3話
アクセスいただき、ありがとうございます。
3話目です。
明日も同じくらいの時間帯(20時から21時頃)に4話目を投稿しますので、よろしくお願いいたします。
当初は10話ほどの予定でしたが、もう少し長くなるかもしれないです。
店じまいを終えると、エウフェミアは夜の海へと向かった。
精霊たちはどこか浮き足立った様子で、彼女の周囲を飛び回っている。
『えうふぇみあ、こうしたほうがかわいい』
小さな手が銀色の髪へと触れる。
精霊たちは器用に髪を編み込み、彼女の目の色よりも濃い、海のような青色の小さな花をそっと飾った。
『これもつける』
どこからか拾ってきた、光沢のある貝殻が耳元に添えられる。
『うん、かわいい』
『きっと、よろこぶ』
精霊たちは満足げに笑うと、海へ泡になって消えていった。
「よく飾られたな。」
突然声をかけられ、エウフェミアはゆっくりと振り返った。
月明かりをうつした海を背に、ひとりの青年が静かに立っていた。
白い髪と海を思わせる深く青い瞳。
その健康的な褐色の肌を月光が静かに照らしていた。
「この花は私の目の色か?精霊たちもずいぶん気を利かせる」
青年はどこか楽しげに目を細めた。
「あなたは……オーシャン?」
エウフェミアは信じられないものを見るように目を瞬かせた。
「ああ、そうだ。」
青年は穏やかに頷いた。
「一か月ぶりか、エウフェミア。久しぶりだな。それともこちら側で会うのは初めてだから、初めましてと言った方がいいか?」
「え……?」
エウフェミアは困惑したように眉を寄せた。
「あなたは夢の中でだけ会える存在だと思っていたわ……。わたくしが作り出した、空想の人なのだと」
「ずいぶん酷いことを言う」
オーシャンは少し切なそうに笑った。
「私はずっとお前に会いに夢を訪れていたのだが」
「では……あの時間は本当に……?」
「もちろんだ」
オーシャンは迷いなく頷いた。
「お前が泣けば、私は毎回神界から飛んできていた。」
彼は当然のように言った。
確かに思い返してみると、彼が夢に現れる夜は、決まって心が傷ついていた日だった。
「もっともここひと月は楽しそうであったから、夢に訪れる必要もないかと思っていたのだが」
そう言って、彼は穏やかに目を細めた。
「あの日からずっと、お前に直接会いたいと考えていた」
潮風が白い髪を揺らした。
「今日の昼頃、ようやくその手続きが完了した。だから、迎えに来た」
「私と一緒に神界に来ないか?」
エウフェミアは答えに迷うように目を伏せた。
「少し考えても良いかしら?」
「……それは、期待しても良いということか?」
オーシャンは微笑んだ。
「いくらでも考えれば良い。私も、お前も―気が遠くなるほど長い時を生きるのだから」
岩陰に隠れた精霊たちが、鈴の音のような笑い声を漏らした。
『おーしゃんさまとえうふぇみあ、おにあい』
『ずっといっしょ』
『しあわせ』
「お前たち、聞いていたのか」
オーシャンが呆れたように息をつくと、精霊たちは楽しげに海へ逃げていった。
『あいのこくはく!』
『こいびと!』
『えうふぇみあもうれしそうだよ』
「恋人……」
その響きを確かめるように呟いたエウフェミアの頬は、わずかに熱を持っていた。
「精霊たちは思ったことをすぐ口にするからな」
そう言いながらも、オーシャンは否定をしなかった。
月明かりの下で、海を湛えたように深く青い瞳が静かに細められる。
「今日は遅い。宿まで送ろう」
オーシャンは優しく伝え、エウフェミアの手を取った。
その手は驚くほど自然で、拒む理由も見つからないまま、彼女は小さく頷いた。
宿までの道は、静かだったが、波の音が遠くで寄せては返し、不思議と心が落ち着いていくようだった。
隣を歩く彼の存在が、暗闇の静寂を和らげている。
「……この町は、温かいな」
オーシャンがぽつりと呟く。
「ええ、優しくて良い人ばかりよ」
エウフェミアはわずかに微笑み、小声で返事をした。
宿の前につくと、彼はふと立ち止まった。
「これをお前に」
