20話
アクセスいただき、ありがとうございます。
昨日アップした話に、重複表現があったので、改稿しました。
翌朝、王城前の広場にて、民を集めるための布告が掲げられた。
さらに、その内容が港町方面への移動許可であると知れ渡ると、王都は一気に混乱へと傾いた。
「あんな小さな港町に行ったところで、何が出来るんだよ」
「どこ行っても一緒だろ」
怒りと不安が入り混じった声が、王都中を満たしていった。
そんな民衆の様子を、城の窓からライオネルは見下ろしていた。
そのとき、ドアがノックされた。
「入れ」
入ってきたのは、側仕えだった。
「失礼します」
「報告です」
ライオネルは窓の外を眺めながら続きを促した。
「殿下。布告に対し、貴族派の一部が反発しております」
「どの程度だ」
「『王太子の暴走』と見なす者も」
ライオネルは、鼻で短く息を吐いた。
「好きに言わせておけ」
そして、すぐに視線を切る。
「どうせ奴らは港町に行っても助からない」
その言葉に、側仕えの表情が僅かに強張った。
「……殿下」
呼びかけには、諫めとも戸惑いともつかない色が混じっている。
だが、ライオネルはそれを気にとめることなく、窓の外へ視線を向け続けた。
王都の空は、相変わらず乾いていた。
雲一つない、忌々しいほどの真っ青な色が目に突き刺さるようだった。
「反発している貴族は好きにさせれば良い」
ライオネルは静かに言う。
「そいつらは、民を見ていない。民が大変なとき、貴族が何をした? あいつは、エウフェミアは善良な者だけを助けると言っていた」
側仕えは言葉を飲み込んだまま、次の報告を続ける。
「既に、一部の商人階級は、港町への移動準備を始めています」
ライオネルは目を細めた。
「……判断が早いな」
賞賛でも皮肉でもなく、ただ事実を並べただけの声音だった。
側仕えは続ける。
「はい。しかし一方で、港町への移動に対する不安も強く……」
「当然だ」
ライオネルは即答した。
「今の王都より悪い場所だと考える者がいても不思議ではない」
窓の外では、民衆のざわめきが絶えない。
怒号と不安が混ざりあい、王都そのものが少しずつ軋んでいるようだった。
「だが」
ライオネルは続ける。
「選ばせるしかない」
側仕えは一瞬、言葉を失う。
「選ばせる……とは?」
ライオネルは振り返らないまま言った。
「生きるか死ぬかを、強制で決める権利はない」
短く、そう言い切った。
*****
一方その頃。
王都の空の上、誰にも見えないくらい高くに、薄い水の膜のようなものが揺れていた。
そこから地上を見下ろす影がひとつ。
海の神、オーシャンが静かに王都を見下ろしていた。
周りにはいくつもの光の玉がふわふわと浮かんでいる。
精霊たちだ。
「始めるか。頼んだぞ、お前たち」
そう命令し、精霊たちに力を与える。
次の瞬間、オーシャンの周りの精霊たちが、一斉に地上に向かった。
『みなとまちへ』
『みずがあるよ』
『いどうして』
王都のあちこちで、人々が一斉に顔を上げた。
「……今、何か声がしたか?」
「ああ」
「誰だ?」
誰も答えられない。
だが、その声は不思議と恐ろしくなかった。
むしろ、乾ききった心にしみこむような優しさがあった。
人々は顔を見合わせる。
「……行ってみるか」
「どうせ、このまま王都にいても先は無い」
「港町には水があるんだろう?」
1人が動き出す。
すると、それにつられるように、2人、3人と荷物をまとめ始めた。
やがて、その動きは王都中へ広がっていく。
生きるために、人々は港町へ向かう決意を固め始めていた。
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