16話
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しばらく、2人は何も言えなかった。
潮風だけが静かに吹き抜けていく。
探し続けていた相手が、目の前にいる。
ライオネルは無意識に拳を握りしめた。
エウフェミアは、困惑したように瞬きを繰り返している。
「……久しぶりだな」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほどかすれていた。
「殿下……? どうしてここに?」
エウフェミアはおずおずと問いかけた。
ライオネルはすぐに答えることが出来なかった。
本当なら、会えたら伝えたい言葉はいくつもあったはずだ。
だが、いざ本人を目の前にすると、どれも言葉にならない。
目の前のエウフェミアは、王都に居た頃よりも穏やかな表情をしていた。
ざぁっと風が吹き、彼女の銀髪を揺らした。
その姿を見ていると、自分が踏み込んではいけない場所へ来てしまったような気さえした。
「……お前を探していた」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
「私を……?」
エウフェミアは戸惑ったかのように目を瞬かせた。
ライオネルは唇を噛んだ。
目の前のエウフェミアを見ていると、王都の惨状が脳裏をよぎる。
枯れた井戸、この話をしている今も苦しんでいる民、日々増え続ける死者数。
「……王都に戻ってきてくれ」
気付けば、そう口にしていた。
エウフェミアは目を見開いた。
言葉を失ったように唇が開き、何かを言いかけては閉じる。
しばしの沈黙の後、エウフェミアは小さく息を吐いた。
「立ち話も何ですから、とりあえず中へ入りませんか?」
エウフェミアは、ライオネルを店内に誘った。
*****
「お茶をお持ちします」
客払いをした店内で、エウフェミアはライオネルを席に案内した。
「いや……結構だ」
ライオネルは断るが、エウフェミアは譲らない。
「お客様ですから」
王都にいた頃の彼女は、こんなふうに自分の意見をはっきりと口にしていただろうか。
ライオネルは少し目を見張った。
かつてのエウフェミアは、いつも一歩引いていた。
誰かに何かを頼まれれば断れず、自分の望みを口にすることも少なかった。
だが、今目の前に居る彼女は違う。
穏やかではあるが、自分の意志で動いている。
「……分かった」
根負けしたライオネルがそう答えると、エウフェミアは小さく微笑んだ。
「少々お待ちください」
エウフェミアは、奥へ下がり、何事か店主と話している。
「店長、この店で一番良い紅茶の葉ってどこにありましたっけ?」
「その戸棚の一番上だよ」
「ありがとうございます」
「知り合いかい?」
「ええ、昔の」
ライオネルは静かにその言葉を聞いていた。
昔の知り合い。
それが今の自分とエウフェミアの関係なのだろう。
間違ってはいない。
かつては将来を誓うはずだった相手。
だが、婚約は解消された。
いや、そうではなく、自分が婚約を破棄してしまった。
彼女のことを何一つ理解しようとしなかった。
そう思うと、胸の奥に鈍い痛みが走った。
エウフェミアは慣れた手つきで茶葉を用意している。
王都に居た頃は見たことのない姿だった。
自分は、彼女の何を知っていたのだろう。
「お待たせしました」
ライオネルは自身の目の前に差し出された紅茶を静かに見つめた。
「それで、殿下」
エウフェミアはライオネルの向かいに腰掛け、静かに問いかけた。
「先ほどのお話の続きを伺ってもよろしいでしょうか?」
ライオネルは返事をする前に、静かに目を閉じた。
――どこから話すべきなのだろう。
そして、ゆっくりと口を開いた。
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