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婚約破棄された公爵令嬢ですが、実は水の女神の娘でした~海の神に溺愛されて、王都には戻れません~  作者: 第三次ニート危機


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17話

アクセスいただき、ありがとうございます。


「王都は、限界だ」


エウフェミアの表情が、僅かに強張る。


「雨が降らない」


ライオネルは紅茶へ視線を落とした。


「井戸は次々と涸れた。オアシスは干上がった。農作物も育たない」


言葉にするだけで胸が痛くなる。


「子供や老人から倒れていく。街には、水を求める人々が溢れている。王宮でさえ、水を十分に使えない」


エウフェミアは黙って話を聞いていた。

責めることも、驚くこともなく、ただ、静かに聞いていた。

それがかえってライオネルには苦しかった。


「……そうですか」


彼女は小さく呟いた。


「お前は驚かないんだな」


「食堂にはたくさんお客様が来ますから」


ライオネルは思わず苦笑した。


「そうか」


今更隠せる話ではない。

王都の惨状は、もはや誰の目にも明らかだった。

しばしの沈黙が落ちる。

やがて、ライオネルは意を決したように顔を上げた。


「エウフェミア」


婚約破棄の日以来、初めてまっすぐにその名を呼ぶ。


「私は間違っていた」


エウフェミアの瞳が揺れた。


「……」


「お前の話を聞こうとしなかった」


ライオネルは、爪が食い込むほど強く拳を握る。

王都で彼女を思い出した日々が脳裏を過る。


「だから、謝罪をしたい」


エウフェミアは静かに目を伏せた。


「……今更だな」


自嘲気味に笑う。


「謝ったところで、失ったものは戻らない」


その言葉は、自分自身へ向けたものでもあった。


「それでも謝らせてくれ」


店内が静まりかえる。

窓の外から届く波音が、やけに耳についた。

すぅ、と息を吸って、ライオネルは椅子から立ち上がった。

そして、深く頭を下げる。


「すまなかった」


エウフェミアは、その様子を静かに見つめていた。

そして、おもむろに口を開く。


「頭を上げてください」


ライオネルはその言葉を受け、エウフェミアの目をまっすぐ見つめた。

その瞳は、強く意志を持ったように光っていた。


「許すつもりはありません。でも、恨んでもいません。わたくしたちは、もっとお互いに話すべきでしたね」


ここまでひと息に言うと、小さく息をついた。

そして、ライオネルをまっすぐ見つめる。


「わたくしは、もう王都へ戻りません」


喉の奥の大きな塊を飲み込むように、ライオネルはかすれた声で答えた。


「……そうか」


覚悟していたはずだった。

エウフェミアが戻らない可能性など、王都を出たときから分かっていた。

だが、実際にその言葉を聞くと胸の奥がずしりと重く沈む。


「理由を聞いても良いか?」


ざらざらとした感情を押し込めるように、ライオネルは聞いた。

エウフェミアは少しだけ考えるように視線を落とした。


「ここには、わたくしを必要としてくださる方が居ます」


静かな声だった。

しかし、その言葉には迷いが無かった。


「店長も、港町の皆さんも、わたくしを優しく受け入れてくださいました」


ライオネルは黙って聞く。


「それに」


言葉を切り、エウフェミアは窓の外へ目を向けた。

穏やかな海が、陽光を受けてきらきらと輝いている。


「わたくしは、ここで初めて自分の意志で生きることが出来ました」


その横顔は、穏やかだった。

王都での彼女は、ずっと何かを我慢しているかのように無表情だった。

だからこそ、ライオネルは理解してしまう。

彼女にとって、この場所こそが帰る場所なんだ、と。


「……そうか」


ライオネルは静かに目を伏せた。


「だが……」


ライオネルは、少し迷う。

これを言ってしまうと、彼女に負わせなくても良い責任を負わせてしまう。

王都を追われた彼女に、自分たちが傷つけた彼女に、本来なら頼る資格などない。

だが、今も王都では人々が苦しんでいる。

活気が無く乾いた王都の街並みが脳裏を過った。

ライオネルは唇を噛みしめた。


「……王都には、まだ多くの民が残っている」


エウフェミアは黙って続きを待っていた。


「私は王太子だ」


自分に言い聞かせるように呟く。


「だから、彼らを見捨てることは出来ない」


しばしの沈黙。

その後に、ライオネルは深く頭を下げた。


「どうか、力を貸してくれないか」


エウフェミアは、すぅ、と息を吸った。


「わたくしは、戻りません。戻りたくありません。ですが……」


ここで、思わずライオネルは頭を上げた。

エウフェミアの揺れる瞳を見つめる。


「ですが、王都の方々を見捨てるつもりはありません。水不足は、罪の無い方々まで苦しめています。善良な方々は助けましょう」


ライオネルは息を呑んだ。


「……感謝する」


その言葉しか出てこなかった。


「港町まで来られる方は、受け入れます」


エウフェミアはライオネルに伝えた。

ライオネルは静かに答える。


「わかった。重ね重ねではあるが、感謝する」



最後までお読みいただきありがとうございます。

もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。


感想もとても嬉しいです。今後の執筆の参考にさせていただきます。


引き続き、本作をよろしくお願いいたします。

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