試作品
今日は、塩の試作品が完成する日だった。
俺とユーコは朝から孤児院へ向かっていた。
塩の製造作業は、孤児院の隣に新しく購入した土地で行われている。
孤児院に到着すると、シスターが笑顔で出迎えてくれた。
「リク様。ユーコ様。お待ちしておりました。」
丁寧に頭を下げるシスターに対し、ユーコは少し居心地が悪そうに頬をかいた。
「様は要らない。こそばゆい。」
元々貴族でも王族でもない彼女にとって、『様付け』はどうにも慣れないらしい。
シスターは苦笑しながら俺たちを作業場へ案内してくれた。
部屋の中央には木の机が置かれ、その上に完成した試作品が並んでいた。
「こちらが試作品です。」
そこには桐の箱と、ガラス瓶に詰められた塩。そして塩そのものが小皿に盛られていた。
俺は瓶を手に取る。
中には雪のように白く輝く塩が詰まっていた。
「おお、真っ白でサラサラしていますね。」
瓶を傾けると、塩は詰まることなく滑らかに流れ出る。
湿気による固まりもない。
品質としては十分だった。
「いい出来だな。」
ユーコも満足そうに頷く。
次に桐の箱を確認した。
高級感があり、贈答品としても申し分ない。
だが、瓶を入れてみると――
カタッ。
小さく音が鳴った。
「ちょっとカタカタするか……。詰め物が必要だな。」
輸送中に割れる危険がある。
俺はユーコを連れて一旦庭へ出た。
そこには春の日差しを浴びた白い花が、一面に咲いていた。
「これは俺の国では、シロツメクサと言うんだ。」
俺は花を摘みながら説明する。
昔、外国から運ばれてきたガラス製品を守るため、箱の隙間にこの花を乾燥させて詰めたことから『詰草』と呼ばれるようになった。
「なるほどな。」
ユーコは感心したように花畑を見渡した。
俺は箱の緩衝材に使う分のシロツメクサを集める。
そして、ふと思いついた。
集めた花の中から綺麗なものを選び、器用に編み込んでいく。
「何を作っている?」
「見てろって。」
やがて完成したのは、小さな花冠だった。
俺はそれをそっとユーコの頭に乗せる。
白い花々が銀色の髪によく映えた。
「似合ってるぞ。」
ユーコは一瞬だけ目を丸くする。
そして照れ隠しのように顔を背けた。
俺はさらに大げさに片膝をつき、手を差し出した。
「ユーコ様。私とダンスを踊って下さいませんか?」
貴族の舞踏会で見たような仕草を真似してみる。
庭に吹く風が花を揺らした。
ユーコは耳まで赤くしながら俺を見た。
「……アホ。」
そう言った声は、いつもよりずっと小さかった。




