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自信のない男

 せっかくの久しぶりのベッドだったが、リクはなかなか眠れなかった。


 パーティーを追放されて、前世の記憶を思い出してから、これまでのことを振り返った。


 昼は物資集め。

 夜は拠点の整備。

 忙しい日々だった。


「……疲れた」

 小さく呟き、天井を見る。

 木造の古い天井。

 知らない世界。

 知らない人生。


 今は、前世の自分ばかり思い出していた。

「今更か……」

 リクは苦笑する。


 子供のころから、自分にはずっと“何か”が足りなかった。

 理由のない不安。

 漠然とした恐怖。

 将来への絶望。

 何をしていても、

 「どうせ上手くいかない」

 そんな感覚が心の奥から消えなかった。

「……そりゃ、自信なんて持てるわけないよな」

 思わず笑ってしまう。


 だって、田舎の平凡な農家の息子だった自分が、

東京の大学へ入り、周囲に必死で食らいついて来た。

 そして、なんとか国家公務員になって、毎日潰れそうになりながら働いて、最後には異世界へ転移だ。

「人生ジェットコースターすぎるだろ……」

 普通なら途中で折れる。

 むしろ今まで壊れなかった方がおかしい。

 リクは目を閉じた。


 大学時代を思い出す。

 周囲は頭の良い連中ばかりだった。

 都会育ち。

 裕福な家庭。

 自信満々な人間たち。

 その中で自分だけが、いつも場違いに思えた。


 必死に勉強して、空気を読んで、置いていかれないように必死だった。

 国家公務員になってからも同じだ。

 周囲は優秀だった。

 自分より頭が回る人間など、いくらでもいた。


 ミスをしないよう神経を擦り減らし、怒られないよう空気を読み、潰れないよう必死に耐える。

 そんな毎日。

「……何やってたんだろうな」

 気づけば、小中学校の友人たちとも疎遠になっていた。

 地元へ帰ることも減った。

 連絡を取る相手もほとんどいない。

 思えば。

 ずっと孤独だったのかもしれない。

「ひとりぼっち、か……」

 ぽつりと呟く。

 でも、不思議と今は少し納得していた。

 たぶん自分は。

 本能的に分かっていたのだ。

 “普通の人生では終わらない”と。

 だからずっと不安だった。

 だからずっと自信が持てなかった。


 未来が見えないのではなく。

 見えすぎて怖かったのかもしれない。

「……運命ってやつかねぇ」

 リクは苦笑した。

 そして、ふと天城家のことを思い出す。

 名家ではない。

 田舎によくある普通の家系だ。

 それでも、何代も続いてきた。

「俺の代で終わるのか……」

 少しだけ胸が痛む。


 結婚もしていない。

 子供もいない。

 異世界へ来た今、もう戻れる保証もない。

 ご先祖様には申し訳ない気もした。


「……よく今まで続いたよな」

 歴史の中には、飢饉もあっただろう。

 戦争もあっただろう。

 貧しくて明日を生きるのも必死だった時代もある。

 夜盗に襲われた者もいたかもしれない。

 病で若く死んだ者もいたかもしれない。

 そんな無数の偶然を乗り越えて、

 か細く繋がってきた命。

 それが、自分だった。

「……すげぇな」

 平凡な家系でも、ここまで生きてこれた。

 それだけは事実だった。


 リクはゆっくり目を閉じる。

 窓の外では、異世界の夜風が吹いていた。

 どこか遠くで、人々の笑い声が聞こえる。

「……まあ、いいか」

 今さら完璧な人間にはなれない。

 自信満々な英雄にもなれない。

 それでも、不安を抱えたままでも、生きてはいける。

 少なくとも今は、一人ではない。

 ユーコもいる。

 それだけで、少しだけ救われる気がした。


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