19話
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重複表現があったので、改稿しました。
翌朝、ライオネルを乗せた馬車は、王都へ向けて港町を離れていた。
ライオネルは、馬車の窓から遠ざかっていく港町を静かに見つめていた。
結局、エウフェミアは戻ってこなかった。
当然だろう。
あれだけのことをしておいて、戻ってきてくれと言う方が厚かましい。
それでも――
「会えて良かった」
ライオネルは小さく呟いた。
馬車はカラカラと車輪を回し、王都へ向かっていく。
どうにか問題が解決はしそうだ、という安心感が、行きよりも一行の空気を軽くしていた。
しかし、ライオネルの胸中は複雑だった。
エウフェミアの初めて見る姿に、身近であった人でも本当の姿を見ることが無かったという事実に、将来の国の長としての未熟さを痛感していた。
自分は王になる人間だ。
それなのに、長年婚約者として隣にいた1人の女性のことさえ理解できていなかった。
ましてや、自分はリリーの言葉ばかりを信じ、エウフェミアの話を聞こうともしなかったのだ。
「情けないな……」
ライオネルの口から、言葉がひとりでに零れた。
食堂で忙しそうに働く姿。
はっきりと自分の意見を口にする姿。
きっと、あれが本来の彼女だったのだろう。
王都にい多頃のエウフェミアは、いつも公爵令嬢として振る舞っていた。
いや、そう振る舞わざるを得なかったのかもしれない。
そう思うと、胸の奥が少し痛んだ。
自分はずっと、完璧な令嬢であることを彼女に求めていた。
王太子妃として。
自分の隣に立つ者として。
ただ、それにふさわしい姿であれば良いと考えていた。
だが、彼女が何を好きで、何を望み、何に傷ついていたのか。
――それを知ろうとしたことは、一度も無かった。
そして、それはエウフェミアだけではない。
自分はいつから自分の目で人を見ることを止めてしまったのだろう。
周囲がそう言ったから。
リリーがそう言ったから。
そんな理由で物事を判断してはいなかったか。
耳にした言葉をそのまま信じるだけなら、国を導くことなど出来ない。
ライオネルは静かに拳を握った。
*****
馬車は王都の門をくぐった。
港町とはあまりにも違う空気に、一行は再び気を引き締めた。
街路には人影が少ない。
開いている店もまばらだった。
井戸の周りには水を求める民が列を作り、その顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。
行き交う人々の頬はこけ、その瞳には光が宿っていなかった。
ライオネルは唇を引き結ぶ。
港町で見た光景とは正反対だった。
あちらには笑顔があった。
だが、この街には焦りと絶望しかない。
「……急がねば」
そして、側仕えへ視線を向けた。
「港町に向かうよう声明を出せ」
ライオネルは命じた。
「今いる王都民を王城前へ集めろ」
側仕えは一瞬言いよどむ。
「しかし、殿下……本当に宜しいのでしょうか」
ライオネルは眉をひそめる。
「何がだ」
「民を王都から退避させるなど……」
王都は建国以来、王国の中心だった。
それを離れるよう命じるなど、前例が無い。
側仕えの戸惑いも無理はない。
だが、ライオネルは首を振った。
「このまま王都に残れば死ぬ」
静かな声だった。
「ならば生きられる場所へ向かわせる」
側仕えは黙り込む。
ライオネルは、王都の現状を目に焼き付けるように窓の外を睨んだ。
王都はもう限界だった。
「王族の役目は体面を守ることではない」
ライオネルは静かに言う。
「民を守ることだ」
側仕えはしばらく黙り込んでいた。
「……承知いたしました」
しばらくして、側仕えは深く頭を下げた。
「直ちに手配いたします」
「ああ」
ライオネルは短く頷いた。
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