4話
アクセスありがとうございます。
4話目です。
明日も同じくらいの時間帯に掲載します。
その日は風が強い日だった。
エウフェミアはいつも通り、食堂で給仕の手伝いをしていた。
「ねーちゃん、今日のおすすめはなんだい?」
現在寄港している貿易船の船員だろうか、ここら辺では見ない格好をした2人組の男が尋ねた。やたら大きい男と対照的に小さい男の2人組で、彼らはよく目立った。
「今日のおすすめは、魚の西京焼きです。朝獲れたての魚で、新鮮でとてもおいしいですよ~!なにより、店長の腕が良いんです」
「それに、ここら辺ではあまり見ない、味噌という食材を使っています」
エウフェミアはにこやかに勧めた。
「へぇ、味噌か!確か昔、立ち寄った国で食べたが、美味かったな。だが、西京焼きとは聞いたことない料理だ。俺はそれにするよ。お前はどうする?」
「俺もそいつで」
大男が注文した。
「じゃあそれ、魚の西京焼き2つで」
「ありがとうございます!店長、西京焼き2つ」
「はいよ~、ちょっと待っててな!ミアちゃん、お客様にお水を出してやりな」
待ち時間、彼らは世間話を始めた。
「しっかし、今日はやけに風が強い日だな」
「ああ、そうだな。まあ幸運なことに北向きだから、俺らの次の目的地には早く到着しそうだぜ」
「そういえば聞いたか、何だっけ、この国の王太子サマ」
王太子。その言葉を聞いて、エウフェミアの耳がぴくりと動いた。
(―ライオネル様がどうかしたのかしら?)
そう内心で思っていたのをなぞるかのように、小さい方の男が問いかけた。
「あ~、ライオン様だっけ?そいつがどうかしたのか?」
「ちげーよ、ライオネル様な。なんか、婚約破棄をしたらしいぜ」
「婚約破棄ね、まあ良くある話だ」
「そう、それだけなら良くある話なんだがな、なんと王太子サマは振った令嬢とヨリを戻したいらしい」
男のうちの大きい方がニヤニヤと嘯いた。
「なんでもいま、そのご令嬢を見つけると謝礼が出るんだそうな」
「謝礼か。王太子サマの謝礼なら、大層なもんだろうな。念のため聞いておくが、そのご令嬢はどんな―」
小男が聞きかけた瞬間、店主が大声をあげた。
「ミアちゃん、魚が焼けたから、お客様のところに持っていってくれ」
厨房で魚を手渡されたエウフェミアは急いで彼らの元に魚を運んだ。
「お待たせしました。魚の西京焼きです。こちらのご飯と一緒に食べてください」
ふっくらと焼かれた魚は湯気がたっており、見るからに肉厚で美味しそうだった。
2人組の男たちはゴクリと喉を鳴らし、味噌の良い香りが鼻腔を満たした。
「話は後だ。今はこの魚を食べよう」
「ああ、そうだな。こいつを冷ますのはもったいない」
そこまで耳にしたエウフェミアは、店主に耳打ちをした。
「パンの在庫が少ないので、パンを買い足してきます」
店主はパンの在庫棚をチラリと見てエウフェミアに言った。
「ああ、そうだね。今日は客が多かったから、このペースだと夕方の分まで売り切れてしまうだろう。助かるよ」
「今日はこれで午前の部は店じまいするから、急がなくて良いよ」
(―ふぅーん、王太子の元婚約者ねぇ……)
近くで食事をしつつ、耳をそばだてていた狸人族の商人は思案する。
(銀髪に水色の瞳って噂あった気するわ……そういえば、ここのミアちゃんもそうやったな……)
ここまで考え、ニヤリと笑みを浮かべた。
「王都か……次の行き先としては悪ないな」
商人は口の中で呟き、店主を呼んだ。
「店主、おあいそ!」
店主がテーブルまでやってくる。
「はいよ!魚の味噌煮、銅貨5枚。いつもありがとね。」
「この町に来たときは、この店には絶対に来るって決めてるんや。なんてったって飯がうまい」
「しかも、最近は米を取り扱ってるやろ?ここいらじゃあ米なんてほとんど食べられへんからな。実は俺の故郷の味なんや」
商人は財布を探りながら、にこやかに店主と話した。
「そういえば、ミアちゃん?最近働いとる可愛い子」
「そうさね。なんだい、狙ってるのかい?とんでもなくイケメンな彼氏がいるから、お前さんには無理だろうねぇ」
そこまで言うと、店主は愛嬌がある商人の顔を見た。
「愛嬌がある顔は良いと思うが、あの彼氏にはさすがに負けるよ」
店主は笑いながら言った。
「あの子、王都で大変な目に遭ったみたいで、こっちに逃げてきたのよ。なんでも、クズな男に引っかかって家にも居られなくなったとかで……」
「でも、最近出来た彼氏は性格まで良さそうで安心してるよ。なんてったって、あんたが好きな米、その彼氏が持ってきてるんだよ」
「そうかい、そうかい、俺はあの子を狙ってるわけじゃないから安心せぇ。あの子も大変やったんやな」
「ところで、その彼氏とやらは米を持ってるのかい?醤油はあらへん?」
商人は尋ねた。
「俺は醤油も好きなんや。魚を生で食べるときに、ものごっつう合うねん。ここの魚はうまいからな。醤油があれば、一度刺身で食ってみたいと思ってたんや」
店主は少し考えて答えた。
「醤油は知らないね。その彼氏に次に会ったときに、聞いてみるよ」
店主は楽しげに答えた。
「ごちそうさん、良い情報もありがとうな。釣りはええで」
商人は銀貨を店主に手渡した。
「さすがに多いさね」
店主はおつりを返そうとした。
「今日の味噌煮うまかったから、次来るときまでそいつはとっといてくれや」
商人は笑いながら返事をした。
「じゃあ次までに、醤油がなくても刺身とやらを出せるように研究しておくよ」
店主は思案しながら答えた。
「そいつは楽しみやな」
商人は足取り軽く、店を後にした。
「次の客は良い取引ができると良いんやけど」
そう呟き、王都に進路を定めた。
(王太子の謝礼か……ちぃとばかり期待してもええかもな)
潮の匂いを含んだ、湿った風が商人の後ろを駆け抜けた。
*****
エウフェミアは軽く支度をし、店の裏道へ向かった。
「風の精霊、いる?聞きたいことがあるの」
ふわふわと淡い緑色の光がエウフェミアの頬をそっと撫でた。
『いるよ』
『ここに』
『ききたいのは』
『らいおねるのこと?』
風の精霊たちは、水の精霊たちよりも微かな声で問いかけた。
「ライオネル―彼はわたくしを探しているの?」
風の精霊は、エウフェミアの髪や頬、額をくすぐるように通り過ぎて言った。
『さがしてる』
『りりー、だめ』
『いのり、つうじない』
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