、周囲を漂っていた小魚たちが一斉に道を開くように左右へ散っていく。
『またね』
『すぐあえるように、がんばる』
『れんしゅうする』
口々にそう告げながら、小魚たちは淡い光の粒となって海の青へ溶けていった。
エウフェミアは、小魚たちの残していった光の粒をなぞるように指を動かした。
「可愛い子たちね」
「あのくらいの精霊たちが一番可愛い。すこし成長すると厄介だ」
オーシャンは困ったようにどこか遠い目をして笑った。
そうして再び歩き出した先――珊瑚礁の向こう側にぼんやりと巨大な影が浮かび上がってきた。
*****
「さあ、我が家へようこそ」
オーシャンはどことなく誇らしげな顔で言った。
「……綺麗」
エウフェミアは思わず立ち止まった。
そこは巨大な海中宮殿だった。
柔らかな光を宿した真珠と貝殻が敷き詰められた外壁。
透き通る青い鉱石で彩られた柱。
海流に揺れる薄布のような光の膜に包まれたその宮殿は、白く淡く発光しているようだった。
「少し整えたんだ」
オーシャンは照れたようにエウフェミアに向かって言った。
「お嬢様、お手をこちらに」
オーシャンはそう言って手を差し伸べた。
エウフェミアがその手を取った瞬間、宮殿を包んでいた薄い光の膜がゆらりと揺れた。
次の瞬間――光の膜は2人を拒むことなく静かに左右へ開いていく。
まるで宮殿そのものが、エウフェミアを迎え入れているようだった。
「まぁ……」
エウフェミアは目を輝かせた。
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