そう言って差し出されたのは、彼の目の色と同じ、深く青い宝石をあしらった耳飾りだった。
光を受けるたびに、海の底のような揺らぎを見せる。
「何か困りごとがあったら、これに祈りなさい。すぐに分かるようにしてある」
そう言った彼の声は、先ほどよりずっと近くに感じられた。
エウフェミアは彼の体温が残り、ほんのりと温かい耳飾りを見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……ありがとう、オーシャン。大切にするわ」
囁くように感謝を伝えたエウフェミアは、耳飾りにそっと指で触れ、耳たぶに飾った。
「……よく似合うな」
オーシャンは満足げに微笑んだ。
「また近いうちに来る」
その言葉を最後に、彼の姿は微かな海の匂いを残して夜の闇に溶けるように薄れていった。
残された静寂の中、耳元の耳飾りだけが小さく揺れた。
それは確かに、今の時間が夢ではなかったと告げているようだった。
*****
エウフェミアがオーシャンと出会ってから、ひと月が経った。
港町の人は変わらず優しく、穏やかな日々が続いていた。
時折、オーシャン自身も食堂に顔を覗かせた。
そのたびに、エウフェミアの心配をし、遠く離れた場所の果物や珍しい特産品、美しい装飾品を持ってくるのであった。
果物や特産品は、食堂の特別メニューになり、食堂はますます栄えていった。
「またこんなにたくさん……」
エウフェミアが困ったように呟くと、オーシャンはふっと笑って言った。
「お前に似合うと思ってな。それに、この味噌と米というのは、お前の母親のお気に入りの食材だった」
「お母様の?オーシャンはお母様をご存じなの?」
驚いて尋ねたエウフェミアに、オーシャンは笑って答えた。
「ああ、良く知っている。愉快な方だよ、お前の母は」
「お母様が愉快?」
エウフェミアは怪訝な顔をした。幼いころに亡くなり、あまり母の記憶はないものの、穏やかな人だという印象があった。
オーシャンは話しすぎたという顔をした。
「――まあ、お前の母の話は追々な。ところで、その腕輪、よく似合ってるぞ」
そう自然と褒めるオーシャンに戸惑いながらも、エウフェミアは少しずつ胸の奥がくすぐったくなっていくのを感じた。
*****
その頃、王都では――
「どうして雨が降らないんですの!」
教会の中で、リリーは必死に祈っていた。
しかし、空は晴れ渡ったまま、雲ひとつあらわれない。
「いつも通り、祈れば良いはずでしょう!」
焦りがにじんだ声が漏れる。
よく手入れされていたはずの唇は乾き切り、かつて艶めいていた金色の髪はどことなくパサついている。
水不足の波は、特権階級である貴族にまで迫ってきていた。
「どうして……お姉様がいなくなっただけで……お姉様は教会になんて一歩も入ったことがなかったのに」
そうリリーは溢し、必死に祈りを続ける。
祈りを受け取ると輝くはずの水晶玉は鈍い光を放つばかりだった。
――王都では、水が金にも等しい価値を持つようになっていた。
「こいつと交換で水をくれ」
女が水売りに子供服を数着差し出した。
「子供が大きくなったら着せようと思っていたんだけどねぇ」
暗い顔で女は溢した。
「良いのかい?これは新品だぞ」
水売りは、服をひとつ広げて言った。
「ああ、もう着せる子がいないからね」
女はため息交じりに答えた。
それを聞いた水売りは、何も言わずに女に水を渡した。
「ありがとう、この水は大事に使うよ」
女はますます暗い顔をし、帰って行った。
その後を、ほこりっぽい乾いた風が吹き抜けていった。
「もう、この国も終わりかもしれんな」
水売りは雲ひとつない空を見上げ、目を細めた。
ヒーロー登場回、いかがでしたか?
次回、忍び寄る不穏な影......
乞うご期待!
最後までお読みいただきありがとうございます。
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。
感想もとても嬉しいです。今後の執筆の参考にさせていただきます。
引き続き、本作をよろしくお願いいたします。




